AWC 鬼畜探偵・伊井暇幻「復活! 二十面相」/1 久作


        
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★タイトル (ZBF     )  94/12/31  18:51  (192)
鬼畜探偵・伊井暇幻「復活! 二十面相」/1 久作
★内容

 「君の活躍を聞いて僕、すっかり君を崇拝しちゃったんです」クリクリした瞳
を輝かせ、小柄な学生が小林を見上げている。純真な顔で詰め寄るヤツほど、タ
チの悪いモノはない。「は、はぁ……」買い物袋を下げたまま、小林が一歩退く。
学生が一歩進み出る。「同級生に話したら感激しちゃって、僕の考えに賛同する
者が十人も集まったんです。それで……」学生は思い入れタップリに言葉を切り、
上目遣いになりながら、「出来ちゃったんです」。「へ? 何が」と訊ね返しな
がらも小林の脳裏には既に、最悪の解答が浮かんでいた。「少年探偵団!」。
  「うわあぁぁ、ヤだあああっっ」いや、別に何故ということもないのだが、小
林は反射的に跳びすさり、前傾姿勢、脱兎の如く駆け出した。強烈に純真な瞳を
した学生から、一歩でも遠く離れたかったのだ。「あ、待って待って待って待っ
て」。小林は走る。逃げる。学生の連呼する「待って」が徐々に遠ざかる遠ざか
る遠ざかる…………近付いてくる近付いてくる近付いてくる。「え?」振り向い
た小林は、この上なく恐ろしいモノを見てしまった。学生が増殖している。みな
同じく偏執的なほどに純真な目をした学生が、何処から湧いたか十人ばかり、自
転車を”立ちこぎ”しながら背後に迫っている。「待って待って待って待って」。
「うわああああっっっ」と叫んだ瞬間、小林は、前方不注視、激しく固く電信柱
と抱き合ったのであった。

          ●

 「で、連れてきちゃったワケか」伊井は頭を抱えている。「連れてきたとゆー
か、連れてこられたとゆーか……」小林は頭を抱えている。極端なまでに純真な
目をした学生が十一人、ワラワラと狭い事務所に犇めいている。「ベビー南部。
ルガーP08。モーゼルM712まである。撃たせてくれないかなぁ」「撃たせ
てくれるさぁ。僕たち、少年探偵団だもん」「あ、あの赤い紐、捕縄だよね。あ
れで怪人オクトパスを捕まえたんだね」「亀甲縛りっ!」「なに、なに、キッコー
シバリって」「がんじ絡めに縛るのさぁ」「へぇ」「でも意味ないよね、胴体に
まで縄を巻き付けても」「其処が美学なのさぁ。名探偵と怪人の間には、美学が
なきゃぁ」「そぉかぁ、亀甲縛りって美学なんだぁ」「そう、美学なんだよ。猟
奇の美学!」「きゃぁきゃぁ」「わぁわぁ」「くすくす」「うふふふ」。うち騒
ぐ学生ども。
 「じゃかぁしーー」とうとう伊井はキれた。ビクッと静止する自称「少年探偵
団」。過度に純真な目を見開いて、そう、怒られた子猫のような表情で、伊井を
一斉に見上げる。「お前ら大学生だろーが、大昔のボンボン小学生みたいな喋り
方しやがって」。「だって僕たち、少年探偵団なんだもん」「その前提からして
無理があるっちゅうとろーが。お前ら、聖キャサリン女子大のヤオイ研究会やろぉ
が」「酷い! 僕たち、真面目な漫画研究会ですっ」「だいたいなぁ、お前ら、
その学生服、何処で手に入れた?」「何処って……、服屋さん……」学生たちは
俯き、さも純真そうな上目遣いになる。「嘘言うな。全然サイズが合ってねぇじゃ
ねぇか。最近、中学校で学生服の盗難が相次ぐと思ってたら……」「だってぇ、
服屋さんで買ったら、男の子の臭いがしないんだもん」「男の子の臭い?」
 「子供から大人になりかけた少年の爽やかな臭い」「爽やかだとぉ?」「そぉ、
男の子は大人みたく饐えたエグい臭いじゃなくって……、うーん、如何言ったら
良いのかなぁ。とにかく少年の臭いなワケ」「あ、あのなぁ……」「でも、良かっ
たぁ。僕たち少年探偵団が公認されて」「うんうん」「うんうん」途方もなく純
真な瞳で頷き交わす団員たち。「公認?」アッケにとられる伊井。「小林さんが
団長に就任してくれたんです」。「くぉばやしぃぃ、ぬぁんちゅうコトをぉ……」
怒りに震える伊井に小林は、「し、知らないよぉ」。「えぇー、だって、小林さ
ん、電柱にぶつかって倒れたでしょ」「倒れたけど……」「団長になって下さいっ
て言ったら『うんうん』って言ったもん」「それは呻いてたの!」

          ●

 チーン。古風な洋館の一室。大きな仏壇が据えてある。かなり高齢の紳士が線
香をあげている。「明智君、一年ぶりだね。ふふ、自分の誕生日を忘れても、君
の命日は忘れはしないさ。……俺も老けてしまったよ。ほら、俺の自慢の黒ズボ
ン、モッコリ膨れているだろ。みっともない話さ。オシメをしているのだ。もう
俺も九十を超した。二十面相もオシメをしちゃぁ、おしめぇさ。はは、ははは…
…。あぁ、君は駄洒落が嫌いだったね。君は好い男だったが、駄洒落を解せぬ所
が、玉にキズだったぞ。…………君が羨ましいよ。薬物入りのエジプト煙草の喫
い過ぎで、ポックリいくのだもの。大往生も良い所だ。だけど俺は、君と違って
健全だからな。幼い頃からサーカスで鍛えているし。……だが、俺も今では殆ど
寝たきりで、小林君の世話になっている有り様さ。小林君かい? 彼は元気だよ。
もう七十を超えるというのに、矍鑠たるものだ。あぁ、そろそろ小林君が訪ねて
くる時間だ。弱気な寝たきり老人を演じなきゃぁな。そうすると、小林君は、優
しくしてくれるのだ。まぁ、演じると言っても、殆ど地の侭で良いのだが……。
じゃぁな、俺もジキ、ソッチに往くから」老人は蝋燭の火を消して部屋を出てい
く。扉を閉める。部屋は暗黒に包まれる。

          ●

 「はい、ご飯ですよ」七十前後の老人がお盆を持って部屋に入ってくる。「ま
た、お粥か」九十を過ぎても駄々を捏ねる二十面相。「文句言わないで下さい。
ちゃんと栄養と消化を考えて作ってるんですから」「偶には、肉でも食いたいよ。
俺は老人であって病人じゃないんだ」「駄目です。本当に病人になりますよ。…
…うっ」「ど、どうした、おいっ、小林君っ」「し、心臓が、心臓が……」小林
が胸を押さえて崩れ落ちる。慌てて抱き抱える二十面相。「おいっ、小林君っ、
しっかりしろ」「はぁはぁ、く、苦しい」「小林君っ」「に、二十面相さん」小
林が、震える手を差し伸べてくる。「喋るな。すぐ、医者を呼んで来る」立ち上
がりかける二十面相の腕を、小林はしっかり捉え、「行かないで下さい。僕は、
もう駄目です」「馬鹿なことを言うんじゃない」「解るんです。あぁ、明智先生
が迎えに来てくれた……」うっとり目を閉じる小林。「馬鹿っ、しっかりしろ」
「に、二十面相さんと闘っていた頃が、一番楽しかったです」目を閉じたまま、
小林が呟くように言う。「しっかりしろっ、おいっ」「恰好良かった。先生も、
二十面相さんも……。息詰まるような、あの感覚……、楽しかった」「しっかり
しろっ、おいっ小林君っ小林君っ」。二十面相の腕の中で、小林の顔が一瞬、少
年に戻った、ように見えた。夢見るように安らかに、逝った。「小林くうううう
うんんっっ」。

          ●

 二十面相が仏間に佇んでいる。泣きはらしたか、目が赤くなっている。「明智
君、酷いじゃないか。命日だからって、小林君を連れて行くなんて。あんなに元
気だったのに。あんなに突然……」握りしめた拳が震えている。「俺は独りぼっ
ちになってしまったよ。……あの頃は良かった。君という好敵手が居た。美しい
小林君が居た。そして、俺は若かった。でも俺は独りぼっちになってしまった」
二十面相はボンヤリと仏壇を見つめていた。「は、はは、はははっ、ははははは
ははっ」突如、けたたましく笑う。「言ってくれたよ。恰好良かったって、小林
君が、俺に、死ぬ間際に。二十面相さん、恰好良かったって、ううっ、か、恰好、
良かったって……」泣き崩れる二十面相、暫くしゃくりあげていたが、グイと顔
を起こし、「そうさ、俺は二十面相だ。二十面相なのだ」その目には、狂気にも
近い情熱が蘇りつつあった。「そうだ、俺は二十面相だ。やるよ、明智君、俺は
二十面相に戻る。小林君、見ててくれ。二十面相の、俺の姿を」。

          ●

 宇和島の中心部・大街道と呼ばれるアーケード街、午後八時ともなると店は軒
並みシャッターを下ろし、酔客だけがマバラに歩いている。「ふふふふふ、ふは
ははは、はあっはっはっはっはっはっ」街の外れで突如、高らかな笑い声がした。
道行く人々は驚き、緩やかな上り坂になっている南の方角を見上げる。「ぐおっ、
げほっげほっ、かーー、ぺっ」不思議な笑い声は、少し咳込んだようだ。
 「あ、あれは何だ!」誰かが叫んだ。ガーー。何かが勢いよく転がる音が響い
てくる。黒い、何か黒い物が、笑い声を上げながら、近付いてきた。人だ。黒ず
くめの男が、エンジン付きのスケボーに乗って、坂を下ってくる。黒いマントに
くるまり、スケボーの上に蹲った男、その男の顔は、黄金色に輝いていた。端正
な、しかしニタニタと笑う不気味な黄金の仮面が、「わはははははは」聖人か狂
人にしか為し得ない哄笑を上げ、猛烈なスピードで近付いてくる。
  黒ずくめの怪人は、一番人気の多い街の中央、「牛鬼スクゥエア」にさしかか
る。ブワサッ。いきなり、怪人がマントを翻す。黒いマント、深紅の裏地、そし
て黄金の仮面、狂気の配色だ。アッケにとられ、遠巻きに見守る人々の足下に、
ひらひらビラが舞い落ちる。一人の少女が拾い上げる。「明後日正午、内府像を
頂戴つかまつるべく存じ居り候 二十面相」。慌てて顔を上げた少女の目の端で、
怪人は、闇の中へと溶け込んでいく。

          ●

 翌朝、伊井に腕枕をしてもらいながら小林が「オクトパスさん、どうしてるか
なぁ」「あん? あぁタコの八っつぁんか。アイツなら旅先で美貴とヤりまくっ
てるだろうよ」「ねぇねぇ、オクトパスさん、男になってるのかなぁ、それとも
女かなぁ」「男に決まってるだろ。美貴は女に興味ないんだから。まぁ、宇宙人
の性別を云々しても始まらないがな」「でも、男にも女にも変形できるって便利
だね」「まぁな、でも、なんで俺の周りにゃ、性別不明な奴らばっかりなのかな。
もっとさぁ、女らしいタオヤメってぇか……」「ふん、僕じゃ不満なの? 」拗
ねる小林。「まぁまぁ、機嫌直して一発……」甘えた声を出し、伊井が小林の細
やかな腰に手を回す。
 と、そのとき乱暴にドアを叩く音。「ダメだよ、お客さんだから」小林は伊井
の無骨な腕をスリ抜けて、クルンと早支度、イツモのTシャツとジーンズを身に
着け応対に出る。開けると、バラバラと雪崩込む学ラン姿十一人。「あ……。セッ
クスしてた方がマシだった」とガックリ呟く小林に、モノ凄く純真な目をした十
一人が、「内府像が」「ゆうべの八時ごろ」「スケボーに乗って」「二十面相の」
「ビラビラ」「頂戴って」口々に喚き立てる。「あーん? ナイフ像が昨夜の八
時ごろ、スケボーに乗って、二十面相のビラビラを頂戴って言っただとぉ」毛布
を巻き付けた伊井がノソノソと立ち上がる。「違う違う、商店街で」「スケボー
に」「内府像を」「頂戴って」「二十面相が」「なになに? 商店街でスケボー
に内府像を頂戴って二十面相がぁ」「違うってばぁ」「解ってるよ。エンジン付
きスケボーに乗った二十面相が昨夜八時ごろ、内府像を盗む予告ビラを商店街で
撒いたんだろ」「そーそー」極めて純真な目で頷く少年探偵団員たち。

          ●

 「先生、何ですか、この包み」テーブルの上に厳重に包装した箱が置いてある。
「何って、内府像さ」「えっ、どうして、そんな物が……」「盗んできた」コト
もなげに言う伊井。「ど、どぉして……」小林は絶句する。「二十面相に、ひと
泡吹かせてやるのさ。博物館には、チャンと贋物を置いてきた。最近の複製は専
門家でも解らないからな。暫くはバレる気遣いがない」「で、でも、どぉやって
……」「俺がカメラマンのバイトをしてるのは知ってるな」「うん」「今、博物
館で収蔵品をカラー撮影してるんだ。写真をスキャナで取り込んで静止画像デー
タベースを作るって話だ。俺、あそこの学芸員と知り合いでさ。安く押し付けら
れたんだ」「だから?」「だから、撮影の合間に、チョイと……、ってワケさ」
「……じゃあ、二十面相をやり過ごして、コッソリ返しとけば」急に元気になる
小林。
 しかし伊井は冷然と「馬鹿か、お前」。「え?」小林はキョトン。再び伊井は
「馬鹿かっつてんだよ」「なんでだよ」ムクれる小林。「あのなぁ、それじゃ一
文の得にもなんねぇだろぉが。二十面相に盗ませる。で、俺が博物館に本物を返
すワケだ。二十面相には逃げられたが、内府像は取り返してやったぞって。博物
館の奴ら、予告を完全に悪戯と思っていやがる。驚かせて、たんまり謝礼を頂くっ
て寸法だ」「もしかして、二十面相に罪をなすり付けようという……。それって
オカシイよ」「良いじゃねぇか。二十面相は職業ドロボウだ。彼は自分の仕事を
全うする。俺は探偵として内府像を博物館に返す」「き、鬼畜っ」。叫ぶ小林を
伊井が、乱暴に押し倒す。「そうさ、俺は鬼畜だ」小林の、しなやかな四肢を制
圧し、汚らしく嗤う。白く細い首に唇を這わせ、赤い吸印を幾つも付けていく。
「や、やめろっ、先生なんか嫌いだっ」。小林の憎悪の篭もった声には頓着せず、
伊井が淫らな指で、引き締まった肢体を陵辱し始める。「やめろっ、ほ、本当に
怒るぞ。やめろっ」「怒れよ。怒れ、憎め。へへへっ、そうだ、その目が、一番
ソソる」「やめろっ、やめろおおおっっ」。
 コトが済み、小林が伊井の下から抜け出しながら、「でもさ……」。もうスッ
キリした表情になっている。結局、この二人は相性が良いのだ。SとM。「ん、
なんだ」一発抜いて伊井も晴れやかな顔で応じる。「複製って何日もかかるんだ
よね。どうして昨日の今日で、それが出来たの。まだ、何か隠してるね」「え?
 あ、いや、それはぁ……」言い澱む伊井のフグリを小林が握りしめる。「痛え
っ、やめろっ、放してくれえ」「話したら放すよ」「わ、解った。喋るから放し
てくれぇ」「喋る方が先」。
 伊井は白状した。伊井は収蔵物の撮影開始と同時に内府像の複製準備に取りか
かり、とっくの昔に取り替えを実行、其処に折良く二十面相が予告状を送りつけ
てきたのだ。「じゃあ、……」小林はフグリを弄びながら、「二十面相が現れな
くても、内府像で儲ける積もりだったんだね」「そ、その通りだ。さあ、喋った
から放してくれえ」。「うん」小林はニッコリ笑う。伊井の股間で、コリッ、奇
妙な音がする。「うぎゃあああああっっっっ」七転八倒、股間を押さえて悶え狂
う伊井を見下ろし小林が、「潰しちゃいないよ。お仕置きさ」。

(続く)




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