AWC 僕たちの鎮魂歌(2)           $フィン


        
#2666/5495 長編
★タイトル (XVB     )  94/ 7/ 3  14:26  (186)
僕たちの鎮魂歌(2)           $フィン
★内容

「うん、そうだね。僕もここにほくろがあればママを騙せるかもしれないね」僕は徹
の首を軽く触る。
「くすぐったいよ」徹は首をすくめて言った。
「感じやすいのだね」
「孝もだろう」徹は笑いながら、僕の耳に軽く息をかける。
「もうっ」僕は徹に抗議した。
「はは・・、ほら、ごらん」徹は軽く笑ってから、鏡をゆびさした。
「うん」僕の目は、徹の指さした先に釘付けになる。
 徹も見ている。
 僕たちはあるところを見ている。
 僕たちは今、保健体育の復習をするために、お互いを見ているのだった。
「不思議だね。あのときはあんなに大きくなるのに、今はこんなに小さいよ。教科書
には書いてなかったのにね」僕は言った。
 顔を寄せて僕たちはお互いのそれを見比べてくすくすと笑った。
「徹ちゃん、孝ちゃん、いつまでしゃべっているの。早く入らないと風邪ひいちゃう
わよ」外でママの声が聞こえる。
「怒られちゃったね。」僕は舌を出した。
「さあ、入ろうよ」
「うん」
 全身を湯船の中に沈める。お湯が僕たちが入った分だけ溢れ出る。
「孝」徹は言った。
「ん?」
「僕たちいつまでも一緒だね」
「あたりまえじゃないの。だって僕たち双子だよ。どうしていきなりそんなこと聞く
の」
「だって、僕たちもっともっと大きくなって、働くようになって、他の女の人と一緒
に暮らすようになるっていろんな人がいうのだもの。そうしたら僕は徹と離れなけれ
なならないじゃないか、そんなの嫌だよ」
 僕は頭ごと湯の中に入れる。お湯が勢いよく溢れる。
 ぶはっ、頭を出す。ぼたぼたと髪からお湯が流れ落ちる。
「徹と離れ放れにはならないよ。いつまでも一緒にいようね」
「そうだね、僕たちいつまでも一緒だよ。約束だよ」徹が言った。
 ぼくたちの笑い声が風呂場にこだまする。
 外ではこおろぎの音が聞こえていた。




 翌日、僕たちはママの作ってくれたおいしいハムエッグ、少し焦げたトースト、ち
ょっと熱めの牛乳をお腹に詰め込んで家を出た。
 僕は、紺色のブレザー、黒い学生カバン、隣にはお揃いのブレザー、お揃いのカバ
ン、そしてお揃いの顔の徹がいる。
「ほらっ、見て双子だわ」僕たちより少し年上のお姉さんの集団が僕たちを見ながら
騒いでいる。
 徹はとっておきの笑顔、僕たちの間で営業用スマイルと呼んでいる笑顔で微笑んだ。
 僕たちの間には二種類の微笑みがある。
 ひとつは、営業用スマイル。
 もうひとつは、もっと純で裏表のまったくない微笑み、それは僕たち二人だけのと
きにしか使わない。
 僕も負けないようにお姉さんの集団に営業用スマイルで微笑む。
「可愛い」
「お人形さんみたい」
「きゃっきゃっきゃっきゃ」
 お姉さんたちはぼくたちを見て、笑い、騒ぎ、通りすぎていった。
 お姉さんたちが姿が小さくなっても、まだ甲高い笑い声だけがが僕たちの耳に入っ
てくる。
 お姉さんたちの後姿を見ながら鼻で軽く笑っていた徹。
「すごいね」僕は小さなため息をついた。
「僕にはあれだけ離れていても聞こえるぐらいの大声って出せないよ。あのお姉さん
たちのどこにあんなパワーがあるのだろうね」
「うん」徹も同じことを考えていたのだろうすぐにうなずいた。
「ねえ、僕たちお姉さんたちがいうように可愛いかな」僕は聞いた。
 徹はお姉さんたちに向けていた視線を僕に移す。徹の瞳は優しい褐色の色だった。
「さあ、わからない」首を軽く可愛く竦める徹。
「だけど、僕は徹のこと可愛いと思うよ」徹はカバンを持っていない手でぎゅっと僕
の手を握った。
「うん、僕も孝のこと可愛いと思う」僕もそう言うと徹の手を強く握り返した。
 徹の手は暖かく、僕はいつまでも握っていたいと思った。

 僕たちは、学校に着くと黒い革の靴とブルーのラインが二本入っている上履きには
きかえるために、靴箱のふたを開けた。
「また入っている。」徹のいまいましい声。
 僕に花柄の封筒をひとつ片手でひらひら見せる。
「こっちもだよ」と僕。僕にはピンクの可愛らしい封筒が一つ。僕も徹に見えるよう
に見せた。
「ややこしいな」徹はため息とともに空を見上げた。空は青くどこまでも澄んで、雲
は悠然と流れていく。
「雲はいいよな・・・」徹はそう呟く。
「なにかいった」と僕。
「ううん、ただ雲はどこでも好きなところに流れていけるだろ。僕たち二人もあの雲
のように誰にも邪魔のされないところに行きたいなと思っただけなんだ、撤、練習の
通りするんだよ。傷つけないようにね」徹は優しく僕に言った。
「うん」僕はうなずいた。
 僕は徹が何を言いたいのかわかっている。女の子をできるだけ傷つけなくて、恨ま
れない上手な断り方。ぼくたちは原稿用紙に何度も女の子がいうようなセリフと僕た
ちのセリフを書いて練習した。一方が女の子役になり、もう一方が断わる側、監督兼
演出兼主演、たった二人だけの劇団だけど僕が知っている最高の俳優二人が一生懸命
練習したことをうまくやれといっているんだなと思った。
 僕たちは女の子から手紙を貰い、そして僕たちの演技がばれないようにうまく断わ
る。
 僕たちはそんな平凡な何の刺激のない毎日が続くかと思われた。
 2月のバレンタインデーまでは。

 男の子に一生のうちで好きだといえる日。バレンタインデー、もっとも徹に言わせ
るとそれならどうして僕たちの靴箱に元旦から大晦日の日まで、ピンク色の封筒を入
れる女の子があらわれるのか、女の子たちの頭の中は一年中がバレンタインデーだと
思っているのじゃないかと不思議そうに僕に聞いたことがあった。
 僕はそんな徹の問いにこう答えた。お菓子業者が潰れないためにあるのさと。
 僕は、靴箱に入っていたチョコレートを食べながら、ママに買ってきて貰ったばか
りの週刊ジャンプを徹と読んでいた。
 玄関のチャイムが鳴った。
「誰だろう」徹は言った。
「さあ」僕はチャンプを読んだまま答える。
 チャイムが鳴っている。誰も出る気配はない。どうやらママはまたどこかにお出か
けのようだった。
「僕が見に行こうか」
 僕は玄関まで行き、覗き穴から外を見る。
 そこには女の子が立っていた。知らない人じゃなかった。同じクラスの女の子、確
か名前は栗田という名字だったはずだった。
 僕は玄関のドアをあける。
 栗田さんが紙包みを持って立っていた。
「やあ、栗田さん、なんの用?」僕は彼女に営業用スマイルで笑いかけた。
「あの・・・わたし、相談したいことがあるのです。少しだけつきあってくれません
か」彼女はりんごのように頬を赤らめて言った。
「ここでは駄目なのかい」ぼくは聞いた。
 思いつめた目を僕に向けたまま小さいけれどしっかりとうなずいた。
「仕方がないな。徹、僕ちょっと出かけてくる」本当はジェンプの続きを読みたいの
だけど、栗田さんが何か言いたいことがあるみたいなので出掛けなくちゃいけない。
 僕は小さくため息をついてから、ドアの隙間からようすを伺っている徹に向かって
出かけると言ってからジャンバーを羽織って外に出て行った。
 僕は、彼女の後を数歩遅れて歩いた。
 綺麗な髪だな。彼女の長くて黒い髪からほのかに漂うシャンプーが僕の鼻をくすぐ
る。
 いい香り。今までわからなかったけど女の子も騒がしいだけじゃなくて、けっこう
いいものだね。
 だけど、栗田さん、どこまでいくつもりだろ。僕に何の用があるのだろう。
 彼女はそんな僕の思いとは別に背中を向けて僕の前を歩いていく。
 そして、彼女の足は人通りのない公園まで来たとき止まった。
 彼女は振り向く、彼女の黒い髪が揺れる。
振り向きざまに白い肌にかかる黒い髪が妙になまなましくて僕は一瞬どきりとした。
「今日は寒いね。今晩あたり雪が降るんじゃないのかな」僕は動揺を隠そうと徹と練
習した演技を精一杯演じることにした。
「そうね。わたし雪は好きよ。白くて汚いものは何もかも隠してしまうから」栗田さ
んは灰色の空を見上げながらそう言った。
「そうかな。僕は冷たくて嫌いだけどね・・栗田さん、散歩に来たわけじゃないんだ
ろう」
「あの・・ここまで来たのは、徹さんと孝さんの噂を聞いて」栗田さんは口を濁らす。
「噂? なんのこと?」僕は軽く首を傾けていった。この角度が一番可愛く見えるこ
とを計算の上だ。
「女の子を振るのは二人ができているんじゃないかって振られた女の子たちが言って
いるの。違いますよね?」僕の顔色を伺うようにして見る栗田さん。
 そうか、僕たちが女の子と仲良くしないので、そんな噂がたっているのか。気をつ
けないといけないな、後でじっくりと徹と対策を練ろうと僕は考えた。
「そりゃあ、僕たちは双子だから、他の人より仲がいいのかもしれないけど、そんな
変な噂が流れているとは思わなかったよ。それに僕も男の子だからね。女の子のこと
少しは興味はあるよ。ときどき出すものをだしているしね」悪戯っぽく笑う。
「え・・・」栗田さん、僕の言ったことがわからずにきょとんとしていたが、真っ赤
になる。
 僕は真っ赤になった栗田さんのこと少し可愛いなと思った。
「よ、よかった。噂どおりじゃなくて」言葉を詰まらせながらしゃべる栗田さん。
 ますます可愛く見える。
「今日は何の日か知っていますか」そう言うと彼女は持っていた紙包みを僕に押しつ
けた。
 僕は袋を開ける。
 袋の中身は暖かそうなイニシャル入りの赤いマフラー。
「あ・・ありがと、でも僕・・・」
「わたしのこと嫌い」
「そんなことないよ」後に可愛いと言おうとしてやめた。そのとき一瞬ママの顔と栗
田さんの顔が二重に見えたのは何故なのだろう。
 彼女は胸を軽く押える。
「わたし本当のこというと噂を聞くの怖かった、よけいなことを聞くと嫌われるんじ
ゃないかと思って・・あなたのこと本当に好きなのです。だから・・・わたし・・・」
栗田さんは僕の胸に飛び込んできた。
「栗田さん・・・」
「そのままにしていて・・・」彼女は僕に桜色の唇を押しつけた。
 僕が目を白黒させていると彼女は唇を離した。
 そして恥ずかしげに胸に顔をうずめて言った。
「ごめんなさい。いきなりこんなことして、告白だけではどこでもできます。でも、
わたしの初めてのキスだから、せめて記念になる場所でしたかったの、本当に好きだ
から・・わたし本気です。今こんなにどきどきしています」彼女は僕の手をつかんだ。
 そして、彼女は自分の胸に僕の手をのせる。
 柔らかい。僕や徹のとは違う、初々しくてほんのりとして淡くてつぶれてしまいそ
うな彼女の胸。彼女の緊張した胸の鼓動が僕まで伝わってきている。
 どきどきどきどきどき、僕の心臓の鼓動が早まる。僕は彼女の胸の鼓動が伝染した
のかなと思った。
「今すぐ返事を貰えるとは思いません」彼女は胸を押さえていた僕の手を静かに離す
と言った。
「僕は・・・・」僕は、積極的でそのくせ妙に可愛い栗田さんを見て、ほんの少し戸
惑っている。
「わたし、本当に好きなのです。あなたにならわたしのすべてをあげてもいいと思っ
ています」そういうと彼女は恥ずかしそうに笑いかけた。
「わたしいつまでも待っています」彼女はスカートをなびかせ去っていった。
 僕は彼女が立ち去るのを見送って、徹が待っている家に帰ろうとしたとき、目の前
に徹が立っていた。徹は青い顔をして僕を見ていた。





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