AWC けせん(5)   道路掃除人


        
#3062/5495 長編    *** コメント #3061 ***
★タイトル (QWG     )  95/ 5/ 2  17:30  (189)
けせん(5)   道路掃除人
★内容
 間がひどく離れていてしかも異常にとび出ている円い両目。顔の輪郭からはみ出
るほど長い眉。唇の薄い大きい口。額が広く髪は頭頂近くから生えて首の付け根ま
で。頭蓋に貼りつけたような耳。菊の花をかたどって染めたくすんだ緑の短い貫頭
衣。関節が目だたないすとんと伸びた両腕両脚。そして裸足だ。(……なに、この
子)。おかしな男の子は低い鼻をひくつかせ、「けか゚ねぇべァ。いづまでおっけッ
てら」血の匂いがしないので外傷のないことがわかる。
花菜は子どもの生意気な口調にむっとしながら立ち上がると、「あんた、どこの子
なの?」
「このあだりのもんだ」
「このあたりって、」
「お、座敷の、、、でね、カヤだ」
縁側に出てきたカヤが、「何スてんの、ふたりスて。早ぐあか゚ってこ。ファミコ
ンすっぺス」
「おばあちゃん、この子知ってるの?」
「俺の昔なズィみだ」
「昔なじみって……」(90歳のおばあちゃんと、10歳くらいのこの子と、なん
で昔なじみなの?)
「ほれ、奥の座敷のわらス様よ」
「は?」
(%〜なに?)
花菜と淵のわらし、怪訝なおももち。
「ああ、今のわらしゃどァ、座敷わらスったて知さねんだもな」
「うそ! 座敷わらし!? この子が!?」
(%〜座敷わらスだど? 吾か゚?)(#〜いぃがら。そのふりスてろ)(%〜汝ァ
カヤのふりスて、吾ァ汝のふりスってが? ややこスィな……)(#〜いぃがら、
吾さ任せでおげでば)(%〜わがった)
「あれ、覚ェでだが、花菜。うそでねァ。な、わらス様」
「んだ、ウソでねァ。カッパでもねぞ」
(#〜余計なごど言うな!)
(%〜わがった)「吾ごそァ奥の座敷のわらス様なるぞ!」
(#〜威張るごどァねぇ)(%〜ンだが……)
「ひとづ、よろスィぐおだの申スィあんす」
(#〜へづらうんでね! 揉み手ァやめろ!)
「とゆうごどで、花菜ちゃん、あっそびっましょ?」
(#〜……。ま、いっか)「花菜……ん? なぞした、花菜」
花菜は血の気のひいた顔でたたずんでいる。
「わたし寝る」誰にともなく言う。
淵のわらし、跳びあがって、(%〜信ズねんだ! 人間達ァみんなそォだ! 疑ェ
深くて、ほんとだどわがるど、こんどァ邪魔にスて追っ払う……)声がかすれるよ
うに消えていき、それにともなって姿も薄れて消えていく。
(#〜待で、淵の! 違う、花菜ァ混乱スてるだげだ!)
 座敷童の叫びもむなしく、わらしは消えてしまう。花菜を見ると、驚きのあまり
呆然と立ちつくしている。その顔色はほとんど紙のようだ。膝が小きざみに震えて
いる。
「聞けだが、花菜?」
「み、見た」
「うん。語ったごどァ聞けだが?」
「うん……」
「そっか……さ、家さ入りなんせ」
 縁側に上がった花菜の膝の汚れをはたき落としながら、(#〜わらスのごどァ気
にさねたていぃよ、あれァ、カヤの三倍も長ぐ生ぎでるだげ肝ァ太ぇんだがら。そ
れに、水みでァな気質で、当だるもの当だるものさ絡むども、すく゚どさっぱりなる
んだ。……ンだがら、気にさねで寝ろ)
「うん……あ、これ水替えたからまた戻しとくね」
「ああ、頼みてども、奥座敷おっかなぐねが?」
「あ」
「いぃいぃ、わらスささすがら」
 考えないようにしよう、いつもならそれで眠れた。学校のこと、高校生だという
こと、考えても考えなくてもそれは事実として存在する。事実は考えたからといっ
てどうなるものでもない。でも座敷わらしは……(わたしはもう高校生だ、子ども
じゃない、座敷わらしに遭ったなんてひとに話したら常識を、ううん、正気を疑わ
れる。いるはずがない、座敷わらしがいるんだったら、昔話はみんなほんとうで、
龍だって雪女だっている(いた)ことになる。ひょっとするとムーミンとかトトロ
だって……。そういえば『となりのトトロ』をみたあと、母屋の天井あたりからマ
ックロクロスケが出てくるような気がしたっけ。……いるのかな。魔女のキキがホ
ーキで飛んできて友だちになれたらいいな。……なに考えてるの。座敷わらしなん
て、そうあの子は人間の子で、おばあちゃんの知り合いの家の子で、消えたんじゃ
なくてぱっと隠れたんで……そう、わたしをからかったんだ、きっと……眠れやし
ないじゃない、もう!)布団をはねのけて起きる(おばあちゃんに白状させてやる!)
 (#〜こりゃ、淵の。逆だ、逆、汝、逆さ走ってらでば)(%〜ぎゃははは、見
ろ。こうすっと、びんがびんが跳ねっちゃ……りゃ? とまってスィまた)(#〜
でだらめすっがらすく゚点なぐなんだ。みろ、まだ『レース妨害▼出走停止』だ。あ
のなあ、わがってるのが、淵の。これァ点とる遊びだぞ。罰点とる遊びでァねんだ。
まったぐ……)(%〜そったのおもしゃぐね。じゃまスたり、出スィ抜いだりスィね
ば点かせか゚れねんだおん。好ぎなやり方で遊んだほうァおもしぇべァ)
 二人が居間で騒いでいるのを花菜が廊下で障子ごしに聞いている(むかつく!
人をおどかしといて二人でファミコンで盛り上がって)
「なにが座敷わらしよ! その子、」
頭にきて踏みこんだところにあの菊の花瓶があった。あっ!と思ったときはもう遅
い、爪先をしたたかにぶつけて、花菜はたまらず足をつかんで畳にころがる、「い
っったぁーい!」(なんで!?こんなとこに置いてあんのよ)
蹴られて花瓶もころがり、挿してあった花は飛び散っ、、、てない。水はこぼれ、、
ていない。それはひょっこりと起き上がり、けたけたけた……と甲高い声で笑う、
「なんとそそっかスィじゃ」手と足と頭が生えた花瓶が言う。
「なに!?うそ!!」(花瓶があの子に化けた!?)
【あの子】が花瓶に化けた可能性もあったわけだし、事実は淵のわらしが花瓶を身
につけていたのだが、今の花菜にはそんなことどうだっていい。問題は目に見えて
いることが信じられないということ。
「やめろでば、淵のわらス。人おどがスておもスィか゚るのァ汝の悪ィくせだぞ。
……大丈夫だ、花菜、ばァちゃンの友だづィだがら、心配ねがら」
 カヤはそばに寄って花菜を抱きしめてやる。「よっこせ、ど」わらしはスカート
でも脱ぐみたいに花瓶を床に落とし「おもスィか゚ってだわげでァね。こったごどで
も見せでやンねばぁ、信ズィねべァ」
「んだなぁ……なぞだ、花菜、信ズィるが?」
カヤは花菜を胸から押しやってその目をのぞきこむ。のこっていた脅えの色がおば
あちゃんの慈しみ深い瞳にすいこまれるようにきえる。
「信じる。座敷わらしってほんとにいたんだね」
「いるよ、確かにな。だども……」
「ああ、もうめんどくせごどァ語ンな、な、カ・ヤ・ばァちゃン。みんなでファミコ
ンすべ」カヤの袖をひっぱる。
「あ、ああ、そすンべァ。さ、花菜」花菜にコントローラーをわたし「このわらスさ
ちゃんと教ェでやってけろ。俺なんぼ言ってもコース反対に走るんだでば。おめの
手コ根ッこ見せでやれば、ちゃんとスたやり方のほァおもしェどわがるべがら」
「え。なに見せてやれって?」
「手こ根ッこ」
「テコ、ネッコ……」!「テクニック!、でしょ?」はっはっはっは……、淵のわ
らしが仰天したほどの大笑いがしばらく続く。
「ごほ、ごほっ……」
笑いにむせて咳きこむ花菜の背をカヤがさする。
「ありがとう、もうだいじょうぶよ」カヤに言う「ようし、見せてやるかテコネッ
コ、じゃなくてテクニックね」
「おお、元気な花菜ァ戻ってきたな」
 花菜がコントローラーを握る。タイヤをきしませ猛ダッシュをかけるが花菜のカ
ートは三番手……左、右、とやや強引なドリフトでコーナリングし、次のストレー
トで早やトップに躍りでる。苦手なダート・エリアを慎重に抜け、トレジャー・ス
ポットで金貨を拾っているうちに一台に抜かれてしまうが花菜は平静だ。そのまま
二番手でいて三つめのコーナーで先に出る。グッズを拾うためだ。その威力はすぐ
次のコーナーで示される。ジャンピング・ドリフト! 減速しないでコーナリング
し後続をいっきにひき離す。花菜はそのまま余裕たっぷりにチェッカー・フラッグ
を受ける。☆☆優 勝☆☆派手な電飾とともに文字が踊る。32,000点。カヤの最高
得点の約六倍だ。
「ま、こんなもんかな」小鼻をふくらませてギャラリーを振りかえる。
 わらしの膚が緑がかった色に変わっている。
「ど、どうしたの、わらし!?」
「なんでもね、どでんスて青ぐなっただげだ」とカヤ。
 わらしは脅威を感じると淵の色に似せて色を変える。保護色だ。
「見だべァ。これがテコ、、、テクニックつもんだ」自分がやったみたいに小鼻を
ふくらませて言う。
「な、なぁに、吾で車こ駆ったほうァ、なんぼ面白ぇが知ぇねじゃ。吾ァこの中さ
入ェって運転する」
興奮して膚に朱がさし、緑とのまだらをなす。それに寄り目になっている。落ちつ
きのない妖怪だ。でも見てるとなんだかおかしい、と花菜は思う。
「むちゃすな、てれびの中さ入ェれる気だが?」
「ヒトさ入ェれでこのモノさ入ェれねっつのァ、科学的に合理的でねァど」わけの
わからないことを言ってわらしはテレビ受像機にもぐりこむ(%〜あんや、ぜんぶ
細っけぐわがれでるもんだな……それに入り組んでるごどォ。どごさ入ェればいい
のがわがらねじゃ。花菜、ちょっと動がスてみろ)。
「花菜、動がスてみろど」
事態がよく飲みこめないまま、花菜はゲームソフトをスタートさせる。
『わがった! こごで音だスてだんだじゃ』スピーカーからうれしそうなわらしの
声『ンでも、ふぁみこんさ入ェるにァなぞせばええんだべ……いっぺん切ってがらま
だつけでみでけろ』
花菜はファミコンのスイッチを切ってふたたび起ち上げる。『ひゃ〜、びっくりし
た、ぜんぶスィびれるなや。ンでもどうやら入ェれだぞ』。わらしが言うので花菜と
カヤがよく見るとゲーム画面に河童のキャラクターが増えている。
「わらス。汝、動がス方覚えだってが?」
『ありゃ、わがらねァ』親指ほどの河童がきょろきょろ首をまわす。
「じゃあ、わたしが運転してあげる」
『よし、始めべ!』
 電磁波の煉瓦でできたコースで花菜の運転する河童カートはスタートと同時に他
のカートをひき離す。が、
「あ!」
クランクでボタン操作をあやまって車は暗渠に落ちてしまう。『うわぁ……』
「ぁぁぁぁ……」
悲鳴とともにわらしはディスプレイから転げ出る。すっかり淵色になって薄い髪が
総毛立っている。カヤと花菜は腹をかかえて笑っている。
「いンやいンや、メにあったじゃ……いぎなり目の前まっくらぐなって……、ありゃ、
ざスィ、、、っと、カヤ、汝の笑ぇ顔」
座敷のわらしははっとして顔を両手でかくしとっさに花菜に背を向ける。
「いや、汝、笑ァのァ、ンまぐなたな」
「ん、んだが?」開いた指の間から淵のわらしを見る。
「うん。ふつうだ」
「なあに? ふつうだとか、うまくなったとか、なんの話? おばあちゃん、なん
で顔かくすの?」花菜はけげんな面もちでカヤの顔をのぞきこむ。
「い、いや、あ、あ、あこ゚。んだ、笑いすき゚で顎ァはずれかげでさ」あわてて両
手をあてた顎を左右に動かす。
「ンだ。カヤァ笑うの下手でよ、前に顎はずスたごどあるんだ。おがスねなあ」
はっはっは……とわらしはさも愉快そうに笑う。花菜もつられるように笑いだす。
カヤも笑いだす。
「お、おばあちゃん、そんなに笑ったら顎、、、」笑いは止まらない。
ふたりのわらしは花菜が信じているのでますますおかしい。三人とも腹の底から笑
っている。花菜にとっては久しぶりのことだ。
 淵のわらしと友だちになった晩。
「ねえ、おばあちゃん」ご飯じたくをしている美津子と加寿子に聞こえないよう、
カヤにすりよって、小声で花菜が言う、
「あの、ね、山男が友だちだってのもほんと?」
「んだよ。会いてが?」
「会いたい!」
つい高い声をだしてしまう。そこで加寿子が台所から顔をだし心配そうに、
「花菜、腹病むのが?」
「え? ううん。なんで?」
「今、『痛い』ったべァ」
「痛い? あ。ううん、違うの。ちょっとね……こたつに足ぶつけちゃって」
「そそっかスィなぁ、ほンに……」と言いながら加寿子が引っこむ。
花菜とカヤは顔を見合わせてしのび笑う。
「ンでァ、明日呼ばってみンべァ」小声でカヤ。
「どこに呼びにいくの?」
「裏山だ。おめも行ぐが?」
「行く!」



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