AWC ヴェーゼ 第3章  旅の始まり 7 リーベルG


        
#2663/5495 長編
★タイトル (FJM     )  94/ 6/28   0:59  (145)
ヴェーゼ 第3章  旅の始まり 7    リーベルG
★内容
                  7

 レヴュー9、すなわちアンストゥル・セヴァルティには、何年も前から地球からの
工作員が秘かに潜入している。彼らの多くは訓練を受けた情報局のエージェントであ
地球へと連絡する任務を与えられている。もっとも、エレクトロニクスはおろか、精
密な計測装置すら持ち込むのは危険であったから、クーベス大陸の正確な地理すら、
正確には判明していない。人工衛星を一基、軌道上に乗せれば済むのだが、いかに小
型化しても、発射設備をムーンゲイトから送り込んで組み立てるのは不可能である。
たとえそれに成功したとしても、電子機器の70パーセントまでが作動不可能、とい
う、アンストゥル・セヴァルティの厄介な特性は如何ともし難かった。
 工作員は定期的に地球へ連絡を送る。これはムーンゲイトを介してではない。ムー
ンゲイトは156時間ごとにしかオープンできないという技術上の制約を抱えている。
これだけのタイムラグでは、緊急連絡などに対処できない。もっとも、18分という
短時間であれば、一時的なゲイトを開くことはできるのだが、これには膨大なエネル
ギーを必要とするので、真の緊急時以外には禁じられている。
 アンストゥル・セヴァルティが発見され、統合政府による極秘の移住探査計画が開
始された当初は、ムーンゲイトが唯一の連絡手段であった。だが、その後、魔法がも
たらされ、ものすごい勢いで新たな学問/技術体系を築き上げてしまってからは、タ
イムラグなしで連絡を取る方法が考案された。それが、ジェミニ・コミュニケーショ
ン・システム、通称、ジェミニ・システムである。
 これは魔法を訓練した一卵性双生児の間には、高い確率でタイムラグなしの遠距離
コミュニケーションが成り立つことが実証されたことから開発されたシステムである。
当初は、地球とアンストゥル・セヴァルティの両方に、双子の一人を配置することで
連絡をしていたが、双子を確保するのが困難なため、やがて中止となった。
 現在では、DNA操作で人為的に発生させた双子の胚を一定期間培養し、魔法によ
って様々な外的刺激を与えていく。その結果、数週間後には脳細胞だけが発達した双
子の胎児一組が培養基の中に誕生する。それぞれの脳細胞の一片を摘出して、2人の
成人に投与すれば、基本的なコミュニケーションシステムを備えた2人の連絡要員が
できあがりである。そのままでは漠然とした色や形しか伝達することができないが、
訓練を重ねれば片方が見ている光景や、耳にしている音声、触れている物の固さや温
度まで、そのまま相手に転送することも可能になる。ある意味ではシグシステムに似
ているが、ジェミニ・システムはアンストゥル・セヴァルティのようにシグスペース
が設置されていない場所でも使える。
 今回の作戦では、一行の案内役であるクレメンテが、ジェミニ・システムの一端と
なっていた。しかし、クレメンテが死んでしまうことも計画には考慮されていた。ク
レメンテからの連絡が途絶えた場合(ジェミニ要員は相手が死んだ場合、それがはっ
きりと分かる)、地球側は緊急態勢に入り、18時間ごとに18分のムーンゲイトを
 ギブスン達が、地球に帰還することを決定したとき、次のムーンゲイトが開くまで
2時間32分しか残されていなかった。ムーンゲイトは極めて狭い範囲でしか、開く
場所を特定できないのでギブスン達が移動するしか方法がない。そして、時間内にム
ーンゲイト予定地点まで戻るには、かなりのスピードで移動しなければならなかった。
 人数が4人と減っていて身軽になったため、かろうじて間に合うだろう、とギブス
ンは思っていた。ただ一人生き残った兵士はともかく、アンソーヤもドナも、訓練を
受けているわけでもないのに、ギブスンのスピードによく付いてきていた。だが、や
はり、ろくに視界の効かない森の中を、敵の魔法使いの襲撃を警戒しつつ進むのは、
神経を消耗する。ギブスンはしばしばアンソーヤとドナが遅れがちになるのをサポー
トしなければならなかった。
 したがって、B・Vが、音もなく消えたとき、ギブスンはすぐにはそれに気付かな
かった。
 先にそれに気付いたのはドナだった。                リアガード
 「ギブスン大佐」ドナは軽く息を切らしながらギブスンを呼び止めた。「後 衛の
兵士はどこです?」
 「ええ?」前方の安全を確認しながら進んでいたギブスンは、うるさそうに振り向
いた。「そのへんにいませんか?正確には後方12メートルです」
 ドナは暗闇の中に目を凝らした。
 「いないようですよ」
 「先に進んで下さい。確認してきます」ギブスンは来た道を戻っていった。
 アンソーヤとドナは手を取り合うように森の中を進んでいった。主に夜目の効くア
ンソーヤが先導した。10メートルも進まないうちに、ギブスンが戻ってきた。その
顔は不安に彩られていた。
 「いません。気配すらありません」
 「敵か?」アンソーヤが訊いたが、ギブスンはかぶりを振った。
 「それなら、我々も気付く筈です」
 「ということは?」
 「そう。どうやら自分から消えたようですな」ギブスンは吐き捨てるように言った。
「何を考えているのやら。敵前逃亡で軍法会議の対象になるというのに」
 「追いますか?」
 ドナの問いに、ギブスンは苛々した顔で応じた。
 「そんなヒマはありません。次の予定時刻を逃がしたら、18時間、この世界で待
つことになるんですぞ。気になることは確かですが、今はどうしようもありません」



 人は誰でも----とブルー・ヴェルベットことB・Vは考えた----多くの権利を持っ
ている。例えば生きる権利、考える権利、話す権利、愛する権利……。だが、殺す権
利を持っている人間は数えるほどしかいないし、さらにそれを自覚している人間にな
ると希少価値を主張してよいほどになる。
 B・Vは自分が殺す権利を持っており、それを自覚している幸運な人間の一人であ
ることを知っていた。逆説的ではあるが、殺す権利とは元来誰もが有している権利で
はありながら、ほとんどの人間はそれを生かすことを自ら放棄することで、権利を権
利でなくしてしまっている。つまり殺す権利とは、その権利を生かすことを認めた時
はじめて権利として活性化するのである。
 B・Vは何を失うこともなく、殺す権利を獲得した希有な人間だった。
 幼い頃に汚染事故で両親を亡くしたB・Vは、最初は革命の理想に燃えてシンジケ
ートへ身を投じた。だが、やがてB・Vは統合政府打倒そのものよりも、その一手段
であるテロルに対して、異常なほどの熱意を持つ自分に気付いた。先天的な性向なの
か、シンジケートの厳しい訓練によって導き出されたのかは分からないが、B・Vは
普通の人間がブレーキとして持っている道徳心や同情心を持っていないか、平然と無
視できるかのどちらかであったのだ。B・Vは時には、自らの生存本能まで無視して
何かを殺し、何かを破壊することを優先する傾向すら見せた。名前を捨て、B・Vを
名乗る頃には、シンジケートのテロリスト集団のトップに立っていた。
 B・Vは、彼が望むならシンジケートの幹部の椅子の一つに座り、テロを命ぜられ
るのではなく命じる立場に立つこともできただろう。だが、B・Vは自らの沸騰寸前
の血を鎮めるかのように、テロ活動の第一線に立ち続けた。B・Vが奪った命の数は
直接、間接を合わせて千のオーダーに達しようとしていた。
 だが、最近、B・Vはどこか不完全燃焼に近い気分を味わっていた。銃器、刃物、
爆薬、薬物、生物などあらゆる武器で、あらゆる殺しを経験したというのに、何かま
だ足りないものがあるように思えてならなかったのだ。それが魔法であると知るのに
それほど時間はかからなかったものの、殺人や破壊のための魔法を教えてくれる学校
などありはしない。やむを得ず、魔法には目を背けてきた。
 だから、キキューロと名乗った、あの魔法使いの力を見たとき、もちろん恐怖を感
じたのは間違いないが、心の一部は歓喜の叫びをあげていたのだ。
 もう一度、あの残忍にして冷酷な魔法使いに会うことがあるだろうか?もし、再会
がかなうならば、そのときおれは何をすべきなのだろうか?B・Vは闇の中で考え続
けた。
 秘かにギブスン達から離れてから、かなりのスピードで森の中を駆け抜け、数時間
後には当初の目的であったパウレンの小屋まで近付いていた。そして、当然のように
B・Vは同じく引き返してきたキキューロと再び遭遇することとなった。
 突然、目の前に降り立った魔法使いの姿に、B・Vは驚愕し、自らの思いが具現化
したのかと疑った。訓練を受けた身体が反射的にナイフを投げようとしたが、かろう
じてそれを抑制する。その短い一瞬を捉えて、キキューロは嘲るような声をかけた。
 「さっきのガキの仲間だな。まだこんなところをうろついていたのか。とっとと消
えな。おれは忙しいんだ」
 クーベス大陸の標準語は、出発前に高速学習で頭に叩き込んである。おぼつかない
発音でB・Vは言った。
 「待ってくれ。おれはあんたに敵対するつもりはないんだ」
 「ほう」キキューロは余裕たっぷりに相手を見下ろした。「敵対するつもりはない
のか。ではどういうつもりなのだ、ン?」
 「おれは殺すのが好きだ」B・Vは何を言いたいのかもわからぬままに口を開いた。
「おれは誰かを殺すとき、何かを破壊するときだけ、血が沸き立つのを感じる。相手
が誰であろうと、おれは殺すとき、限りない生を実感するんだ」
 さすがのキキューロも、この突然の心情吐露に面食らったような表情を隠せなかっ
た。B・Vは続けた。
 「だからおれは殺してきた。この手で数え切れないほどの命を奪ってきた。だが、
さっきあんたの魔法を見て、おれは絶望的な気分になった。今まで、他人に絶望を与
えたことはあっても、その逆はなかったというのにだ」
 「それは光栄だが……」いぶかしげな顔のままキキューロは訊いた。「お前は一体
何を言いたいのだ」
 「おれに教えてくれ」B・Vは真剣に訴えかけた。「殺す魔法を。お前が笑いなが
ら殺したように、おれも殺したい」
 しばらくキキューロは沈黙したままB・Vを見つめていた。
 「そうか」奇妙に優しい声でキキューロはつぶやいた。「そうか。お前は確かにお
れに似た心を持っているようだ。では訊くが、お前は全ての安らぎと平安を捨てる覚
悟があるのか?」
 「おれは全てを捨ててもいい」即座にB・Vは答えた。
 「これが何かの罠でないという保証はないが」キキューロはB・Vに近付いた。「
言うのだ?」
 「B・V……いや……ブルーと呼んでくれ」
 「よし、ブルー」キキューロはB・Vの正面に立つと、琥珀色に輝く瞳でB・Vの
視線を捉えた。「お前は今から古き力との盟約を結ぶのだ。もう後戻りはできないぞ。
考え直すならば今のうちだ」
 「後悔はしない」B・Vはキキューロを見つめ返しながら、はっきり答えた。
 「ふん。度胸はありそうだな。よかろう。これから古い儀式を行う。お前はシャリ
キーンと永遠の盟約を交わすのだ。その後、あのガキや女の正体を教えてもらおう」





前のメッセージ 次のメッセージ 
「長編」一覧 リーベルGの作品 リーベルGのホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE