AWC クリスマス×イブ 2   永山


        
#3171/5495 長編
★タイトル (AZA     )  95/12/24  21:25  (183)
クリスマス×イブ 2   永山
★内容
「それは困るな、ははっ。まず、食べ物について、標準的な物を選ぶってのは、
目の前の現実を参考にしたまでだよ」
「え?」
「君は、この店のバラエティ豊かなメニューを前にして、イチゴのショートケ
ーキとミルクティを注文した。いかにも標準的じゃないかな」
 言われてみれば……。だけど、ちょっと悔しいから、反論してみる。
「で、でも、今まで目新しいメニューばかり食べてきて、もう飽きていた。だ
から、今ぐらいは普通の物をって考えたかもしれませんよ。あるいは、おごっ
てもらうにしても自分で払うにしても、安いのにしておこうと思ったとか」
「それはない。断言してもいい。何故なら、マリアさん。君はさっきまで、泣
いていた女の子だよ。そういう感情の嵐にさらされた直後の人間が、変に気を
回すなんて、まず、できないさ。まあ、君が鏡で自分の顔を見たのなら、状況
は変わってくるかもしれない。女性は自分の顔を鏡で見ると、途端に客観的に
なれる傾向があるようだから」
「はあ……。じゃあ、左利きっていうのは?」
「これが一番、簡単。左利きの人は右手に腕時計をする場合が多い。それだけ
のことだよ」
 思わず、自分の右手首を返して、そこにある腕時計を見つめてしまった。
「中学生ぐらいなら、キャラクターグッズの腕時計をしていることもあるから、
助かるんだけど、君のは普通の絵柄だった。ちょっと困ったけど、ヒントは君
がさっき、握りしめていたカードにあった。『***』というタイトルで正解
だったようで、安心した」
「カードって……あ」
 思い出した。待っている間、ずっとテレカを握っていたんだ、私。何枚も握
っていたけど、その中に、アニメキャラクターの物もあったっけ。使うのがも
ったいなくて、普段なら財布のカード入れに仕舞い込んでおくんだけれども、
さっきは状況が状況だったから、ありったけのテレカを手にしちゃっていた。
「ほ、本をあまり読まないっていうのは……」
 私は、半ば恐る恐る、聞いてみた。
「待ち合せするというのに、文庫本の一冊も持って来ていないのは、そう考え
るに充分な理由だと思うね。
 それから数学だか幾何だかは、コートのポケットから、ちょいと覗いたノー
トの切れ端−−ルーズリーフかな。それに、色々と図形と数式が書いてあった。
今の時期は二学期の期末試験が終わった直後。だから、その勉強の名残だと判
断した。当然、苦手な科目ほど、一生懸命やるという方にかけた訳だ。
 帰宅部云々というのは、時間からの推測。普通、冬休みは十二月の二十五日
からだろう。ということは、今日は終業式、学校は昼までだ。全ての部活動が
そうだとは限らないが、部に入っているなら、終業式の昼から活動をしてもお
かしくない。それなのに、マリアさん、君は三時間も前−−午後一時から彼氏
と待ち合わせできるご身分のようだね。そうなると、これは午後から自由だっ
たんだなと判断して、蓋然性の高い帰宅部の方を口にしてみた。
 あとは……趣味の件だね。君が持っている紙の包み、中身がセーターだとす
ぐに分かった。彼氏へのクリスマスプレゼントとして、手編みしたんじゃない
かな。まあ、だからといって、趣味が編み物と決めつけるのは乱暴だけど、逆
に、クリスマスプレゼントとして手編みのセーターを作るような人は、編み物
を趣味の一つとして数えるだろうなとも想像できる。それで、上手下手ってい
うのは、もう言うまでもないかもしれないけど、指先がね、少し傷んじゃって
るでしょ。冷たい外気が、かなり堪えそうなぐらいにね」
 そう言われてみて、私はじっと自分の手を、指先を見つめた。
 落ち着いていた気持ちが、急に不安定になってくる。あんなに一生懸命やっ
たのに、こんなのって。プレゼントして、どんな言葉をもらえるだろうって、
どきどきわくわくしていたのが、蹴落とされたような気分。まだ、崖の岩肌に
しがみついて、未練たっぷりなんだけど……な。
「もう一度、電話してみるといい」
 黙り込んだ私のことを察してくれたのか、サングラスのサンタさんは、そう
言ってくれた。
「でも」
「話の続きは、それからにしよう」
 本当は、あまり気乗りしなかったけれど、結局、店内にある公衆電話に向か
った。さっきと同じ、緑色の公衆電話。
 結果は……やっぱり、誰も出なかった。こういうとき、留守番電話じゃない
分、まだ救われるような気がする。
「いませんでした」
 席に戻って、努めて明るく、そう伝えた。
「そうか……。サンタクロースの勘では、いると思ったんだが」
 冗談を言っているのに、ずいぶんと難しい顔をしているサングラスのサンタ
さん。
「魔法使いの勘も外れるんですね」
「勘は勘だから」
 相変わらず難しい表情をしている。
 とにかく、この人のおかげで、少し気が楽になった。四人組に絡まれている
ところを助けてくれたし。
「あの、これ」
 私は、横の椅子に置いていた包みを取り上げ、相手に差し出した。ほとんど
衝動的だった。けど、それでいいと思った。
「何のつもり?」
「サンタさんに上げます。サイズ、合わないかもしれないけれど」
「……プレゼントされるサンタクロースなんて、聞いたことがない」
 わずかに驚いたような色を見せてから、すぐに冷静に答えるサングラスのサ
ンタさん。
「それは、彼氏へのプレゼントだろう?」
「もう、いいんです」
「僕に嘘を吐かれても、どうしようもないな」
 吹っ切るつもりで言った私の言葉を、相手はあっさり、否定した。そして両
肘を突き、手を組み合わせて、私の方をじっと見てきた。
「乗りかかった船ということで、首を突っ込ませてもらおう。とりあえず、そ
の包みは戻して。……振られるような前兆、あったんだろうか?」
「……ありませんでした。少なくとも、一昨日までは」
「ん? そうか、まだ聞いてなかったな。彼とは同じ学校じゃないんだ?」
「あ、そうです。違う学校です。予定は試験前から立てていて、最終的な確認
を、一昨日の夜、電話でしたんです」
「待ち合わせの時間を言い出したのは、どっちなんだろう」
「えっと、あ、向こうから」
「電話でのやり取りだけなら、行き違いもあるかもしれない。彼がどういう風
に言ったか、なるべく正確に思い出してみて」
 どういう意図があるのかしら、サングラスのサンタさんは、真剣に聞いてく
る。こんなこと思い出しても、つらいだけかもしれないのに。
 でも、今日は聖夜。サンタクロースの言葉を信じなくて、何を信じられるだ
ろう?
「……『午後一時に、駅前にあるFビルの正面入り口でどうかな。あそこなら、
アーケードみたいになっているから、もし雨が降っても大丈夫だし』……こん
な感じだったと思います……」
「違う違うっ。僕が問題にしているのは、時間じゃない。日付の点なんだ。ど
うだった?」
「日付?」
 面食らってしまった。日付なんて、十二月二十四日に決まっているじゃない。
「あの、十二月二十四日に決まっていると思うんですけど」
「そうかな? 思い込みが働いていない? 彼、どう言っていた?」
 何だと言うのだろう、この人は。少しいらいらしながらも、私は思い出して
みた。
「−−『クリスマスの日、午後一時』って言ったと記憶しています」
「そうだろうね。きっと、マリアさんのボーイフレンドは、言葉をきっちり使
いたがる性格じゃないかな」
 満足したように、目を閉じるサングラスのサンタクロース。
「どういう意味ですか?」
「うーん、説明するまでもないね。はん、西洋のしきたりも、罪作りなことを
する。まあ、日本人が勝手に騒いでるという面も大きいのだが。
 −−ねえ、マリアさん。今日は帰るのがいい。そして、明日、もう一度、一
時に待ち合わせ場所に行くんだ。君に辛い思いをさせたんだから、多少は遅れ
ていくのもいいかもね。だけど、相手を責めてはいけない。笑って、プレゼン
トを交換して、それから今日のことを打ち明けるんだ。そうすれば、嫌な思い
出は楽しい笑い話に変わるはずだよ」
 一方的にそれだけ言うと、唐突に、サンタさんは立ち上がった。
「ああ、やっと来た。実は、僕も待ち合わせをしていたんだ。あいつめ、今頃
になって、やっと現れた。じゃあ、ここのお代は僕が払っておくから、しばら
く休んだら、早めに帰るといい。僕の言葉、忘れずに。さっきの四人組と顔を
合わせないことを願っているよ」
「あ、あの」
 そんな私の言葉は聞こえなかったのか、相手はつかつかと店のレジへと向か
い、手早く支払いを済ませると、さっさと出ていってしまった。
 店の扉の前まで、その連れの人が来ていたらしく、店を飛び出たサンタさん
に、こう呼びかけていた。
「チテンマ、すまない。いやあ、仕事が遅れちまってねえ……」
 サングラスのサンタさんは、チテンマという別の名前を持っているらしかっ
た。

 何だかよく分からないイブの一日をやり過ごして、明けて二十五日。私はあ
の人の言葉通り、再び待ち合わせ場所に向かった。これも言葉通り、わざと五
分ほど遅れるようにして。
 −−いた。
「成美、遅れたぞ」
 私の姿を捉えるなり、彼はそう言ってきた。昨日のことが頭をよぎったけど、
それを抑えて、素直に接する。
「ごめんなさい」
「い、いや、五分だからいいけど」
 あまりにも私が簡単に謝ったせいか、戸惑っているみたい。
「はい、これ」
 手にした包み−−昨日一日、余分に時を過ごしたため、少ししわができちゃ
った−−を、笑顔を作って渡す。
「あ、ありがとう。えっと、僕も」
 手渡された小さな紙袋には、きれいなリボンがかかっていた。
「ありがとう。開けていいよね」
 返事を待たず、中身を見てみると、イヤリングだった。素敵なデザイン。真
剣に選んでくれたんだって、よく分かる。彼の気持ちが伝わってくる。
「−−成美に似合うかどうか、分からないけど」
「ううん。凄い、いい。素敵」
「それならよかった。恥ずかしい思いをした甲斐、あった」
「私も昨日、大変だったんだから」
 ここだと思って、私は昨日のいきさつを切り出した。
「……何で」
 私の話を聞き終わって、呆気に取られたように、彼は言った。
「何で、昨日……最初から、今日だって……。あ、そうか!」
 一人で納得している。
「どうしたの?」
「ごめん! 僕が悪い。約束したの、『クリスマス』だったろ? あれって、
僕は今日、十二月二十五日のつもりだったんだ」
「え?」
 口に手を当てる。そうか。そういうことか。チテンマさんの言った意味が、
ようやく理解できた。
「成美はイブのことだと思っていたんだろ?」
「もちろんよ。クリスマスイブのことだとばかり」
「失敗したなあ。しっかり、確かめなくて。……許してくれる?」
「どうしようかな」
 すっかり、弱っている彼の様子がおかしくて、私は意地悪したくなった。
「そ、そりゃあ、僕も悪いけど、成美も確認しなかったんだからさあ」
「−−うん、まあ、許してあげる」
「助かったぁ」
「だって、おかげで、サンタクロースに会えたんだもの」
「サンタクロースって?」
 私の顔を不思議そうに見つめ返す彼に、最高の笑みで応えよう。
「チテンマっていう名前のサンタさんよ」

−−終わり




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