AWC JETBOY第1話(4)


        
#2713/5495 長編
★タイトル (EXM     )  94/ 7/31   9:16  (189)
JETBOY第1話(4)
★内容
                  4

 「まもなく当機は、那覇空港に到着致します」
 「ふぁぁぁぁっ」
 田宮のうしろで一人伸びをしたのは志村であった。
 「ようやく沖縄か。長かったな」
 志村は機内でずっと睡眠をとっていた。内緒の事項なのだが志村は飛行機恐怖症
だ。寝るに限ると、無理やり眠りに入っていた。
 外していたシートベルトを腰に巻きつけ、着陸を待つ。
 那覇の市街がだんだん迫ってきた。
 「ひぇぇっ」
 口にだしてはいないが、志村の精神状態はご覧のとおり、この類の叫び声で乱さ
れている。この機内にはあと10人ばかりの同じ悩みを持つ乗客がいるのだが、う
だうだ言ったって平然としている周囲にからかわれるだけだろう。
 急角度で着陸の態勢に入った。
 気圧の変動で耳の具合がおかしくなる。意味なく志村は指で耳栓をした。
 田宮が見てないだけ幸いであった。となりの矢島は笑いを堪えている。
 ようやくボーイングが地平に降り立ったときには、志村は相当疲弊していた。
 「皆さんおつかれさまでした」
 「つかれたよ、まったく」
 田宮や矢島がその有り様を見て笑っているが、それに対する怒りはすぐに消滅し
ていた。飛行機程度で大騒ぎ、なんと馬鹿馬鹿しいこと。口ではそう言ってみせる
志村であった。
 手荷物抱えてタラップから降りたった。
 ふう、暑い。
 三月だというのに真夏日だ。乾いた空気が太陽から降ってくる処、それが沖縄の
第一印象であった。
                 ★
 那覇空港のロビーにはとても目立つ大きな広告がある。
 麦わら棒を被った綺麗でプロポーションのいい女優がビール片手に微笑んでいる
アポロビールの広告は本土から来た人の目を引いてしまう。
 この女優は、本土ではなく地元のテレビ番組に出演している元モデルだという。
沖縄的な明るさがあって好評だということだ。
 しかし、沖縄のいい女はバカンス御用達の派手な娘ばかりではない。
 静かに佇む姿が美しい娘も好みである。
 サイケなビキニの広告の真下で佇む少女は、別の意味で例の女優にはひけをとら
ない。実に健康的なショートカットの娘である。
 少女は、東京からの来客を待っていた。
 モスグリーンを基調にした制服が今風である。黄色のチェックが入ったスカート
はこの学校の校風を示していた。
 少女はもう夏服をまとっていた。ここでは担任にチクられる心配がないのでボタ
ンを二つ外している。
 鏡で髪形をチェックする。手櫛で少しあらためて整える。
 綺麗だねって言われると嬉しい。
 顔を赤らめて呟く。
 期待していたら、それ以上の褒め言葉をかけられることになった。
 「色っぽくなったなぁ、渚ちゃん」
 「アッ」
 少女は聞き覚えのある声にすぐ反応した。
 三人の観光客風の男たちの真ん中に居るサラリーマンのくせに実際遊び人という
感じの背の高い自称好青年を気取っている殿方、その姿を確認した。
 渚は既に、矢島の胸のなかにいた。
 「矢島さん、あいたかった」
 渚の、最も素敵だと思っている黒髪を撫でた。それが愛情の印だと思って。
 「僕もだ、渚ちゃん」
 半年ぶりの再会であった。
 「スペイン留学はどうだった」
 「矢島さんが手配してくれたからもう最高! サラサール叔父様やジェシカ叔母
様にはよくして貰った」
 両腕を大きくひろげてまくし立てる。
 「バルセロナで、クーマンやストイチコフからサインも貰ったし。今度見せたげ
るね」
 「そりゃよかったね」
 矢島の普段は端麗な顔つきが今は崩れている。これが似合いの恋人同士のサンプ
ルといえる位に再会の場面は決まっていた。
 しかし、これをよく思わない人もいる。
 隣で舌打ちしていたのは、三十路を越えて未だ結婚できないラフな恰好のスポー
ツライターであった。
 「ちきしょう、ロリコンが! 」
 憤慨していたが、志村の顔はにやついていた。
 可愛い。
 実に、うん、可愛いじゃないか・・・・・・  。
 それ以外の言葉はすべて蛇足になる、志村の渚に対する第一印象はそうだった。
 「少年少女保護法に違反してるぞこの関係は」
 田宮は苦笑いする。この時の志村の表情があまりにも真剣過ぎたからだ。けど、
田宮も志村と同様の思いでいたのではないだろうか。
 幸枝ちゃんは田宮家の長女である。大きくなったら渚みたいな女の子になって欲
しいと思ったことだろう。
 「可愛いな、渚ちゃんは」
 二人の間に、ずかずかと志村が割り込んできた。
 「ありがとう、志村さん」
 素直に反応した。
 「へえ俺の名前知ってるんだ」
 「矢島さんが言ってた。スポーツライターの方と、サッカー協会の田宮さんを連
れてくるって。けど志村さんって、矢島さんが言ってたよりはいい人。全然スケベ
なんかじゃないよ、矢島さん」
 「へ、矢島が? 」
 静かな怒りを浮かべた顔が矢島の方を向いた。
 「矢島くぅん・・・・・・  」
 矢島の顔が少し引きつった。
 「ちょっと僕に関する情報が事実と異なるような気がすんだけどぉ、どういう風
に僕の事を紹介してくれたのかなぁ君はぁ」
 「誠実で真面目で、気立てのいい好青年って言っておいたよねぇ、渚ちゃん」
 「ええ・・・・・・  」
 矢島の弁解は全部嘘である。渚も場面設定を考えたのか、ここでは矢島と話を合
わせる。
 「好青年ねぇ、うむ」
 普段から矢島の調子の良さを知っている志村は、矢島に対して相変わらず睨みを
効かせている。
 「それよりも、先生が待ってるからはやく行きましょ」
 「あ、ああ、そうだね」
 腕時計は約束の時間まであと一時間しかないことを示している。
 「じゃタクシーで、いまからシーサーズの練習場に向かいます」
 一日ツアーコンダクター矢島が現地への出発を呼びかけた。
 「志村君、今日は女の子を口説きに来たんじゃなくて、サッカーの取材に来たん
だよね。さ、急ごう」
 田宮の言葉には若干の毒がある。志村の心理状態をチクリと突いてみせた。
 「はいはい」
 肩をいからせて、矢島の後をついていく。
 しかし気分としては、志村の状態は結構なものであった。
 井上渚、とんでもなく眩しい女の子だと思った。
 まず容姿には二重丸をつけた。しかし容姿だけに惚れ込んだわけではなかったの
である。
 「練習見終わったら、我が家に遊びに来てくださいね、ちょっとキツい姉がいま
すけど。志村さんがアポロビールのこと好きだって言ったら、是非一緒に飲みたい
って父も言ってました。渚も、本土の話を聞きたいし」
 気さくで気立てのいいこと、それが志村を感心させた。
 目的は、サッカーの練習を観ることだったはずだ。しかし志村個人の目的は既に
別のベクトルへと向いていた。
 この時期だというのにもう夏日である。
 ・・・・・・渚ちゃんの水着姿、見てぇなぁ・・・・・・・・・・
  素直に志村はそう思った。
 ブルーのグラデーションの水着なんて最高だ!
 この心理状態を渚が知ったらどう思うだろうか。
 もし、矢島がいなかったら、もし田宮がいなかったら、
 二人きりだったら、
 そうしてるうちにタクシー乗り場に到着した。行き先をまず告げた。
 「姫百合学園へ」
 「はい」
 ダミ声のドライバーが営業している車に四人は乗り込んだ。
 「今から、渚ちゃんの学校の姫百合学園へと向かいます」
 女子校のような名前だ。
 「その女子校で練習してるの? シーサーズは」
 「女子校じゃないすけど、そんなとこです」
 矢島はネクタイを緩めて言った。
 「楽しい学校ですよ」
 渚は強調して言った。
 車は姫百合学園へと向かっている。車は一度市内を通過して、北へと進路を向け
ていった。この時間帯は、あんまり走っている車は無い。高速道路に乗って一時間
で着く見込みであった。
 車窓からは、異郷の町並みが見える。所々の民家の屋根を飾るシーサーはこの土
地の護り神だ。本土と違う色合いのこの町は、外国の田舎町を彷彿とさせるもので
あった。
 井上渚はこんな町に住んでいるのだ。
                  ★
 もう一つのシーサーズ絡みの動きは、現地のサッカー協会の人物まで呼び込んで
しまっていた。
 「監督、お久しぶりです」
 沖縄県サッカー協会理事の糸満譲氏がこの男にうやうやしく頭を下げる。
 「出迎え、ご苦労やな」
 まず握手を交わした。太い腕だ。堂々とした風貌のこの男は、相手がどのような
要職に在るとしても臆するところがない。
 これが智将の貫祿か・・・・・・。
 サッカー後進県の理事は感心するより他が無い。
 「食事でもしてから先方へ向かわれたら如何でしょうか。現地は何もない所です
ので」
 「ワシは構わん」
 鞄の中から固形携帯食の黄色いパッケージを取り出してみせた。
 「それよりも、姫百合学園やったな、そっちの方へ向かおう」
 「は、はい」
 男は、ビデオカメラが少々かさばるのも気にせず、タクシー乗り場へと歩いてい
く。糸満はそれにただついていくだけである。
 「シーサーズの施設は本土では望むべくもないほど充実しております。私も何度
か見学しましたが・・・・・・  」
 「それよりもや、契約の方は大丈夫やろな」
 男は糸満に釘を刺した。
 「屋敷オーナーの承諾は得ております」男を安心させた。「それにしても嬉しい
ことです。沖縄初のJリーガー誕生という事で県民も喜ぶことでしょう」
 「三千万円程度の経費で外国人を雇うようなもんや。ウチの外国米程度にはやっ
てくれるやろ」
 「そこまで評価してくれるんですか」
 糸満の喜びはかなりのものである。
 沖縄はサッカーに関しては実に辺境の地である。アメリカ的文化の色の強いボク
シングや野球においては名選手を輩出するものの、ラグビーやサッカーにおいては
成績が全然振るわない。
 その辺境の地に選手一人をとるためにこの男が遠路はるばるやってきたのだ。糸
満以外にも感激するサッカーファンは多いはずだ。
 タクシーに乗り込み、チケットを手渡す。
 「姫百合学園まで」
 「はいっ」
 二人を乗せたタクシーが沖縄空港を発った。
 翌日当たりから沖縄シーサーズを取材する報道陣が沖縄に押しかけることになる
が、糸満とこの男との間に成立したひとつの契約は、まずこの地にやってきた報道
陣を喜ばせることになる。
 男は車窓から見える米軍機を見てニヤリと一言発する。
 「ジェットボーイズ、やな」
 ジェットボーイズ、男がこれから会う二人に付けた愛称であった。
 「売れるでこれは」





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