AWC 鬼畜探偵・伊井暇幻「復活! 二十面相」/3 久作


        
#2926/5495 長編
★タイトル (ZBF     )  94/12/31  18:58  (165)
鬼畜探偵・伊井暇幻「復活! 二十面相」/3 久作
★内容

          ●

 「わぁ、先生、似合うじゃぁん」松山行きの特急バス、極度に純真な目をした
少年探偵団が囃し立てている。「そっかぁ、へへへっ」柄にもなく伊井が照れて
いる。確かに伊井は恰好良かった。なぜなら変装しているからだ。変装しないで
伊井が恰好良い筈がない。なにせ顔まで変えているのだ。筋張った細面は日本人
離れしてクッキリ。聡明そうに大きく澄んだ二重瞼、高い鼻に、引き結んだ薄い
唇、ウエーブのかかったモジャモジャ頭。肩幅のある長身痩躯にグレーのダブル
・スーツが似合っている。誰かに似ている。そう、明智小五郎だ。往年の少年探
偵団シリーズの挿し絵で見た明智小五郎だ。「はいっ、質問ですっ」信じられな
いほど純真な瞳の団員の一人が、元気良く手を挙げる。「ん、何だい」機嫌がよ
いのか、伊井は声まで気取っている。「どーしてイツモの作業着じゃないんです
かぁ。あっちの方が動き易いのに。それに顔まで変えて」「はははははっ、これ
が二十面相への礼儀というモノだよ」明智になりきって伊井が、快活に笑う。
 あぁ、しかし、なんということであろうか。助手の小林君が、いまにも一糸纏
わぬ姿にされてピンクの唇をこじ開けられ、ズルズルと二十面相の舌に、いや舌
ならマだ良いが萎びてスエた臭気を放つ×××を無理矢理に押し込まれたり、い
やいや、その澄み切って凛とした輝きを湛える瞳がベロベロと二十面相の舌に、
いや舌ならマだ良いが……中略……その小さく盛り上がった乳房の中央の少年に
しては大きすぎる桃色の乳首がビチャビチャと二十面相の舌に、いや舌ならマだ
良いが……、いやいやいや、その淡く腹筋の浮かんだ薄い腹部がピチュピチュと
二十面相の舌に舐め回され、あろうことか恰好良く縦に割れた可憐な臍がグリグ
リと二十面相の舌に……、いや舌ならマだ良いが……、いやいやいやいや、その
丸く盛り上がり引き締まった尻を力ずくで押し開かれヌラヌラと二十面相の舌に、
いや舌ならマだ良いが……、とにかく色々と非道い目に遭っているかもしれない
というのに、あぁ、なんということであろうか。我らが伊井暇幻は、激越に純真
な目をした「少年探偵団」を侍らせて、コップ酒をあおったりしているのであっ
た。

          ●

 「僕、此処で死んじゃうのかなぁ」小林が膝小僧を抱えて蹲っている。勢い良
く流れ込む水の音だけが聞こえる暗黒、既に冷たい水が小林の細やかな腰を濡ら
している。「誰にも知られずに、此処で……。へへっ、まっ良いっかぁ」明るく
振る舞う声が寂し過ぎる。「誰も悲しんだりしないよね」震える声が自嘲する。
せめて、自分の声に話しかけられていないと、自分がなくなってしまいそうだっ
た。独白は続く。急に明るい声になる。「先生っ、僕には先生がいるっ」暫しの
沈黙。「くくっ、あははははははっ。馬鹿だなぁ、あんな男を信じるなんて。ア
イツが悲しんだりするもんか。どうせ、すぐに、別の子を……。うっううっ、あ
んなヤツっ、あんなヤツっ」嗚咽が小林の肩を揺する。地球に何十億の人間がい
るか正確には知らないが、たった一人、コンクリートの壁で隔離され、小林は啜
り泣いていた。
 「……ん?」小林が不思議そうに顔を上げる。いつの間にか水の音が聞こえな
くなっている。考え込む。小林の顔がパッと明るくなる。「そうかっ、松山は渇
水で断水中なんだっ!」。元来、雨が少ない瀬戸内海地方は環境破壊による温暖
化やら森林伐採やらで気象台始まって以来の大渇水、松山市と周辺は給水制限を
していたのだ。「助かったぁ」ヘナヘナと崩れ落ちる小林、「あははははっ、助
かったぁ」。

          ●

 「どうやら、此処のようだな」狂気を感じさせるほどに純真な目をした「少年
探偵団」を引き連れて、伊井が廃ビルの前に立った。歩きにくそうだ。背の低い
伊井は、明智小五郎に変装するため踵が十五センチもあるシークレット・ブーツ
を履いて「るのだ。「これでも、竹馬は得意だったんだ」意味不明なことを呟き
つつ、ペンギンのように歩いていく。何も考えないまま廃ビルに入った伊井は、
何も考えずにエレベーターに乗り込み、何も考えないうちに二十五階に着いた。
 「どこだ、二十面相」伊井は恰好良く呼ばわったが、其処には誰もいなかった。
頭上で伊井の声を聞き、小林は狂喜した。「先生っ、やっぱり助けに来てくれた
んだね」目が潤んでいる。さっきまで伊井を疑っていたのに。小林は案外、ゲン
キンなのかもしれない。 伊井がちょうど小林の真上に来たようだ。小林は叫ぼ
うとした。と、そのとき伊井のブツブツ呟く声が聞こえた。耳を澄ます。「ほほぉ
、クラナッハじゃねぇか。うーむ、吊り気味の澄んだ瞳、凛として純粋そうな視
線、頬は可愛くフックラしているが尖り加減の顎にキュッと絞られる。っかぁー、
堪んねぇな。こーゆー純潔を尊びそーな気の強い奴を、グッチャグチャに辱めて
泣きじゃくらせるってのが、良いんだよなぁ。きっきっき、さぁて、早いとこ小
林を連れ戻して、バッコンバッコンと……、ぐふふふふふふ」。「やっぱり先生っ
て、二十面相の同類だったんだ」小林は悩んだ。「あの変態の所に戻るより、此
処でヒッソリ死んでいった方が、幸せかも……」考え込み、壁を伝ってグルグル
歩き回る。考えるとき、部屋の中を歩き回るのが小林の癖なのだ。「あぁ、どう
しよう。どうしよう。どうしよう。わあっ!」突然、手が支えを失った。壁に激
突し、肩を打った。「痛っ、……あれ?」壁にポッカリ穴が空いていた。直径は
50センチぐらい。小柄な小林なら、楽々入ることが出来る。水が流れ込んでい
た穴らしい。「よぉし」小林は穴に潜り込んでいった。
 穴は徐々に勾配がキツなり、垂直になった。進むうち、段々明るくなっていっ
た。「眩しっ」小林は慌てて目を閉じた。暗黒に慣れた目に、夕暮れの空が飛び
込んできた。這い上がる。コンクリートの箱の中に出た。貯水槽らしい。屋上だ。
全身に暖かい太陽光が降り注ぐ。スックと立つ。勇気が漲ってくる。貯水槽の壁
越しに辺りをヘイゲイする。眼下に瀬戸内の穏やかな海が広がっている。グルリ
見渡した所で、視線が止まる。発見したのだ、二十面相を。黒マントを羽織った
黄金仮面が、口を開けた大きな木箱に上半身を突っ込んで、何やらゴソゴソして
いる。
 「二十面相っ」小林が叫ぶ。黄金仮面は、ユックリと振り返る。姿勢を正して
小林を見上げる。風が、海から陸に吹き始めた風が、黒マントを翻す。深紅の裏
地が、燃えるようだ。ツヤのあるタキシードがピッタリと身に着き、スラリとし
た脚に繋がっている。オシメはしていないようだ。ユッタリと唇を開く。「上出
来だ。ただし、私の知っている小林君なら、もう少し早く脱出していたよ」「ま
たワケの解らないことを……。内府像を返せっ。内府像は、他に自慢できるモノ
がない宇和島の、唯一の誇りなんだっ」「ほほぉ、誇りの根拠を過去に求めるか
……」「なっ、何をっ」イキり立つ小林に、気取って首を振りながら「根拠のな
い誇りを、虚栄心と言う」「う、うるさいっ。おとなしく縛につけっ」小林に似
合わない古い語彙が飛び出す。二十面相は鷹揚に笑って「元気があって宜しい。
しかし、君では俺を、この二十面相を捕らえることは出来ないよ。俺を捕まえる
ことが出来るのは、唯一人……」。

          ●

 「そこまでだ。二十面相君」我らが名探偵が、上に馬鹿が付くほど純真な目を
した少年探偵団もどきを率い、忽然と姿を現した。愕然とする二十面相、「あ、
あ、あ、明智っ。お前は、明智小五郎!」「変わっていないな、二十面相君。君
の犯罪には無駄が多すぎるのだよ」「うぬぅ、してヤられたかっ。だがな、明智
君、この二十面相を捕らえられると、本当に思っているのかい」「無駄なアガキ
は止せ。このビルは二百人の警官隊に取り囲まれているのだよ」「二百人? は
はは、このオイボレを捕まえるために、二百人だと」「二十面相が相手だからな」
「くくく、有り難う。俺にとって、最高の賛辞だよ。だがな、警官ごときが二百
人、いや三百人いようと、無駄だよ。なにせ俺は、二十面相なのだからな」老人
とは思えぬ素早い動作で二十面相が、ヒラリ、側に置いてあった木箱に飛び込ん
だ。小林が駆け寄ろうとする。が、キリッと見返す二十面相の眼力に立ち竦む。
「小林君。いや、君が、私の知っている小林君ではないとは解っている。しかし、
あまりに似ているのだ、小林君に。だから……、小林君と呼ばせてくれたまえ」
仮面の奥の目が急に柔らぎ、「愛していた……小林君」。アッケにとられる小林、
優しく見おろす二十面相。ブワッ。突如、二十面相の頭上で、黒い巨大な袋が膨
らんだ。木箱がユルユルと持ち上がっていく。「あっ」再び駆け寄ろうとする小
林を、明智/伊井が背後からガッシリ捕まえる。「先生、二十面相がっ、二十面
相がっ」「行かせてやれ」「でもっ、でもっ……」「行かせてやれ」伊井とは思
えぬ、毅然とした声だった。ユラユラ揺れながら上昇する気球から、二十面相が
身を乗り出し「さらば、小林君。贋の明智君」、快活な声が降ってくる。「そし
て、……有り難う。ははっ、ははははははは」蒼く抜けきった空に、二十面相の
高らかな笑い声が広がっていく。
 「ロマンよ、安らかに眠れ」呟く伊井の声は、微かに潤んでいた。「え?」驚
いて振り返る小林。気球をグッと見上げる伊井の頬に、一筋、二筋の涙が伝って
いる。パウッ、パウッ、パウッ。軽やかな破裂音が響く。キョロつく小林に伊井
は、「ワルサーPPK/S。二十面相らしい銃だ」。「銃? ああっ」小林が悲
鳴を上げる。黒い気球が見る間にシュルシュルと萎んで、百メートル下の海面に、
落下していく。「大変だっ。先生、先生、早く警官隊に言って、助けて下さい」
「助からねぇよ」「そ、そんな……。じゃぁ、僕が言ってきます」「誰にだ」「
だから……、警官隊に……」「そんなモン、何処に居るんだ」「だって、先生、
さっき二百人の警官隊が、って……」「嘘に決まってるだろ。警察も、オカシな
年寄りに拘わっているほど、暇じゃねぇよ」「そ、そんな……」。「俺はな、ガ
キの頃、学校の図書館で、汚ぇ木造の図書館で、少年探偵団シリーズを貪り読ん
だ」「え? 何ですか、突然」「二十面相に憧れたよ。明智小五郎じゃぁない。
二十面相に、だ」「何を言ってるんだよぉ。解らないよ」「二十面相は俺の、い
や、俺たちのヒーローだったんだ。夢中だった。文字通り、夢の中で二十面相と
遊んでたんだ」「…………」「夢を見たまま往って欲しかったんだ、彼には、彼
だけには……な」「じゃぁ、じゃぁ、先生は二十面相が自殺するって知ってたん
ですか」「当たり前さ。あの死装束を見りゃぁ誰だって解る」「死装束?」「オ
シメしてなかっただろ」。二人の背後で、とても純真な目をした少年探偵団が、
寄り添い合って泣きじゃくっている。
 でっかい太陽が、瀬戸内海に沈んでいく。少年の小柄な影が、もじゃもじゃ頭
の男に寄り掛かる。男の影が、しゃくりあげる少年の肩を優しく抱く。でっかい
太陽が、瀬戸内海に沈んでいく。

(お粗末様)



蛇足:
 伊井暇幻(いい・かげん) 愛媛県宇和島市に住む私立探偵。第一作では「忍
者の末裔」として、忍びの術を使うが以後、それらしいことをしていない。性格
は最悪で鬼畜のような奴。すけべぇ。性別はサド男。夢幻亭衒学と名乗る双子の
弟がいる。
 小林純(こばやし・じゅん) 十七歳。想いを寄せていた年上の女性が結婚す
ると聞いて逆上、その女性をレイプしてしまう。学校(私立のセパレート高校)
を退学になり、家を追い出される。街で伊井に拾われ、同棲。助手兼愛人。勇敢
で純真、頭も良くて運動神経は抜群。美少年、と見まごうばかりの美少女。
 高橋美貴(たかはし・よしたか) 身長182センチで筋骨隆々のニューハー
フ。美形。男にしか興味がない。小林を弟のように可愛がっている。武芸百般に
通じる。二十五歳。高等文官試験を圧巻の成績で通過した元・エリート。何故、
彼がニューハーフになったかは、謎とされている。伊井の助手。
 因みにシリーズ第一作は、小林純と高橋美貴が、実は見かけと逆の性別だった、
とゆーだけの話だった。
 オクトパス 宇宙人。成りゆきで伊井と対決、敗れて助手になる。対面してい
る相手のセクシャリティに応じて肉体が変形する。女には男、男には女、そして
僧侶を前にしたときは稚児形の阿修羅像に変形した。




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