AWC 本を読む女    2


        
#3080/3137 空中分解2
★タイトル (HQM     )  93/ 4/ 6  17:32  (179)
本を読む女    2
★内容


 次の日の朝
 いた・・・
 いつものように
 本を読んでいる

 何事もなかったように
 平然と
 落ちつき払って
 彼女は本を読んでいる

 昨日の悪夢がよみがえる
 あれはなんだったのだろう
 僕の思い違いだろうか
 いや、違う
 確かに彼女は消えた・・・

 何ものなんだ
 この人は
 本当のことが知りたくて
 頭がどうにかなってしまいそうだ

 僕は決心した
 彼女に声をかけてみることを
 僕は彼女の元に歩み寄ると
 できうる限りさりげなさを装って
 声をかけた

 「いつも本を読んでますね」

 返事がないばかりか
 ほんの僅かな反応すら示さない
 全くもって何事も起こってないとばかりに
 彼女は
 同じ姿勢で
 同じ調子で
 本を読み続けている

 どういことなのだろう
 僕などは
 相手にできる存在ではないということなのか

 「誰かと待ち合わせですか」

 ページをひとつめくった
 が、それきりである
 行き交う人が
 チラリと視線をこちらに向けた
 気まずくなって
 その場にじっとしてられなくなって
 僕は
 人の流れに身をまかせるようにして
 駅に向かって歩きはじめた

 無反応
 無視
 それに、消失
 普通ではない
 いったい・・・
 彼女は・・・


 次の日の朝
 いつものように
 本を読む彼女
 あらためて不思議に思うのは
 僕以外は誰も
 彼女の方に注意を向けてないこと・・・

 こんな時間にこんな場所で
 本を読んでいるということだけでも
 それは興味の対象として
 申し分のない存在だと思うのに・・・
 それにもまして
 若くて気品さを感じさせる
 そんな素敵な人だというのに
 誰もチラリとうかがうことすらしないのは
 どうも変だ

 知りたい
 真実を
 知りたい
 彼女の全てを・・・

 僕は彼女の側に歩み寄って
 再び声をかけてみた

 「何を読んでるんですか」

 無反応

 「何とか言ってくださいよ」

 そういって、そっと
 彼女が読んでいる本に手をかけた

 うっ、うう一一一
 大変なことが起こってしまった
 僕の右手は空を切った
 本にさわることができなかった
 僕はもう一度右手を伸ばした
 さわれない・・・
 どういうことなんだ

 今度は本を持つ彼女の手にふれてみた
 さわれない・・・
 何てことなんだ
 まぼろし・・・
 本も彼女もまぼろし
 こうやってはっきりと見えているというのに

 僕はあまりの驚きで
 全身をうちふるわせながら
 今度は彼女の肩に手を伸ばしてみた
 さわれない
 何もない

 ああ、頭がどうかしそうだ
 側を通る人の興味本位の視線が
 針のように
 僕の体を突き刺している

 「ねえ、見てくださいよ
 この人は幻なんですよ
 ほら、この通り
 さわることができないんですよ」

 誰も答えてくれない
 貶むような
 冷やかな視線を向けるだけ

 「なぜだ
 なぜ、そんな目で見るんだ
 あなたたちはこの女性のことが
 気にならないのですか」

 僕は側を通った
 会社員ふうの男の腕をつかんで

 「ねえ、ほら
 さわれないんですよ
 ほら、ねえ
 幻なんですよ」

 「放せ
 何を言っているんだ
 そこには誰もいないじゃないか」

 誰もいない・・・
 男は不愉快極まりないという表情で
 僕の手を振りほどくと
 そそくさと行ってしまった
 誰もいない・・・
 そ、そんな

 「ねえ
 あなたには見えますよね
 この女の人が」

 大学生ふうの青年に声をかけた
 青年は顔を顰めただけで
 返答することなく
 行ってしまう

 「ねえ
 ここに女の人が
 本を読んでいる女の人が・・・」

 若い女性に問い掛けた
 が、青年と同じように
 チラリと冷たい視線を向けただけで
 行ってしまった

 どうなっているんだ・・・
 僕の頭がどうかしてしまったのか

                             つづく





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