#2908/5495 長編
★タイトル (AZA ) 94/12/29 8:48 (159)
優しい事件 9 永山
★内容
<<−−執筆者の言葉−−>>
玉置三枝子(たまき みえこ)
最近、ちらほらと、年寄りじみてきたと言われる。小姑さんとも言われる。
私は海の沈黙……。でも、ミステリー読むと元気になれるんだな、これが。
香田利磨 (こうだ りま)
今やってる連載で登場人物名の誤りがあると、お叱りの指摘を多数いただき
ました。この場を借りてお詫びし、今後このようなミスがないよう注意します。
剣持絹夫 (けんもち きぬお)
ついに! ミステリーのトリックを思い付きました。奇術を応用したこのト
リック、新しいものかどうかを確かめたくても、みんなに聞けない……。
本山永矢 (もとやま ながや)
バナナと食パンとマヨネーズがあります。食パンにマヨネーズを塗ります。
そのパンでバナナを巻きます。食べます。うまかったです、意外と。
木原真子 (きはら まこ)
イラストだけじゃなく、漫画を描けたらなあ、とよく夢想する今日この頃。
もし叶うなら、栗本薫「伊集院大介シリーズ」を原作に描いてみたいですぅ。
SATOMI(さとみ)
誰かが覆面作家やってんだろという投書がいっぱいあって、ちとショック。
そんなら、誰だか当ててみなさい。賞品?なし。みーんな、外れるんやから。
奥原丈巳 (おくばら たけみ)
大きな仕事二つが、やっと片付いた感じである。もちろん、卒論と就職。卒
論の発表はまだだが、とにかく一段落。冬休みはたまったミステリーを読破だ!
編集後記
師走に走るのは師ばかりではない。学生だって忙しく動き回ります。という
訳で、クリスマス兼お正月号という、実に季節にあったキャッチコピーの本号
が完成しました。中身の方は、季節にあっているとは保証できませんが……。
とりあえず、お楽しみいただけましたら、こちらとしても作り手の喜びが味わ
えるってものです。
新たな年を迎え、推理研では様々な企画を実行していくつもり。読者の皆さ
んも何かよいアイディアがございましたら、例のごとく、ボックスの方へお願
いします。
最後に、何だかんだ言っても、新年号はこれがなければ終わらないでしょう。
明けましておめでとうございます。本年もご愛読のほど、よろしくお願いいた
します。
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「見つけた!」
思わず、叫んじゃった。でも、寒風の中、苦労して探していたんだから、そ
れも仕方ないでしょ。
「トイレとはねえ」
ミエは感心したように立ち尽くしている。
トイレに隠れているのではという案を出したのは、あたし。どうして思い付
いたか−−答、外はすでに暗くなっている。原稿を読むとしたら、明かりが必
要だ。もしも懐中電灯なんか持っていないとしたら、どうする? 部外者でも
気軽に入れる明かりのある場所。しかも個室があるとなれば、それはトイレし
かなかった。
「さあ、出てらっしゃい。原稿を汚さないよう、注意してね」
あたしに見つけられた瞬間、縮こまった小さな影−−思った通り、小学生だ
った−−は、今、渋々と歩み出てきた。
「名前は? 何て言うの?」
今どきの小学生は外見からは判断できぬほど大人びている場合もあるみたい
だけど、あたしとミエは、とりあえず、こんな言葉遣いをした。
けど、返事はなし。努力して優しく言って上げてるのに、こっちを恨めしそ
うな眼で見ている。折角、かわいいリボンでおめかししているのに、美少女ぶ
りが台無しね。
「まだかあ?」
外では男性陣の声。女子トイレに入る訳にいかず、待っているのだ。
「とにかくさ、その紙、こっちにちょうだい」
女の子がしっかりと握ったままの原稿の束に、あたしは手を伸ばした。する
と、その手はさらに強く束を握りしめた。うわ、原稿にしわが……。
そのとき、どこかで聞いたような声がした。
「おーい、真美子ぉ! どこにいるんだぁ?」
声がした途端、女の子は駆け出した。まるで漫画みたいに、その風圧で、こ
ちらはよろめいた感じ。
あっと言う間にトイレの外に飛び出した女の子は、十五メートルほど向こう
にいる大人を目指して、さらに走っていく。
「あ、あの人、小佐田先生じゃないの」
ミエがつぶやいた。そうだ、確かに小佐田助教授。推理研の顧問をやってく
れてる……。
見ている間に、女の子は小佐田先生に飛びついた。そして、泣きそうな声で
言った。
「お父さん」
広くない小佐田先生の研究室に、推理研のメンバーは集まっていた。
「迷惑をかけたみたいだね。悪かった」
自分も頭を下げながら、娘−−小学四年生になる、小佐田真美子ちゃん−−
の頭を押す先生。
「大迷惑でしたよ」
ミエは、あきれたように息をつきながら、肯定する。
「いやあ、ほんとにすまなかった。十一月の学園祭のとき、真美子を連れて行
ったんだ。憶えているかね?」
「憶えてません」
すぐにミエは言い切った。追い打ちをかけるように、高野君が言った。
「そもそも、小佐田先生。推理研の部屋に来てくれましたっけ?」
「あ、いや、面目ない。僕自身は足を運んでいないんだ。でも、真美子は一人
で勝手に歩き回って、君らのとこにも行ったらしい。元気がよすぎて困ってる
んだよ」
娘を見やる小佐田先生。すっかり、親馬鹿。
「あの、真美子ちゃんが僕らのとこに来たと、どうして分かったんです?」
そう聞いたのは剣持。先生は笑みを絶やさず、
「この子が君らの部誌を手に持っていたからだよ」
と答えた。なるほど。
「それで、この前の部誌を読んで、アンケートに一丁前に感想を書いたんだよ、
真美子が。いや、中身は知らないがね。それを回収箱に入れたのは僕のワイフ
だ」
臆面もなく、奥さんのことを横文字で呼ぶとは、油断ならぬ奴?
「で、今度はつい一週間ほど前かな。君らがまた部誌を出すってことを、何と
はなしに真美子に話したんだ。そしたら、部誌を出す日にぜひ、大学に連れて
行けってせがまれて……。まさか、こうなるとは思わなかった」
後は自分で説明なさいという感じに、父親は小さな娘の背中を押した。
「さあ、そろそろ話してくれないかな。こんないたずらをした理由を」
真子が、これまたなるべく優しげな声音で言った。でも、まだ相手は口を開
かず、心も開かない。
「まさか、一刻でも早く、最新号を読みたいいうんとちゃうやろ?」
高野君が関西弁で言ったら、真美子ちゃん、おびえてしまった。困ったもん
だ。あたしは高野君には黙ってもらって、後を引き継いだ。
「あたし達、怒っているんじゃないのよ。この前の本を読んでくれたんだった
ら、分かると思うけど、ここにいるみんな、クイズとかなぞなぞとかが大好き
なの。でも、答のないクイズは嫌よ。お姉ちゃん達、真美子ちゃんがこんなこ
とした訳を知りたいなあ。ね?」
「……ごめんなさい」
ようやく口を開いてくれた! でも……。
「謝らなくていいの。どうしてしたの、こんなこと」
「だから……ごめんなさい。あんな、あんな、ひどいことを書いて……」
しゃくりあげながら、真美子ちゃんは懸命に喋った。その言葉は聞き取れた
けど、意味が理解できない。
「あんなひどいことって?」
横からミエが言った。
「アンケート……感想……」
単語が二つ。それだけで充分だった。この子ったら、きっと、部誌について
滅茶苦茶にけなすようなことを書いたんだ。それを、後で思い返し、あたし達
に悪いと思って……。けれども、それがどうして、原稿を取ることにつながる
のかしら?
「自分のアンケートが、今度の部誌に載っていたらどうしよう。それが心配だ
ったんだ?」
静かだった奥原部長が、ここで口を開いた。うなずく女の子。
「自分の本当の気持ちじゃないアンケートが、もしも次回の本に載ったら困る
と考えて、原稿がコピーされる前に確かめようとしたんだ?」
ミエが付け加えた。再びうなずく真美子ちゃん。
あたし、おかしくなってきちゃった。大騒ぎして、その根本がこんな理由だ
なんて。せめて、直接、あたし達のとこに「あのアンケートは載せないでくだ
さい」とでも言ってくれればいいのに……と思ったけど、この子、あたし達が
怒っているものだと思い込んでいたんだから、それも無理よね。
「こういう訳でした、先生」
奥原さんは、小佐田助教授に苦笑いじみた表情でこぼした。
「先生の方から、説明してあげてください。僕らが全く怒っていないこと、批
評する自由のこと、その他諸々のことを」
「分かっているよ。国文学者として情けないよ。本当に悪かったね」
こちらも苦笑しながら、小佐田先生は立ち上がり、真美子ちゃんを抱き抱え
た。あたし達は退散するときだ。
年が明けて、一月の十日だったかしら。手紙が届いた。小佐田真美子ちゃん
からの物で、中身は、この前送った部誌の最新号についての感想と、本の楽し
み方を教えてくれてありがとう云々というお礼の言葉だった。
それは、この子が始めに寄せたあのアンケートの中身と比べると、段違いに
整っていた。
−−−終
推理研シリーズ 神に死す 雪月花荘の殺人 ルーペの向こう側 焦点 祭
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