AWC 真実の記憶 8          御乃字


        
#3283/5495 長編
★タイトル (MPN     )  96/ 5/23  22: 4  (146)
真実の記憶 8          御乃字
★内容
「そうか、それであんなことを言っていたのか・・・」
コンラッドが2人に説明いている間にも、ミリアムは崩れた土砂を見つ
めていた。父親を見付けたいというまなざしは、ミリアムに一つの希望
を見い出した。
「お・・・親父!!!」
刺繍の入った手袋が、土砂から顔を覗かせているのを発見したのである。
それを確認したミリアムは、近くの資材置き場にあったロープを、体に
巻きつけて反対側を木に結んだ。
「まってろ、今すぐに引っ張りだしてやる!」
そう言うと、無謀にも土砂に飛び降りた。
「ミリアムー!」
土砂がどんな状況になっているのかを知っているホフマンは叫んだ。土
砂はまだ固まっておらず、下手に足を踏み入れようものならば、体はそ
の中に埋もれる。身動きなどできない程に粘着力もあり、恐らく、自力
で抜け出す事などできないだろう。
「うく・・・くそぅ」
土砂は、底無しのようにミリアムの体を沈ませてゆく。だが、かろうじ
て手袋を掴んだミリアムは、その感触から、抜け殻ではない事を悟った。
片手ではロープをつたうのが困難である事に気づいたミリアムは、更な
る絶望感に苦しみ始めた。2人はずるずると土砂に沈んでゆくのを尻目
に、レスキューは未だ辿りついていなかった・・・
「お父さん!」
「ああ、わかっている!」
ホフマンは選んだ。もしもロープが切れたら、2人は帰らぬ人となる事
になるし、ほおっておけばそのまま土砂に埋もれるだけ。そう、同じ事
なのだから・・・。
ホフマンは、力の全てを両手に託し、張りつめているロープを奥へと引
いた。しかし、すでに沈んでしまっているベルと、頭が見えなくなりつ
つあるミリアムを引き寄せるには、まだ力不足である。
”ビッ・・・”
ロープの最大加重を大幅に超えていたようで、引っ張るホフマンの手前
で、ロープは音を響かせ始めた。しかし、引き上げる事で精一杯のホフ
マンにはその音を聞きそびれた。
不幸にも、ミリアムの肩が見え始めた頃、ロープは無惨にも絶断された。
「!!」
クリスはそれを一早く察知し、飛び込むような勢いでその切れた先の方
を手に掴んだ。体半分を崖から乗り出している状況で、魂身の力を込め
て全てを右手に託した。
「だ、大丈夫か?!今・・・」
「駄目!今おさんが来れば、地面が崩れるわ!レスキューが来るまでは
 何とか持ち応えてみせます!」
しかし、未だレスキューは姿を見せていなかった・・・。
土砂の向岸で立ち往生を受けているのである。装備は整っていたが、こ
の土砂を通過する程の物は持ち合わせていなかったのである。まさか、
反対側に到着するなど、考えもしなかった事。土砂の為に道が変化した
のだろう。
”バラバラバラバラ・・・”
「ヘリだ!ヘリが来た!」
ミリアムの乗ってきたヘリではなく、レスキューのヘリである。ヘリの
中から一人のレスキュー隊員がいち早くクリスの手からロープを取ると、
一気に引き上げた。するとどうだろう、ミリアムの手には父親の姿があっ
たのである。しかも、意識を失いつつも、掴んだ手をしっかりと離さず
にいたのである。
「お、おお・・・お父上様までも・・・」
それを見たコンラッドは、ただただ泣き崩れていた。

@@@

 無事に戻ったミリアムが目を覚ましたのは、それから1時間程後だっ
た。レスキュー隊員の中に、医師がいたらしく、すでに応急処置は終わっ
ていた。無数の傷はあるものの、大した怪我ではなかったらしい。
「土を飲んでいないようですし、まあ2人とも大した事はないでしょう。
 しかし、お子様の方は少し頭を打っているようですので、精密検査を
 受けたほうがいいですね」
たんこぶができているのに気づいたミリアムは、そっと頭を触った。
「あ、おやじ?!」
回りを見渡したが、ベルの姿が見当たらない。後ろに気配を感じたミリ
アムは、そっと振り返った。
「ミリアム・・・」
そこには父親であるベルが座っていた。
「親父・・・いや、父さん・・・」
記憶が入り混じっているのは、ミリアムにもわかった。
「わかってるさ」
痺れをきらしたシーナが、ヘリを近くに寄せていたらしい。ベルを見た
とたん、勢い良く掛け出してきた。
「ねぇ、どこか行くのでしょう?早くいきましょう、もう待つのはごめ
 んですわ!」
 真実を知らなかったのはシーナ一人、そして、知らなくても良いもの
を知ってしまったのはミリアムただ一人だった。
ホフマンは、気を利かせたいらしくふと呟いた。
「ここは後でなんとでもできるさ。親子水いらずで行ってきなさい」
ベルは、その言葉がなんとも謙虚に思えたらしい。
「いや、クレセント一家も同行すべきだ。この騒ぎで一番被害を被った
 のはあなた方なのだから・・・」
「ふむ、では我々はとりあえず怪我人も出なかったようですし、撤退し
 ましょう」
そういうと、レスキュー隊員達はヘリに急いだ。一番気を利かせたのは
彼らのようである。
「さあ、私達も!」
ベルはホフマンの背中を押し、ヘリに乗り込ませた。
「ははははは」
皆、笑っていた。

@@@
@@@
@@@

真実、それは果てしなく大きい。
誰一人として語ることの無い、記憶の奥底に眠る真実の記憶は、
心の中で囁く・・・

人だけになく、
自然に語り継がれる今の記憶が嘘であろうと、なかろうと、

真実の記憶だけが知っている。

今の記憶が真実であればいい、そう思ったミリアムだった。

fin・・・
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
<後詩>

真実とは何か、それは果てしなく、時に不可解なもの
真実は語る、語るとは何か、人々が色々なものと引替
に記憶の奥底に追いやった話・・・

主人公は、記憶と引換にそれを手に入れた。真実を知っ
た彼は、全てに報い、一つの真実に歩み寄る・・・

生物が知ってはならないもの、
それは真実。

知らないわけではない、深層心理の更に奥底に封され
た時に混在する中の一つの記憶、それが真実。

そして、真実の記憶は澄んだ心に住む宝石−

宝石は、時にありがとうと囁き
時におめでとうと囁き
時にさようならと囁く。

生を受けた時から光輝き
そして、終末に輝きを失う・・・

真実の記憶は語る、語るとは何か、何を語るのか・・・
それは、真実の記憶のみが知っている。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
<後書き>

 文中に、カプリチオという狂想曲がありますが、たしかちょうどTV
 かラジオで聞いていて、取り入れてしまいました(笑)
 現在では記憶の隅にも存在しない曲です(ーー;

 とりあえず、これにて終章〜(^^)





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