AWC 『黒い瞳のSUTERA1967年夏』 (3) 旺春峰


        
#2751/5495 長編
★タイトル (LDJ     )  94/ 8/28  10:14  ( 87)
『黒い瞳のSUTERA1967年夏』 (3) 旺春峰
★内容

遠い船の汽笛がよせてはかえす丘の上で、沖を通る貨物船を眺めながらス
ーは歌を口ずさんでいた。

僕がたずねるとスーはそれを革命の歌だと言った。エレーンと一緒によく
歌ったのだという。

「スー、革命ってなんなの」

「わからない」

スーはすぐさま答えた。それはこれまでも長い間考えてきたけれどとうとう答
が出なかった。そんな言い方だった。

「革命っていうのはね。料理を作って友達を招くことでも刺繍をすることでもな
 いの。」

本を暗誦するようにスーは言った。

僕は歌の内容を聞いた。

「東の空が紅く染まってお日様がのぼる時、英雄が現れて悪い王様をこらしめて
 みんなを助けてくれるという意味よ。それから」

スーは少し間をおいてからつぶやいた。

「それから今度はその英雄が新しい王様になるのよ」

「それが革命なの?」

スーはなにも答えなかった。そしてしばらく黙ったかと思うと急に僕の顔にほっ
ぺたをくっつけて僕の髪をくしゃくしゃにしながらなにかを言った。

その時の言葉を今はもう正確に思い出せない。スーはとても長い話をしたけれど
結局のところ僕が理解できたのはほんのわずかだったような気がする。ただはっ
きり覚えてるのは最後に僕はスーを信じると答えたことだけだ。

ねえスー、あの時君は泣きながらとても大事な話を子供の僕にしたんだよね。
僕は出来るならどうかもう一度君と話がしたい。

黒い瞳のスー、今もあの丘で懐かしい歌を口ずさんでいるのだろうか。

芝生の下で船の汽笛を聞きながら。

  ===================

そしてひと夏の夕立とともにスーは去った。

遠くの祖母の元へ数週間行っていた僕が戻った時,すでにスーの息づかいは家の中
から消え去っていた。いつもスーが使っていた赤い花柄のポットとともに。

僕は親達に激しく抗議した。どうして僕の知らないうちにスーを帰らしてしまった
のか。

それは僕にとって生まれて初めての道理ある反抗だったと言えるだろう。

母はひとしきり僕をなすがままにさせた後,やがてエプロンのポケットから一通の
手紙を取りだした。

スーが独特の字で書いたそれには、ただ一言だけこうあった。

「あなたの両親を信じて」

その言葉の意味するところがその時僕に理解出来たとは言わない。僕はただスーが
いなくなってしまったことだけが悲しく,また僕に黙って行ってしまったスーが無
性にうらめしかった。

夏の終りの公園でそれでも僕は今にもスーが現れるのではないかといつまでも待ち
続けたものだ。小さなリスが何度も足元を走りまわったのを覚えている。

・・やがてあれから20年以上の月日が流れた。

スーが国へ帰ったという嘘。

死の寸前に彼女がどうしてそんな嘘を託さねばならなかったか,僕にとって成長の
節目ごとにその答は違ったものとなった。

自らが信じた理想が逆に肉親を不幸に陥れたことがスーにそう言わせたのかも知れ
ない,またただ単に僕を悲しませたくなかったのかも知れない。おそらくそれは両
方だっただろう。

とにかくこうして1967年の夏は終った。

僕にとっての永遠の夏が。

                           旺春峰





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