AWC 『気分次第で責めないで』12−2<コウ


        
#3079/3137 空中分解2
★タイトル (HBJ     )  93/ 4/ 6  17:32  ( 62)
『気分次第で責めないで』12−2<コウ
★内容
今、俺がいるのは、アルペン新宿西口店の前だ。調査の結果、どうやら、ここが一
番安いらしいのだ。しかし、やっと、たどり着いた時には、店のシャッターが閉ま
る所だった。明日の朝一番で確認したら、全ての調査を終了しよう。

タバコに火をつけて、ルームミラーで、自分の顔を見た。すっかり頬がこけて、不
精髭がタワシの様に生えている。一番最近メシを食ったのは、何時なのか、覚えて
いない。

俺は、車を降りると、斜前のマクドナルドで、ビッグマックセットを買った。店か
ら出てくると、浮浪者とカラスが、店の前の生ゴミを漁っていた。セットに付いて
いたフライドポテトを浮浪者に恵んでやった。ついでに「何でこんな生活をしてん
だ」と浮浪者に聞いた。

「あれかこれか迷っている内に、こんなになっちゃったんだ」

ゾッとした。

車に飛び込んでビックマックをアイスコーヒーで流し込むと、俺は、すぐに、眠り
に落ちて行った。

夢の中の俺は中学生で、職員室で、担任の柳井先生の前に立っていた。転校の手続
きをしているのだ。俺は日野市から隣の八王子市に引っ越したのだった。中学三年
の二学期だったので、転校などしないでいいと思っていた。ところが、柳井が、「
越境通学などしていると、高校受験の時に、問題になる」などと、お袋を脅かすの
で、泣く泣く転校する事になったのだ。やっと諦めがついた職員室の俺に、美術の
北野が言った。「関口なあ、お前も、二年半もここに通っていたのだから、今更転
校する事もないんじゃないのか?」柳井はニヤニヤ笑っていた。俺の人間不信が始
まったのは、それからだ。北野のクラスにも、やはり、日野市から八王子市に引っ
越した奴がいたのだが、そいつは越境して通学するという。上手い事、北野に取り
入ったのだ。俺も、やりようによっては、転向しないで済んだかも知れなかった。
しかし、お袋は俺よりも柳井の見方だったので、子供の俺は対抗出来なかったのだ
。恐るべき子供達!コクトーの間違いは、子供を恐れた事だ。恐ろしいのは、子供
ではなくて、子供は子供の記憶をもったまま大人になるという事だ。目が覚めたら
、柳井の家に、上寿司十人前と鰻丼十人前とドミノピザ十枚届けてやろう、と計画
していた所で、目が覚めた。

俺のアルト660の後ろで、トラックがクラクションを鳴らしていた。窓を開けて
顔を出すと、向こうの運ちゃんも顔を出していた。
「兄ちゃん、ちょっと、どいてくれや」と、トラックの運ちゃんが白い息を吐いた。
俺は車をUターンさせて、道路の反対側につけた。
運ちゃんと助手の若い男が降りてくると、トレーラーの扉を開けて、スキー板が入
っているらしきダンボールの箱を下ろし出した。「さみいなあ」とか「さっさと片
づけてしまうべえ」とか言いながら、店のシャッターの隙間から、ダンボールを滑
り込ませている。

トレーラーのボディーには、「東京NISIZAWA浅草」と大きく描かれている
。あれは、問屋のトラック、もしくは、工場から来たトラックだ。今まで、その事
に、気が付かなかった。つまり、考えて見れば、いくら、ディスカウントとは言っ
ても、店の荒利というものがあるのであって、「三割四割引きは当たり前」に値引
きしても、まだまだ、十分に儲かるから、そういう事をするのだ。

「一体製造原価はいくらなんだ?」俺は思った。工場ではドラム缶一杯100円の
コーラが、酒屋の自動販売機では350mlで110円になるのは何故だ!日本の
流通機構は複雑過ぎる、と、ヒルズ通商代表が言っていたと、日本経済新聞を読み
ながら親父が言っていた。問屋でNISIZAWA・デモンストレーターNo3カ
ーボンを買う事は出来ないのか?工場まで行ったら、もっと安くなるのではないの
か?そんな事は不可能な事なのか?いやいや、前に、お袋が、流通卸売りセンター
で、スルメを大量に買って来て、「いなげやの半額だ」と騒いでいた。

トラックの運ちゃんと、助手は、店のシャッターを閉めると、トラックを発車させ
た。俺は、キーをひねって、ギアをローに入れると、ヘッドライトをつけないまま
、尾行を開始した。




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