AWC 『ブラジルから来た少年』(2) コウ


        
#2890/5495 長編
★タイトル (HBJ     )  94/12/ 6   0: 9  (139)
『ブラジルから来た少年』(2) コウ
★内容

「だからさあ、黒人とペッテイングをしながら歩いているボディコン・ギャルの気
持ちも分からないでもないよ」と、アパートで田村君は葉子に話しました。
「馬鹿じゃないの?」又しても葉子は田村君を軽蔑しています。「日系ブラジル人
に、大和民族の誇りを持て、などと言うのは、曙に、日本人よりも日本人らしい、
と誉める様なものなのよ。だいたい、湘南なんかよりもコパカバーナの方が、はる
かに有名じゃない。やっぱり田村君はシーマを自慢するお父さんの血を受け継いで
いるのねえ」などと説教を垂れながら、葉子は部屋の中をうろうろしています。「
ねえ、私のCDラジカセ、何処だか知らない?」
「そこにあるじゃん」と田村君は言いました。
「ディスクマンではなくて、CDラジカセがあったでしょ? パナソニックの」
「ああ、あれか。あれはコバヤシにやった」
「どういう事?」葉子は、目を点にして小首を傾げて呟きました。それから、今度
は大きな声で、「まだローンが残っているのよ」と怒鳴りました。
「だって、レンズが壊れているって言っていたじゃんか。支払いが終わったら捨て
るのかよ」
「あれは、時給900円のバイトでちょっとずつ返済していたのよ」
「ブラジルじゃあ、働きたくない奴は働かないんだ」
「下の子は、働いているじゃない」
「ここは日本じゃないか」
「ここは日本だから日本でブラジルの習慣について言わないでよ」と言うと、葉子
は胸にぶら下がっているネックレスを引きちぎると、「なによ、こんなネックレス、
田村君のは施しの快楽よ、何でも物で買えると思ったら大きな間違いよ」とヒステ
リックに叫びました。

 だけれども、田村君が施したのは物だけではありませんでした。
 田村君は、先週の日曜日の鈴鹿グランプリのセナの優勝を、コバヤシに見せてあ
げたくて、たまりませんでした。葉子のビデオテープ収納ワゴンを漁ったら、綺麗
に録画されてるビデオを見付ける事が出来ました。だけれども、途中に入っている、
NOVAのババアや、ぱっとサイデリアの小林亜星のCMが、どうにも醜くて、「
こんなものはコバヤシに見せる訳には行かない」と思いました。そこで、あっちこ
っちのチャンネルから、後藤久美子や牧瀬りほの登場するCMを拾ってきては、差
し替えたりしている内に、夜中の2時をまわっている事に気が付きました。ついで
に、「俺は、牧瀬りほの親戚じゃない」という事にも気が付きました。「そもそも、
ブラジル人にセナを自慢するなんて、頓珍漢なんじゃないのか?」と考えたら、ト
カトントン、と聞こえた様な気がして、田村君は、急に恐くなってしまいました。
「葉子ちゃん、葉子ちゃん」田村君は、ベットの葉子を揺すって起こしました。
「そんなに頓珍漢な事ではないわ」と眼を擦りながら葉子は言いました。「だって、
私がアメリカにホームステイしていた時には、ホストファミリーが、寿司バーに連
れて行ってくれたし、私の父親は岸恵子の大ファンだったけれども、岸恵子がフラ
ンス人と結婚したら白けたと言っていたから、セナが本田宗一郎と握手をしていた
らブラジル人は白けるだろうから、セナをブラジル人に自慢しても、頓珍漢という
事にはならないのよね。だいたい、人間というものは、ちょっとでも自分が親しみ
を感じているものを、丸で、自分の所有物の様に自慢する性癖があるのであって、
例えば、天皇陛下とプミポン国王を見ていれば、“どうだ、我が天子様は土人の王
様とは訳が違うんだぞ”と共同幻想を抱くけれども、上品なんだか虚弱なんだか分
からないご学友やら、黛敏郎などというインチキ臭い作曲家が現れると“あんな奴
が、私よりも天皇と親しいなら、私は共産主義者になる”という具合に、簡単に、
共同幻滅になる訳で、以上の様な言い方をすると、如何にも高尚な問題の様に聞こ
えるかも知れないけれども、要するに、設楽りさこと結婚したから、もう、カズの
応援をやめる、という、にわかJリーグファンと同じなのよ」と言うと、田村君の
肩を撫で撫でしました。
 しかし、葉子の慰め言葉にも関わらず、田村君は、ちっとも、心安らかではあり
ませんでした。だって、マクラーレンには、もはやHONDAエンジンは積まれて
いないのだし、本田宗一郎はとっくに死んじゃったし、「葉子の言っている事は、
滅茶苦茶だ」と思ったからです。
 田村君の滅茶苦茶も、エスカレートする一方でした。
 田村君は、日曜日の夕方6時からJ−WAVEでやっている『サウジサウダージ』
というブラジル音楽番組のテープを録音してプレゼントしたり、広尾の明治屋まで
行ってブラジル産のコーヒー豆や熱帯の果物を買ってきてプレゼントしたり、極め
つけは、小野リサのCDをダビングしてプレゼントする、という事でした。それは、
もう、大久保界隈の日系ペルー人をつかまえて「フジモリ大統領は日系人だから、
俺に感謝しろ」と言っているのと同じぐらいに素っ頓狂な事なのですが、それでも、
気持ちがいいので、止められませんでした。
 そうこうしている内に、今度は、「コバヤシがビデオデッキを持っていないので
鈴鹿グランプリのVHSが見られないで困っている」という情報を体育館で仕入れ
て来ました。そうなると、コバヤシに、ビデオデッキをプレゼントしたくてしたく
て、しょうがありません。葉子に頼んだら、「駄目よ、私のは」と断られました。
そこで、田村君は、葉子とコバヤシと3人で、秋葉原に買い物に行く事にしました。
田村君は、お父さんのシーマを無断借用してきました。それから、何でだか知らな
いけれども、今度はブラジル音楽では駄目で、桑田佳祐やユーミンでBGMをこし
らえました。
 日本製の車に日本製の音楽に日本製の葉子を身にまとって、田村君は、秋葉原に
向かいました。秋葉原なんて、真っ直ぐ行けば15分なのに、用も無いのに、国会
議事堂や新都庁舎や皇居などの名所を、鳩バスみたいに、ぐるぐるまわりました。
 やっとこ秋葉原についた時には、日もとっぷりと暮れていて、上手い具合にネオ
ンが輝いていいました。
 田村君は、コバヤシをシーマからおろすと、大きく両手を広げて、
「どうです、日本では、丸で、バナナか大根を売るみたいに、電気製品を売ってい
るんですよ!」と言うと、ほとんど恍惚状態に浸ってしまいました。
 すると、散々ひっぱり回されて疲れてしまった葉子が、「あんたは石丸電気の社
長か、あんたは日本株式会社の会長か!」と怒鳴りました。
「じゃあ、帰る」田村君はシュンとして言いました。
 葉子は、「ああ、田村君はやっと目を覚ましてくれたのかしら」と、少し嬉しく
なりました。
 ところが、田村君の頭の中では、新たなプレゼントの計画が膨らんでいたのでし
た。

 翌日の夕方の事でした。葉子がアルバイトに行っている隙に、田村君は、葉子の
ビデオデッキを、粗大ゴミ置き場に捨てておきました。そして、電信柱の陰に隠れ
ていました。
 帰ってきたコバヤシをつかまえると、田村君は、大きく両手を広げて、
「どうです、日本では、丸で、古新聞を捨てるみたいに、まだまだ使える電気製品
を捨てるんですよ! さあさあ、拾っていきなさい」と言って、プレゼントしてし
まいました。
 田村君は、ほとんどオルガスム寸前の状態になりました。竿も玉もはちきれんば
かりにパンパンです。田村君は、慌てて、葉子の部屋に戻ると、ベットの上で、ア
ヘアヘしながら身をくねらせていました。そこへ葉子が帰ってきました。
「私のビデオデッキを何処へやった」と葉子が言いました。
「いいじゃねえか、ブラジルから来て、なんの楽しみも無いんだから」
「やっぱりコバヤシにやったのね。なによ、ブラジルから来て苦しんでいるなんて。
女の子を連れ込んでいたわよ。あれは、まだ、高校生よ」
 田村君は、非常に心配になって、下の階におりて行くと、ベランダからコバヤシ
の部屋を覗きました。垂れケツのぺちゃパイが、コバヤシの上に騎上位にまたがっ
ていました。
 田村君は、息を切らせて部屋に戻ると、「すげーブスだった」と葉子に報告しま
した。
「わざわざ見てきたの」とだけ言うと、葉子は膝を抱えて、テレビの『今年の十大
ニュースを予想しまshow』のクリントンとコールにはさまれた宮沢喜一を見て
いました。
 田村君は、葉子の背中で正座をすると、「これじゃあ、NASAに捕まった火星
人のノリだなあ」と耳元でささやきました。
「そうよねえ、世界中の人々がこれを見ると国辱ものよねえ」と葉子が言いました。
「コバヤシがあんなブスを抱いているのも国辱ものだと思うんだよねえ」と田村君
が言ったら、葉子は、尻を支点にくるりと回転して、
「どういう事?」と言いました。
「だから、葉子にコバヤシと寝て欲しいんだよ」と田村君が言うと、葉子の目は、
みるみるつり上がって、からくり人形の様に立ち上がると、泳ぐ様にして、出てい
ってしまいました。

 田村君は、コバヤシが騙されたアンティークショップに電話をすると、店員を呼
びつけました。葉子の家財道具一切をたたき売ると、7万円になりました。田村君
は、その金でホテトル嬢を呼びました。
 やってきたホテトル嬢を裸にすると、尻と胸を検査してから、「抱いて欲しいの
は俺じゃあなくて、下の子なんだよ」と言いました。
「じゃあ、金」とホテトル嬢が言いました。
「金は、後で渡すから」と言うと、田村君は、ホテトル嬢の身繕いをして、玄関の
ドアを開けて、うながしました。
 それから、部屋の真ん中の床にコップを置くと、耳を当てて盗聴しました。“あ
〜”とも“い〜”とも聞こえないので、幾分不安になりました。だけれども、30
分もしない内にホテトル嬢は戻ってきました。
「どうだった?」と田村君は聞きました。
「そうねえ、日本人とのセックスが松竹映画だとしたら、あの子とのセックスはコ
ロンビア映画かなあ」
「馬鹿者! コロンビア映画は、ソニーが買収したのだ」と大声で怒鳴ってから、
「わははははは」と、勝ち誇った様に高笑いしました。
 田村君のズボンは精液でベトベトでした。

                                  【了】




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