#2985/5495 長編
★タイトル (AZA ) 95/ 3/19 9: 8 (200)
出会い 6 永山&平野年男
★内容
「警察が来てるってことは、他殺の疑いもあるのかしら?」
「そこまでは……」
首を振る剣持。これ以上、求めても無理がある。
ところが剣持は、もう一つ、情報を携えてきていた。
「あ、これも小耳に挟んだ程度ですが、あの流さんが、発見者らしいんですよ
ね。電話がどうとか言ってました」
「流さんが?」
あたしは興味を引かれた。探偵の行くところ、事件あり、か……。
「電話ってのは何かな?」
「死んだ従業員から電話を受けたとか……」
あたしの質問に、間髪入れずに答える剣持。
「余計なことには首を突っ込まない」
急に、ぴしゃりと言った細山君。彼は、あたしやミエを見ながら続けた。
「興味を持っているみたいだけどな、ここの従業員が死んだって、自分達には
無関係。気の毒と思いこそすれ、真相を探る義理はない。そうだろう?」
「その通りだけど」
ストップをかけられるのを予測していたかのような、ミエの応答ぶり。
「協力できる部分があれば協力するのが、基本的なポリシー。分かるでしょ?」
「……うまいこと逃げられたな」
かなわないという風に、細山君はお手上げのポーズ。
ミエは軽く微笑んで、
「でもまあ、折角スキーに来てるんだから、私だって滑りたい。はっきり他殺
と断定され、事件がいつ起こったのかも推測がつけば、そこでやっと、協力の
余地が生まれるぐらいよね。最低限の情報は流さんから教えてもらえると期待
して、それまでは大人しくしておくわ」
と、割り切った。
「それじゃあ、すぐにでも流さんと話したいわね」
「どうしてリマは、そんなにせっかちなんだ?」
たしなめられてしまった。別に気が急いているんじゃなくて、流さんからス
ムースに話を聞き出せるよう、信用を得ようと思っただけなのに。
「どのみち、無理だと思いますよ。流さん、今は警察に協力してるはずだから」
そっか。あたしは納得すると、気持ちを切り換えた。
「スキーするのは止められていないわよね」
「もちろんです。ただし、九時からロッジ側から何らかの話があるって言った
でしょう? そのときまでは、外に出ないでくれと」
「それも張り紙?」
うなずく剣持。結構、情報を小出しにする。そのことで文句を言うと、
「先輩達が、どんどん喋るからですよ」
とのこと。こっちは思わず、苦笑い。
さっさと朝食を終え、九時になるのを待つ。ちなみに食堂で周囲のグループ
の会話に耳を傾けたら、やっぱり警察が来ていたことに話題が集中していた。
でも、本当の話とそうでない話とが乱れ飛んでいるようで、途中からあたしは
耳をふさいでいた。
九時ちょうどに、館内放送が流れ始める。
繰り返し、何度も何度も同じ内容がアナウンスされた。お詫びの言葉といっ
た余計な部分を除くと、その意味は次のようになるかな。
・従業員の一人が、自分の部屋で変死しているのが発見された。自他殺・事故
死のいずれかは不明であるが、自殺が有力。死因もまだ不明。
・捜査は地元警察が万全を期すので、ご心配なさらぬよう云々。
・ゲレンデその他の施設は使用可。ただし、従業員用の宿泊施設である別館周
辺には立ち入り禁止。
・昨晩十一時以降、挙動不審な人物を見かけた方は、名乗り出てほしい。
あたしが気になったのは、四つ目。あたしが夜中に見た、勝手口から出て行
く人物って、挙動不審と言えるんじゃないかしら?
「ねえ、聞いて」
と、みんなに話してみる。
こちらが話し終わると、細山君がすかさず言った。
「マジか?」
「どういう意味よ」
「いや、どうしても事件に関わりたくて、適当なこと言ってるんじゃないかっ
て−−いて、許せ、冗談だって」
知らん。
「そんなことがあったの……」
ミエは難しそうな顔をしている。
「どうかしたの?」
「ん……。みんな、気付いていると思うけど、自殺が有力だとされているでし
ょ。それなのに目撃者を募るのは奇妙だなと思っていたのよ。その上、リマみ
たいに、目撃者がいるんだから、どうなっているのかなと」
指摘されるまでもない。放送があったときから、変だと思っていた。
「自殺が有力とされる理由を知りたいところですね」
本山が言った。真子がそれを受けて……。
「きっと、雪の密室だったんですよ。別館周辺に近寄らないようにって言うか
らには、きっと足跡があって、足跡は発見者以外になかった。これで決まり」
きっとを連発しながらまくし立てる真子。調子に乗ってるわねえ。
「あり得ないことじゃないでしょうけど、今の時点では空想の域を出ていない。
もしそうだとしても、別館の事情を知っておかないと、議論は進められないわ
よ。まさか、別館に死んだ従業員一人だけが寝泊まりしていたなんてことはな
いでしょうし」
ミエは極めて冷静。
あたしはというと、真子の「雪の密室」という単語に触発されてしまった。
そう、剣持が「足跡なき殺人(=雪の密室)」のトリックを思い付いたと言っ
ていたじゃないの。
「ねね、剣持君」
「何ですか? 何か気持ち悪いですね」
失礼なことを平気で言ってくれたわね。
「いいから。教えなさいよ、思い付いたというトリックを」
一瞬だけ、意味が理解できないという表情を見せた剣持。だが、すぐに察し
たらしく、訳知り顔になった。
「あれの話ですか」
もったいぶっているのか、マジシャンは次を言おうとしない。
「今度の事件に当てはまりそうなの?」
「待ってくださいよ。全然、状況が分かっていないのに」
「いいからいいから。君のアイディアが、自殺に見せかけるトリックなのか、
その点だけ聞きたい訳よ」
「いえ、前も簡単に触れたように、明らかに他殺なのに、何故、雪の密室を構
築したのか。これが眼目ですから、自殺に見えるような遺体がある場合には当
てはまらないんじゃないかと」
「そうだったっけ」
いけない。肝心なところを忘れていたみたい。
「そんな議論は、状況把握ができてからでいいでしょ。何回、言わせるつもり
よ。……それで、リマはこれからどうしたいの?」
ミエは、時間を気にしている様子である。
「あたしは、今さらスキーしても、どうせ気になって、怪我しかねないと思う
の。だから、流さんを待って、聞き出すつもりよ」
「探偵が嫌がったら、どうするんだ?」
細山君が言った。引き留めようとしてくれてるのかしら。
「そのときは、警察に、自分が目撃したことを持ち込むだけ」
「全く……」
言葉がないって感じね。でも、幼なじみにいくら呆れられようとも、お金を
はたいてスキー旅行に来ていようとも、目の前で不可解なことが発生したら見
過ごせない質なの、あたし。
「実は私も同じ」
ミエは、ちらっと舌を出した。さすが推理研副部長! と、心の中で拍手喝
采してあげた。
「と言っても、情報が少なすぎるから、全てはその確認ができてから。流さん
から教えてもらうのに賛成って訳」
「先輩方がそう言うんなら、僕らも滑ってる場合じゃないでしょうね」
剣持は、どこか楽しそうに見える。
「遠慮しないで。好きな方を選べばいいから」
「だったら、状況把握を選びます」
「僕も」
本山がぼそぼそと、尻馬に乗った。
あまり滑れない真子も、こちらの方を面白がっている。
「きよちゃんは?」
あたしが顔を向けると、彼女はまだぼーっとした様子である。
「うーん……私はどっちでもいい。頭の中、もやがかかってるみたいで、まだ
動けそうになくて……」
「じゃ、決まりね」
あたしは、残りは細山君だけよとばかり、彼の方を見た。
「おまえらな……」
ここに滞在中、何度目になるかしら。細山君の呆れ顔。多勢に無勢、もはや
趨勢は決した−−。
「分かったよ。一人で滑っても楽しくないからな。あーあ、推理研に引っ付い
て旅行なんかするもんじゃないよなっ」
流さんをロビーで待っていたら、十時四十分頃に、外から戻って来た。初め
て、サングラスをしていない顔が拝めた。やや、疲労の色が窺える。それと、
関係ないけど、本にあるほど鋭い目つきじゃないなと感じた。やはり、あれは
初期の頃の話なんだ。
そのまま階段に向かおうとするのを、声をかけて呼び止める。
「流さん!」
「あ? ああ、君達か」
こちらを向くと、探偵は笑顔を見せた。
「お揃いでどうしたんだい? 滑らないのか?」
このとき、あたしは、他から見れば気味悪い薄笑いを浮かべていたかもしれ
ない。あんまり想像したくないな。
とにかく、事件について教えてくださいと、単刀直入に伝えた。
「流さんが発見者なんでしょう?」
「うん、まあ、そのようなもんだが……。警察からの情報を話す訳にはいかな
いよ」
「何故ですか?」
あたしは語調を強めた。ここで食い下がって見せないと。
「君達は関係ないだろう。死んだ人と知り合いでもないんだし。常識的に考え
て、話す道理はない」
「言わせてもらいますと……」
ミエが応援してくれる。
「『小学校殺人事件』で、流さんは小学生の子達と一緒に真相究明に当たって
いましたよね。あれは、いわゆる常識にかなっているんでしょうか」
何のことだか分からないという表情の流探偵。それから思い出そうとするか
のように頭を小さく振った。
「……思い出したよ。まずい前例があったんだな。実際、あの頃は、子供達の
自由な創造力のためと思って、たいていのことはオープンにしてやっていたか
ら」
「今も同じ考えなんでしょう。そうですよね?」
「……大学生に同じ理論を通されるとは、意表を突かれたよ。よし、分かった。
話そう」
やった!
「でも一つだけ、約束してくれないか」
「何でしょう?」
「僕が懇意にしている警察関係者は、ほんのわずかだ。そういった知り合いが、
ここ地元の警察にはいないんだ。彼らをむやみに刺激したくない。だから、僕
が情報を話したことは内密にね」
「それぐらい、お安いご用です」
「約束したよ。さて、場所を移さないとね。今度は僕の部屋に招待しよう。大
丈夫、八人ぐらいなら入れる」
一人で、どんな大きな部屋を取っているのだろう。関心を持ちながら行って
みると、そこは一等室。確かに、広い部屋だった。備品はあたし達の部屋とさ
ほど変わりないけれど、広さが段違い。
でも、一等と二等の違いって、広さだけなのかな。これじゃあ、ハンバーガ
ーショップのデラックスバーガーと普通のバーガーの違いと同じ。名前はデラ
ックスでも、普通のお肉が二枚になっただけってね。
「真っ先に、この事件の重要なポイントを言っておく。現場である別館の周囲
に足跡はなく、死亡推定時刻−−大ざっぱなに午前一時から三時としか出てい
ないが−−以降に積雪はなかったと分かっている。要するに、雪の密室という
やつになるんだ」
本当に雪の密室だったのね。早い段階で、自殺説に傾くのもうなずける。
何よりも、あたしは死亡推定時刻が気になる。あたしが目撃した、あの後ろ
姿の人は犯人だった可能性が出てきたんじゃないかしら。すぐに伝えておく。
すると、流さんは表情を変えた。
「へえ? そんな人影を見ていたのか。不運……犯人にとっては不運だったけ
ど、こちらの幸運にしたいものだね。いや、これが殺人であれば、そうしなく
ちゃならない。
さて……それから、基本的なところを押さえてもらおうかな。死んだ従業員
の名は福沢菊江。年齢は二十二だと聞いた。彼女はここの正規の従業員じゃな
いんだ」
−−続く