AWC 優しい事件 5  永山


        
#2904/5495 長編
★タイトル (AZA     )  94/12/29   8:36  (151)
優しい事件 5  永山
★内容
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「あ、ミエ」
 茂みの向こうでごそごそ音がするので覗いてみたら、ミエだった。
「見つかっ……てないようね、その様子じゃ」
 暗くなりつつある中、ミエは眼を凝らしながら、あたしに言った。あたしは
ただ黙ってうなずき、しばらくミエと一緒にあの影−−恐らく子供−−を探す
ことにした。
「見つけたらどうするつもり?」
 眼は前方を見据えたまま、あたしは隣に聞いた。
「原稿が無事かどうか、それ次第ね。原稿さえ無事だったら、相手は子供のよ
うだったし、何も言わないわ。それじゃあ不満?」
「ううん、賛成よ」
 それから、あたしはさっきから考えていたことを言ってみることにした。少
し迷っていたんだけど。
「ねえ、ミエ」
「何?」
「もしかしたら……奥原部長がさ、自分の作品の出来が気に入らないって言っ
てたじゃない。作品を部誌に載せたくなくて……」
「知り合いの子供に頼んで盗ませた? 無茶な考えだわ」
 あきれた口調のミエ。
「いい? 奥原さんは自分での載せる載せないを決められたのよ。載せると言
っておいて、今さら原稿を盗んでどうしようっての」
「そこはプライドの問題というか、その、約束があったからよ」
「約束って?」
「就職や卒論が落ち着いたら、小説書くって奥原さん、約束してくれていたわ。
それを守るためにどうにか作品を仕上げたけれど、内容は気に入らない。でき
れば部誌に載せたくないんだけど、約束は守りたい。その辺りの葛藤があって、
最終的に子供に盗ませる手段に出た……」
「そんなたいそうなこと? よく思い出してよ。奥原さんはすでに原稿に穴を
開けてるってことを」
 ……言われてみて、思い出した。今度の部誌の企画に、「1992年のベス
トミステリー」がある。各部員が今年度出版されたミステリーの中からお薦め
作品を六つ選んで、コメントを添えて原稿の形にするという手はずだったんだ
けど、奥原さんと真子は作品名だけで、コメントなしだったんだ。
「ベストミステリーで約束を中途半端にしか果たしていない奥原さんが、どう
して小説の方にはこだわるのかしら」
「……スミマセン。あたしの妄想でした」
 −−あたし達の捜索は続いた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
エッセイ 「たかが本格されど……」  玉置三枝子
 本格の弱点とは何か? 今回はこれを考えてみたい。
 これまでにも少し記してきたかもしれないが、いわゆる本格を面白くない物
とする向きが上げる理由は……。
 1.人間が描けていない
 2.リアリティがない
 3.描写力がない。館を図面でなく、言葉で説明できないのか?
 4.いかにも造り物めいている。「読者への挑戦」を入れるのが、その極み
 他にもあるだろうが、まとめれば以上に集約されると思う。
 これらを見て気が付くのは、4を除き、作家の筆力に関係している(らしい)
項目が揃っていることではないか。つまり、最近の本格批判の声は、新本格派
と呼ばれる新人作家に向けられているようだ。
 1については、本格以外の推理作家でも、そのほとんどがデビュー時にはう
るさく指摘されていたのではないか。本格派の作家だけを非難するのは的外れ
である。さらに、本格推理の一手法として、人間に関する属性を隠すことで読
者を欺くというものがある。このため、本格派作家は、人間を描く訳にはいか
ない場合にも遭遇する。そこのところを理解した上で、1の批判をしているの
だろうか?
 2については、大いに反省すべき点があると認めざるを得ない。大した理由
もなく、本格推理とくれば離れ小島か山奥にある別荘が舞台。偉大なるマンネ
リズムという型があるにしても、あまりにも非現実的である。現代に合った舞
台を設定するか、どうしても孤島を舞台にしたいのなら、それなりに工夫を凝
らさねばならないだろう。
 3についてはあまり言うべき言葉はない。図面を入れるのは、一種の儀式み
たいなものであろう。さらに付言すれば、言葉で館の構造を説明するとトリッ
クがあらわになってしまう場合もある。無論、このことは館に限らず、あらゆ
る状況に関する描写について言える。
 問題は4だろう。いくら現代に合った舞台を設定しても、恐らくほとんどの
場合、どこか不自然で造り物めいた雰囲気が出てしまうと危惧される。これが
なかなか曲物で、この雰囲気がよい味として働くこともあるので、全面的に排
斥する訳にはいかぬ。そもそも、排斥すれば、その作品は本格まがいのただの
ミステリーとなろう。
 本格とは、多分に造り物めいてしまう要素をまとっていると、筆者は考えて
いる。一般的に科学が万能とされる時代に、密室だの消える犯人だの異形の物
だのを描こうとしているのだ。本格ミステリーを志す作家は、物語の前半を詩
人、後半をリアリストになりきって書かねばならないという主旨を、かの島田
荘司が言っていたはずだ。科学と芸術のあいのこだと言われる所以がここにあ
る。
 とにかく、先の四つの項目をクリアーする作品をものにしていかないと、本
格というミステリーの一分野は不当に扱われる状況が続くだろう。また、新本
格派と呼ばれる作家達の活躍の場も奪われるかもしれない。よくも悪くも注目
されている内に、はっきりとしたスタンスを確立(あるいは呈示)してみせよ
うではないか。
 この言葉を本格志向の作家、殊に新本格派の作家へのエールとして、今回は
筆を置きたい。(ワープロのくせに、などと揚げ足を取らぬよう!)


連載第三回 江戸川乱歩殺人事件     香田利磨
*登場人物              氏木強蔵(うじきごうぞう)
明智小五郎(あけちこごろう)     地獄王子(じごくおうじ)
越後薫子(えちごかおるこ)      越後一丸(えちごかずまる)
山村記子(やまむらきこ)       朝霧順(あさきりじゅん)
峰科金十造(みねしなきんじゅうぞう) 峰科千代子(みねしなちよこ)
峰科万作(みねしなまんさく)     峰科百代(みねしなももよ)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
これまでのお話・・・越後一丸・薫子の兄妹は、招待された先の峰科万作の別
荘で、事件に遭遇する。地獄王子と名乗る者から殺人予告を受けた万作の父・
金十造は、庭を散策していたところを怪人物に襲われ、一時的に失明状態とな
る。この事件を解決すべく、依頼を受けた名探偵の明智小五郎が到着し、別荘
内はどうにか落ち着きを取り戻した。ただ一人、探偵マニアの薫子は、明智と
対面(推理合戦?)できるとあって張り切っているが……。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「やれやれ、おまえにはかなわないよ。探偵ごっこを続けるのは勝手だが、理
由もなく他の人達を不快にさせるような言動は謹んでくれよ」
「もちろん、心得ています」
「それに、おまえの尊敬する明智探偵に迷惑がかからない範囲でやれよ」
 私はことさらに、「尊敬する」に力を込めて忠告した。薫子に通じているか
どうかは、若干の疑問の余地があったが。
「さあ、行きましょう」
 立ち上がる薫子。まことに唐突な言動である。
「な、何だ? どこへ行くって?」
「決まっています。尊敬する明智小五郎探偵に、お話を伺いに」
 わがままなお姫様のように言い切ると、我が妹はいくぶん気どった歩みで、
廊下へと出て行った。邪気のない笑顔をしているだけに抗し難く、始末に負え
ない。
 呆れながらも、私はすぐさま追いかけるしかなかった。

 薫子と明智探偵との間に交わされた会話を、ここに事細かに再現してみせて
もよいのであるが、やはりやめておこう。何故なら、二人の会話は明智探偵が
これまでに手がけてきた事件について、薫子がお説拝聴するかあるいは質問を
するといったやり取りに終始したからである。中には興味深い内容−−例えば、
意外と明智は物覚えがよくないのか、しばしば小説として発表された事件と彼
の話とは食い違った−−もあったのだが、そのほとんどは冗長に過ぎ、また今
度の事件との関連もさほどなさそうだと判断し、省略させていただく次第であ
る。
「とても有益な話ができ、感激です」
 一時間と少し経った頃、薫子は声を震わせるようにして言った。
「お時間を割いていただき、ありがとうございました。ぜひ、今度の事件でも、
快刀乱麻を断つ冴えを期待しています」
「ああ。もちろんだとも」
 探偵はにやりと笑みを作って、断言した。若き日には生意気に見えたかもし
れぬその表情が、今では実に頼もしく見えるではないか。
「事件が解決した後、また、いつか」
 そんな挨拶をしてから薫子は私と一緒に、明智探偵の部屋を出た。
 廊下の明かりの具合なのか、薫子の顔色がいつもと違って見えた。
「どうした?」
「え?」
「顔色、どこか変だぞ」
「あ、ええ。きっと、憧れの探偵に出会えたため、気分が高揚しているせいな
のでしょう。もう大丈夫、落ち着いてきましたから」
 薫子は固い口調で応じた。よほど、明智探偵と話せたのが効いているらしい。
私はそっとしておくことに決めた。
 そんなとき、廊下の向こうからかけてくる人物があった。峰科万作だ。
「どうしたんだ、そんなに走って」
「ちょっとね……」
 言ってからしばし考える面持ちの万作。すぐに結論は出たらしく、顔を上げ
た。


−−−続く




前のメッセージ 次のメッセージ 
「長編」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE