#3282/5495 長編
★タイトル (MPN ) 96/ 5/23 22: 3 ( 85)
真実の記憶 7 御乃字
★内容
ここはどこだろう・・・。
花の咲いた野原の向こうに、一つ、小屋が顔を覗かせている。どこから
ともなく聞こえてくるせせらぎ、なんだか懐かしい。盆地のような感じ
で、回りは全て山に囲まれている。
小鳥のさづりの中、吸い込まれるように小屋に足を踏み入れた。
辺り一面は一瞬で工事現場の風景に変わる。花は根こそぎ抜き取られ、
川には汚泥が流れ込み、その近くには悪臭を香らせるゴミが敷き詰めら
れていた。
「・・・・ミリー・・・」
「・・・ミリアム・・・」
誰かが自分を呼ぶ声、頻りに何かを伝えようとしていたと気づいた時、
その声も消えていった。目の前にはブルドーザによって削られ、斜面の
地盤が緩んだ所があった。ふと、地響きが始まった。山崩れは、その勢
いからその場の全てを埋め尽くした。もちろん、小屋も、作業者も、そ
して自分さえも・・・
「うわああああああ!」
ミリアムはベッドから転げ落ちた。そこには、土砂ではなく自分の部屋
が広がっていた。
「ゆ、夢・・・か・・・・」
汗が首筋を流れるのをぬぐううと、汗で濡れた服を着替えた。ミリアム
は、とりあえず夢であることを確認したかったが、こんな事を確認する
事はできないな、と一人笑っていた。
ふと、TVモニターに映像が流れているのに気づいた。そこには、コ
ンラッドが一人野原に立ち竦んでいる状況に見える。なんだか見覚えの
ある風景。音量がゼロになっているのに気づいたミリアムは、急いで最
大まで上げた。
「・・ム様、ミリアム様!聞こえないんですか?!」
TVのニュースではなく、直接デリンガー家の通信網を使っていようだ。
「ああ、聞こえている。どうした、何かあったのか?」
「お父上様が現場視察の際、山崩れに巻き込まれて・・・」
@@@
コンラッドの言うことによれば、ベルは作業中の数人が被害に遭う瞬
間、素早く先導したが、数メートルの差で自分がその対象となってしまっ
たらしい。レスキューはすでに現場へと向かっているはずなのだが、ど
うも時間がかかっているらしく、まだ到着に至っていない様子。
「急いでくれ!まだ浮上できないのか?!」
屋上のヘリポートで燃料を注入している技師に叫んだ。死んでしまって
は困る、今はうるさい存在であっても、父親としてのベルはかけがえの
ないものなのだから。
「終わりました、急いでお乗りください!」
さっそうと乗り込んだミリアムは、すぐに離陸するように命じた。中型
のヘリだが、中は広い。きっと怪我人を乗り込ませるだけの余裕はある
だろう。ふと、後ろを覗いたミリアムは、その奥にシーナが乗り込んで
いたのに気づいた。
「何かあったのですか?楽しい事を一人じめにするなんて」
「ば、ばかやろ・・親父が−」
「お父様がどうかしたのですか?」
「あ、いや、待ちくたびれているだろうなって・・・」
真実はまだ教えられない。本当ならば、家に置いていきたかったが、
すでに飛び発ってしまってからの事、今更戻るには時間が無い。しかた
なく同行させた。ヘリは、晴れ渡った大空を、例の山に向かって飛んで
いった。
@@@
「ミリアム様!ここでございます!」
ヘリの音に混じって、コンラッドの声が耳をついた。ミリアムは地上
を眺めた。確かに下は大変な事になっている。山の半分は抉るように崩
れ、建設機器は脆くも土砂から顔を覗かせていた。
ヘリはホバリングをしながら待空、手袋を握りしめながら座席から立
ち上がりったミリアムは、シーナに遠くで待つよう命じるとロープを垂
らすと下へ降りた。ヘリはそのまま着陸できる場所まで降りていった。
「おい!親父はどこだ?!」
ミリアムは回りを見渡すと、コンラッドを睨みつけた。
「しかし、危険極まり無い場所にて・・・レスキューをお待ちになられ
たほうが・・・」
「うるさい!つれてゆけ、さあ!!」
しかし、コンラッドは頭を横に振るばかり。根気に負けたミリアムが我
に返ったのは、それからすぐの事だった。現場は瓦礫、自然は無残にも
刈られたあと・・・
「お・・・親父・・・」
絶望の縁に立っていたミリアムは、その場からぴくりとも動こうとはし
なかった。記憶には記されていないものの、潜在的な意識には、空しさ
が込み上げていたのだろう。夢で見た風景がもう一度見てみたい、そう
考えていた。
ふと、誰かがミリアムの肩を叩いた。
「ミリー・・・元気だして。まだ死んだわけではないのですし・・・」
「そうだ、君は決して遅かったわけではない。レスューが来て、真実
を知る権利もある。見守る事も一つの真実だ」
ホフマンとクリスであったが、無論、記憶に残っているわけでもなく、
また誰が久しぶりで懐かしくても、今はそんな状況ではなかった。
「誰だ、あんたら・・・」
考えもしていなかった答えに、ホフマンとクリスは唖然としていた。