AWC サンタクロースはヒットマン(終)            悠歩


        
#3177/5495 長編
★タイトル (RAD     )  95/12/25   0:44  ( 82)
サンタクロースはヒットマン(終)            悠歩
★内容

 驚きのあまり、大きな声を出してしまったので、少女にも気付かれてしまった。
 少女は康平の視線を追って、それを見る。
 康平の視線の先には、小さな包みがあった。
 小さくて綺麗に包装された包み。可愛いリボンが掛けられている。
「どうして、こんなところに」
 ずっと中身の思い出せないでいた、姉からのクリスマスプレゼント。それが今、
康平の手の中にある。十何年も前になくしたはずなのに。
 もう一度、後ろに手を回してみるが、壁と背中の間には、もう何もない。もしか
すると、拳銃など初めから無かったのかも知れない。
「メリークリスマス、これはクリスマスプレゼントだ」
 迷う事無く、康平はその包みを少女に差し出した。
 中身が何だったのかは、もう良かった。
 これはきっとこの子に渡すため、あの時の康平が預かった物なのだ。康平はそう
思った。
「わたしに?」
「ああ」
「もらっていいの?」
「俺はサンタクロースだぜ。君にこれをあげる為に、ここにで待っていたんだ」
 いつもの康平なら、途中で反吐を吐きそうになる科白が自然に口をついて出てく
る。
「いつかきっと、君とコウちゃんが一緒に暮らせる日が来る。だから少しだけ、ほ
んの少しだけ我慢をするんだ」
「うん、ありがと。サンタさん」
 少女が微笑んだ。
「やっぱり、姉さんは笑っている顔が、一番だ」
「えっ? 姉さん」
「ん、いや、なんでもない」
「私ね、知ってたの」
「?」
「駅でね、募金してくれた時から、この人が本当はサンタクロースなんだって事、
なんとなくわかってたの」
 少女も、あの瞬間から康平を気に掛けていた。
 なぜ康平をサンタクロースだと思ったのか、理解出来なかったが、嬉しかった。
「ねぇ、プレゼント、開けていい?」
「ああ」
「なにが入ってるのかしら」
 少女は、そっとリボンに手を掛けた。


「本当に何が入っていたんだろう」


「コウちゃん、コウちゃん、コウちゃんってば」
 元気な少女の声。
「えっ………どうして………」
 いつの間にか康平は暖かな布団の中にいた。
「やっと起きた。コウちゃんたら、ねぼすけさんなんだから」
 ちょっと怒ったような少女の顔が、康平の前にある。
 いったい、何が起きているのか理解出来ない。
 はっとして飛び起きて飛び起き、右足を見る。
「けが………けがが………」
「どうしたのコウちゃん、足、けがしたの?」
 心配そうに少女も康平の足を見た。しかし、何処にも怪我などしていない。
「どこもけがなんて、してないじゃない。まーた、寝ぼけてるなあ」
「あれ、君、いつの間に」
 少女の視線が康平より高い位置に有る。康平は少女より幼い自分に、初めて気が
付いた。
「こら、コウちゃんは、いつからお姉ちゃんのことを、『君』って呼ぶようになっ
たんだあ」
「二人とも、もうすぐご飯ですよ」
 どこからか二人を呼ぶ声がする。
「はーい、お母さん、すぐいく。コウちゃんたら、まだ寝ぼけてるの」
 耳を澄ましてみると、とんとん、とんとん、軽やかなリズムでまな板を叩く包丁
の、懐かしい音がする。
「あら、コウちゃん、ほら。サンタさんからプレゼントがあるよ」
 少女に言われて、それまで自分の寝ていた枕元を見ると、リボンを掛けた小さな
包みが置いてあった。
「ほら、開けてごらん」
 康平は、包みに手を差し延べて、すぐに思いとどまった。
「どうしたの」
「まだ、いいの。開けなくて」
 開けなくても良かった。
 康平は、最高のクリスマスプレゼントをもらった事を知っていた。
「お姉ちゃん、はやくいかないと、ごはん、さめちゃうよ」
 そう言って、康平は駆け出した。
「あ、待ちなさい。ちゃんと着替えてから」
 少女がその後を追った。

                           終わり






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