AWC 「友達」#1/2 /Tink


        
#3019/5495 長編
★タイトル (DRH     )  95/ 4/23   8: 2  (120)
「友達」#1/2 /Tink
★内容
「友達」

 ベッドに俯せに体を横たえたまま、まだ余韻に浸っているのか、香織は満足気に軽く
目を伏せて、細長いメンソールの煙草の煙りをくゆらせていた。
 僕は、そんな香織を横目に、軽く伸びをしてから、シガレットケースから取り出した
煙草に火を付け、小さく溜息をついた。
 君は僕の事をどう思っているのだろうか?
 本気で好きになればなるほど、僕から離れて行くような気がして怖かった。
 少なくとも、僕に対して恋愛感情を持っていないのは確かだろう。
 セックス自体、コミュニケーションの一つとして割り切っている位なのだから。
 そう考えると少し胸が痛んだ。
 こんな関係になってから、もう二年以上たっていた。
 出会いは高校の時だったね。
 僕が友達との卒業旅行の為に、アルバイトをしていた喫茶店の先輩だった。
 色々と教えてもらううちに、意気投合して遊びに行くようになったんだ。
 そして、しばらく友達としての関係を続ける内に、僕が一方的な好意----そう、いわ
ゆる片思いだ----を持つようになったのだ。
 それから、こんな単純で複雑な関係になるまでは早かった。
 一緒に飲みに行って、お互い深酒をした時に、香織の方から誘って来たのだ。
 あの時は、真意がわからないまま、おろおろとしている僕に香織ははっきりと、友達
としてしか思っていないと言い切った。
 だけど、僕の気持ちは変わらないどころか、余計に深いものになっていったのだ。

「隆志、どうしたの?」
 香織は煙草の煙りを吐き出しながら、潤んだ瞳で僕を見つめている。
 近視気味なので、普段でも若干瞳が潤んでいるように見えるのだ。
「ん、なんでもない」
 僕は軽く微笑んで、香織の頬にキスをした。
 くすぐったそうに身をよじらせて、布団に潜り込む香織をとても愛しいと思った。
 たとえ、報われない愛情だっていいさ。僕はこんなに君の事が好きなんたから。
 いつか、君のマンションの踊り場で話をしたことがあったよね?
 あの頃はまだ、車も無くて、自転車で君を家まで送って行ったっけ。
 一緒にいる事が楽しくて、このまま時間が止まってくれれば良いとさえ思った。
 少しでも長く君の顔を見ていたかった。
 ゆっくりと流れて行く日常の繰り返しの中で、色々と変化はあったけど、君への気持
ちだけは変わらなかった。
 でも、君は結局僕の方を向いてくれなかったね。
 だからこそ、友達としての長続きしているのかも知れないけど。
 ふと、隣を見てみると、いつの間にか眠ってしまったのか、香織は軽い寝息を立てて
いた。僕は布団を掛け直してやけながら、ふと猫みたいだな、と思った。

          ★

 清々しい朝の光がカーテンの隙間から差し込んで来る。
 あまりにも眩しくて、思わず手をかざしてしまう。
 香織はまだ、僕の腕を枕にして、胎児のように丸くなりながら眠っていた。
 こんなに蒸し暑いのに良く寝れるもんだと感心しながら、起こさないようにそっと腕
を頭の下から抜いた。
 香織と一緒に寝た時には、必ず僕の方が早く目がさめるのだ。
 時計の針は既に九時近くを差している。
 リモコンでクーラーのスイッチを入れてから、洗面所で顔を洗い、冷蔵庫の中に入っ
ていた清涼飲料水を一気に飲み干す頃には、ぼんやりとしていた頭が少しはスッキリと
したようだ。
 コーヒーメーカーをセットして、オーブントースターにパンを押し込んでから、キッ
チンで目玉焼きを作る。
 今は、時計の秒針と共に、ゆっくりと流れて行く時間が心地よかった。
 トースターのチンと言う軽い音と共に香織は気怠そうに身を起こした。
「おはよう」
 僕はマグカップになみなみとコーヒーを注いで、小さなテーブルの上に二つ並べた。
「ん、おはよ」
 香織は煙草に火を付けてから、ベッドの上でもう一度横になり、立ち上って行く煙を
ぼんやりと眺めていた。
「パン焼けてるよ、食べる?」
 僕は焼けたパンにバターを塗りながら、香織の方を伺った。
「あんまり食欲ないけど、食べとかないと、ね」
 香織はそう言って、はにかんだように笑うと、ベッドから抜け出して、テーブルの前
に座り直した。
 僕と香織は少し焼き過ぎたパンを、コーヒーで流し込むようにして朝食を済ました。

 僕は手短に食器類を片付けてから、TシャツとGパンに着替える。
 外気温が高いせいか、湿度が高いせいか、エアコンを付けていても、送風音だけが大
きくて、なかなか涼しくならなかった。
「ねえ、海、見に行きたい」
 今まで、気怠そうに煙草を吸っていた香織が、ぽつりと呟くように言った。
「海? 神戸でも行こうか?」
「どうせなら、日本海行かない?」
 香織が僕の顔を覗き込むようにして言う。
「日帰りで?」
 大阪から日本海の方へは、日帰りでも行けないこともないのだが、北陸自動車道を通
っても四時間近くかかってしまうのだ。
「どっかに泊まってもいいしさ」
「今から?」
「うん」
「じゃあ、用意しなきゃ、だね」
「ありがと」
 香織は軽く微笑んだ。

          ★

 小さめのボストンバッグに着替えやカセットテープなどを押し込んだ後、僕たちは駐
車場の方へと向かった。
 空は青く透き通るようなブルーで、風に流されて行く真っ白な雲との微妙なコンスト
ラストが透明水彩で描いた抽象画のようでとても綺麗だ。
 青空駐車場に置いている旧型のフェスティバに乗り込むと、サウナにでも入ってるよ
うな蒸し暑さで、毛穴という毛穴から、一気に汗が吹き出して来るようだ。
 僕は後部座席にバッグを放り投げるようにして置いてからエンジンを掛けて、窓とキ
ャンバストップを全開にした。
「それにしても暑いよね、やっぱり夏なんだ」
 僕は、あたりまえのことを言う。
「だって、本当に夏なんだもん」
 香織は、軽く微笑むと、駐車場へ来る途中で買って来た清涼飲料水を、氷嚢のように
額にあてた。
「それじゃあ、行くよ」
 僕は、マニュアルのギアを一速に入れると、颯爽と走り出した。
 今どきマニュアルなんてって、香織は言うけど、オートマチック特有のクリープ現象
には、どうしても馴染めなかったのだ。
 それに、小気味良くギアをシフトアップしていく快感がたまらなかったし、何よりも
マニュアルだと自分で操作しているという自覚が湧いて来るのだ。
「何かテープでもかけない?」
 僕が言うと、香織はカセットケースの中から、テープを取り出して、カーオーディオ
の中へと差し込むと、夏らしいアップテンポな曲がスピーカーから飛び出して来る。
 途中、香織の住んでいるマンションへと寄り、香織の荷物を取ってきてから、一号線
の方へと向かう。
 しばらく走っているうちに、香織は軽い寝息を立て始めた。
 まだ、眠り足らなかったのだろう。
 やっと、車内が涼しくなってきたので、窓とキャンバストップとを閉めてから、エア
コンを、最大風量で回した。
 冷たい風が頬をすり抜けて行き、やっと汗が引いて来たようだ。
 車内が涼しくなるのを待ってから、香織の体が冷えないようにエアコンの風量を少し
落とした----。




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