AWC 僕たちの鎮魂歌(4)           $フィン


        
#2668/5495 長編
★タイトル (XVB     )  94/ 7/ 3  14:34  (111)
僕たちの鎮魂歌(4)           $フィン
★内容

 僕は徹に言われるまま、ひとつひとつ手足を動かし服を着せてもらった。
「僕たちこれからどうなるんだろうね」僕は隣に座り込んでいる徹に聞いた。
 今はもう徹も僕とお揃いの服をきている。
僕の服を着せたあと、徹は自分で服をきたのだった。
「大丈夫だよ。僕が守ってあげるよ。僕たちは双子なのだから」
 僕は徹によりかかった。
 徹のちょっとだけ汗くさい臭いも気にならない。それどころか僕には馴染みの匂い
かいた僕は高ぶっていた心を静めることができた。それも僕たちがひとつになってか
ら、よりお互いのことを理解できて、より親密度か増したような気がしている。
 ママには怒られたのだけど、僕たちはいいことをしたと思う。
 「だれも僕たちを別れさすことはできないよ。だって僕たちもともと双子なのだか
らね」徹は自分に言い聞かせるように言った。
 徹の目は僕だけを見ていた。僕は徹を見ていた。
 僕たちの唇は近づいた。
 徹の舌が僕の中に入っていく。
 僕も誘われるように徹の口の中に舌を入れる。
 僕は幸せだった。1日に2度も徹とひとつになったのだから。
 僕は徹と舌を絡みつかせ息もままならない状況の中で、僕は最高の幸福に酔うこと
ができた。
 お菓子業者の売上を延ばすだけではなく、お互いの胸の内を告白できる大切で神聖
な日をつくった聖バレンタインに感謝した。

「徹ちゃん、孝ちゃん、降りてきなさい」ママの声が異様に優しい声聞こえる。
 パパが帰ってきてから二人でいろいろ騒いでいたみたいだけど、どうやら相談はま
とまったようだ。
「いこっ」徹は僕を励ますように肩を軽く叩いた。
 僕は頷いた。
 僕たちは、パパとママの裁判を受けるために1階に降りていった。
 だけど、どんな判決がでても僕たちの答は決まっている。
 1階に降りるとパパとママが裁判官のように座っていた。
「徹、孝、ここに座りなせい」パパが精一杯の威厳を取り繕って言う。
 僕たちはソファの上に座り、お互いの身体を触れ合う。
「少し離れなさい」ママが顔を歪まして言った。
 僕たちは無視した。
「ママから聞いたが・・・・」パパはママの方をちらっと見る。
 ママはパパに早く言えと目で合図している。
「その、おまえたち仲がいいのはいいが、もう子供じゃないんだからやっていいこと
と悪いことの区別ぐらいわかるだろう」
「・・・・・・」僕は横に座っている徹の様子を見る。唇を噛みしめて黙秘権を使お
うとしているのがわかった。
 僕も徹と同じように何も言わず黙っていることにした。
「なんとか言わんか」パパは僕たちに言った。
「・・・・・・」
「そうか、おまえたちがなにもいわんならいい、ママといろいろ相談したのだが、孝
をしばらくおばあちゃんのところへ行かせることにした。いいな? わかったな」パ
パは席を立つ。
「嫌です」徹がパパに言った。
「僕たちは生れたときから一緒でした。僕たちの引き離すことは、たとえパパでもで
きないはずだよ。僕たちはもともと一つだったのだから」徹はパパとママの間でどん
な判決がでても、どんなことを云われても、最初から頭の中の原稿用紙に書き込んで
いたことを言ってのけたのだった。
 僕にはわかる。今の徹の顔、いつも僕と一緒に女の子の誘いを断わるために使って
いる俳優のものだった。
 徹は俳優の顔でパパを見る。
 パパは喉を鳴らすだけで言葉がでない。そんなパパを見て、徹は鼻で笑う。
「許しませんよ」ママが僕たちを睨みつけて言った。
「あなたたちは双子なのよ。それに男の子同士でしょ。あんなことが許されてもいい
と思っているの」
「大人の人はしているよ。本にも書いてあったよ」徹はママに言う。
「わからないわ。ママはあなたたちを普通に育てたつもりよ。それであなたたちこれ
で何度目なの」ママは手でこめかみを押さえる。
「始めてだよ」徹は笑いながら言った。
 ママの目がきつくなる。
「嘘おっしゃい。始めてということがありますかっ、言ってごらんなさい。ママ聞い
ても怒らないから、何度目なの? 孝ちゃんなら言ってくれるわね」ママは僕の方を
向いて聞いた。
「だから、ママ、僕たち一緒になったのはあれが初めてなんだよっ」僕は徹の手を握
った。徹の手は少し汗ばんでいる。徹も緊張しているのだ。
「離しなさい。汚らわしい」ママは僕たちが手をつないでいるのを見ると叫んだ。
「汚らわしい? それじゃ、ママたち大人がしていることはどうなるの。僕知ってい
るんだよ」
 ママは口をパクパクしてそれ以上は言えなかった。
「答えられないのでしょう。じゃ僕からいってあげるよ。パパとママのあそこがあ・
・・・」徹はパパとママの顔を見ながら笑っている。
「やめなさいっ」ママが叫ぶ。
 パチンっ、部屋の中で音がなった。徹の頬とママの左手のぶつかる音。
 徹は信じられないといった顔で頬を押さえている。
「ママ、僕をぶったね。今まで一度もぶたれたことなかったのに・・・僕今までいい
子でいたのに、ひどいよお、ママぁぁ」完璧だった徹の俳優の仮面は剥げ落ちる。そ
の下から僕だけに見せてくれる気弱な徹の本当の顔が現れた。
「ああ・・・徹ちゃん」ママも徹の頬を叩いた手をこすりながら僕たちを見ている。
「僕はただ孝と一緒になりたかっただけなのに・・・」ママを見る徹の目から涙がこ
ぼれる。
「ママ、ひどいよ。徹は僕と一緒にいたかっただけなんだ。だからわざと徹は悪い子
の演技を続けようとしてたんだよ。徹を叩くなんてひどいよ。ママなんて、ママなん
て嫌いだっ」僕は泣きじゃくる徹を押さえながら叫んだ。僕は徹の手をとって外に飛
び出した。
 泣き続けている徹の手をひいて、僕たちは走り出した。
 僕たちの後から、ママの声がする。
 ママが僕たちを離そうとするから、僕たちはママが嫌いになって、大好きなママか
ら逃げている。
 足が痛い。靴をはいていないけれどそんなものかまうものか。今は僕たちは一緒に
なるために逃げる。どこへ? 僕は僕に問いかける。わからない。でも逃げることで
僕たちがだれにも邪魔されずに暮らせる世界があるような気がして僕たちは逃げる。
 僕たちは走った。走って、走って、逃げた。
 僕たちは一緒になるために逃げて、車と車の間から道を渡った。
 そして、僕たちは・・・・・。

 飛んだ。
 落ちた。
 あ・・・・・。

 お腹のあたりから鈍い痛み。僕の隣で徹が寝ている。徹と僕の間で赤い水溜りがで
きている。ちろちろと白いもの−−−空から雪が降ってきた。僕は雪が冷たくて嫌い
だった。でも、横に流れている赤い水と混ざりあう雪を見ていると、とっても綺麗。
 聖バレンタインだね。そう思いながら僕は目を閉じる。
 世界が暗くなる。
 僕たちこれからどうなるのだろう・・・。

 近づいてくるサイレンを子守歌がわりに僕たちは深い眠りに落ちた。




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