AWC ハンドルネームはカイン 1   永山


        
#3203/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 2/25  13:34  (163)
ハンドルネームはカイン 1   永山
★内容
 パソコン通信ネットの一つ、「フレンドリー」にも、他の大手ネットによく
あるような一般掲示板があります。その内の募集ボードに書かれたあるメッセ
ージの見出しは、なかなか素敵です。

1654  95/ 5/ 7
募集>交換殺人しませんか?   カイン

 ジョークとしてなら、結構、いい線行っているかもしれません。これを読ん
だたいていのネットワーカーも、そう思うのでしょう。続いてその内容を読ん
でやろうという人間が、かなりの数です。
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>#1654/1702 募集ボード
●タイトル (*KN38942)  95/ 5/ 7   4:44  (  5)
募集>交換殺人しませんか?   カイン
●内容
 メッセージを読んでくれてありがとう。私はカインと言います。
 交換殺人について、今ここでは、何も説明いたしません。興味のある方は、
あなたが殺したいと考えている人間一人の名前や住所、年齢、職業等、詳しい
プロフィールを、電子メールの形で私に知らせてください。当方が応じられそ
うな条件の方に限り、返事を差し上げたいと思います。どうか、よろしく。
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 折角の見出しも、内容がこれでは拍子抜けの気があります。ジョークならジ
ョークに徹してくれないと、面白くありません。心の底から楽しめない。
 それでも、面白半分に話を合わせてやろうと考える連中は、まだまだいるよ
うで、IDナンバー*KN38942のカイン宛に、いくつかの電子メールが
舞い込みました。もう一ランク上のジョークが待っていることを期待したもの
か、はたまた本気で交換殺人に興味があってのことなのか、それは様々です。
 青山君−−ハンドルネームは『ブルーマウンテン』−−が送ったメールは、
前者が九割、後者が一割といったところでしょうか。ほとんど遊びのつもりで
出したのですが、殺したい人物については、本気で死んでくれればいいと青山
君が心中で願っている人間の名を書いたのです。もしかしたらカインという人
が殺してくれるかも−−淡い思いがあったかもしれません。
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>#10042429         95/ 5/ 7    23:42:51
発信者:*PT70561      ブルーマウンテン
受信者:*KN38942      カイン
文書名:僕が殺したい相手
 初めまして、カインさん。募集ボードで、交換殺人のメッセージを読みまし
た。僕はブルーマウンテンこと青山と言います。どちらの名前で呼んでくださ
っても結構です。
 何はさておき、僕が殺したい人間のプロフィールを書きましょう。

 金田典明(かねだ のりあき)
 二十歳 男
 身長およそ一七七センチメートル 体重およそ六〇キログラム
 Q大学経済学部経済学科三回生
 成績は上の下ぐらい
 映画研究会に所属 同クラブの副部長
住所:*****************
   TEL**********
下宿:*****************
   TEL**********

 以上のようなところで、よろしいでしょうか。不足な点があれば、言ってく
ださい。

 僕自身のことも自己紹介しようかと思いましたが、今の段階ではやめときま
す。

 もし、お眼鏡にかなえば、連絡ください。待っています。
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 そんな青山君でしたが、一方で慎重を期す面も持ち合わせています。メール
を出す直前に、カインのプロフィールを見ておこうと彼は考えました。プロフ
ィール−−ID所有者各自が自己紹介するための機能。相手のことを知りたか
ったら、ここを読めばよろしい。もちろん、プロフィールに何の文章も登録し
ていないパソコン通信者も大勢いるし、書いてあってもそれが真実かどうか分
からない。青山君は正直なところをプロフィールに記していました。
 果たして、カインはプロフィールを登録していませんでした。犯罪めいたこ
とを始めるのでプロフィールを消したのか、それとも最初から登録していなか
ったのか、分かりません。
 相手のプロフィールが分からないことに不安を感じましたが、結局のところ、
青山君は気楽に考えることに決めました。どうせ、面白半分で電子メールを出
すのだ。カインの奴が本気でなくて、メールをもらいたがっているだけの人種
ならばそれでいいし、万が一にも本気だとしたら、相手にしなければいいんだ。
どちらにしても、ちょっとした暇つぶしになることに、変わりはない。−−全
く、お気楽です。
 彼はすぐさま、電子メールのコーナーに行き、メール送信を選択します。宛
先となる相手のIDナンバー−−*KN38942を入力する。続いて、用意しておい
た文章を送信、回線が混み合っている割には早く完了した。これで電子メール
が、青山君からカイン宛に送られたことになり、あとはカインがいつ読むか、
だけ。
 二日が経過して、再び「フレンドリー」に行ってみると、『メール到着』と
いう表示がありました。
 もしや、と期待しながら、早速、電子メールコーナーに移動する青山君です。
メール受信を選ぶと、未読の電子メールが一通あるとの表示。送信者名はカイ
ン。文書タイトルは、「他言無用」となっていました。すぐにメールを読みた
い青山君は一度、パソコン通信のコマンド操作を間違えてしまいました。
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>#10049990         95/ 5/ 9    18:29:43
発信者:*KN38942      カイン
受信者:*PT70561      ブルーマウンテン
文書名:他言無用
※以下のことは他言無用。決して第三者に漏らさぬように。

 青山さん、初めまして。あなたが殺したがっている人間が、私の希望する条
件にかなったので、こうしてお知らせします。
 条件とはつまり、私がこの金田典明なる男を殺すことが可能である、という
一点に絞られます。肉体的な条件や性格、年齢、趣味、さらには地理的条件も、
その中には含まれます。
 あなたの他にも、何人かの方から、交換殺人に応じてもいいというメールを
いただいたのですが、あなたの書いた金田典明ほど好条件の人物は、見当たり
ませんでした。よって、私はあなたを選びました。
 改めて、はっきりと言いましょう。
 交換殺人をしませんか?
 引き受ける気があろうとなかろうと、一週間以内に返事をください。引き受
けてくださる場合、そのあとで、私の殺したい相手を教えます。
 最後に、再度念押ししておきますが、この話は他言無用のこと。
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 青山君は画面上でカインからのメールを読みながら、同時に、手元のフロッ
ピーディスクに読み込ませていました。通信を終えたあと、ワープロ上でじっ
くりと読むためです。
 ははあ。まだお遊びを続ける気か。面白いじゃないの−−楽しくなった青山
君です。
 つきあってやろう、このカインに。よし、とにかく、交換殺人に同意すると
いうメールだけ、すぐに出しておこう。
 この冗談の最後のオチを知りたい。そんな気持ちで青山君は、メール送信を
選び、短いメッセージをカイン宛に送りました。
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>#10050013         95/ 5/ 9    21:00:14
発信者:*PT70561      ブルーマウンテン
受信者:*KN38942      カイン
文書名:OK!
 ありがとうございます。引き続き、詳しいことを知らせてください。
 待っています。
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 返事はとても早かった。ちょっと計算してみると、三時間ほどで応答があっ
たことになるのですから。青山君もこの辺りで、カインの『熱意』を感じ取る
べきだったのでしょうが……。
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>#10050087         95/ 5/10     0:20:05
発信者:*KN38942      カイン
受信者:*PT70561      ブルーマウンテン
文書名:私が殺したい相手
 早い返事をありがとう。早ければ早いほど、私としても助かる。
 さて、私ことカインが殺したい相手のプロフィールだ。青山君(君のプロフ
ィールを読んで、君が年下だと分かったので、こう呼ばせてもらうよ。これは
親しみを込めてのことだから、気を悪くしないでくれたまえ)の書き方に倣っ
て、こんなものでどうだろう。

 新山和也(にいやま かずや)
 四十四歳 男
 身長およそ一六九センチメートル 体重およそ六十六キログラム
 (株)M商事 渉外部企画課課長
 タバコ・酒ともに好む 糖尿病の気あり
 スポーツ歴なし 趣味音楽鑑賞
住所:*****************
   TEL**********
下宿:*****************
   TEL**********

 取り急ぎ、必要事項のみ。
 この男を殺せるかどうか、よく検討した上で、回答してほしい。期限は前と
同じく、一週間。
 引き受けてくれるのであれば、いつ、殺せるのかを知らせてもらいたい。無
論、正確な日時でなくてもかまわない。大まかなところを教えてほしい。それ
に沿って、私も計画を確立するつもりだ。
 それでは、いい返事を期待している。
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 メールを読み終わると、青山君はすぐに、返事の文面を考え始めました。彼
にとって、交換殺人について考えることは、もはや日課。楽しい遊びの一つな
のです。

−−続く




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