AWC 月夜話、其之六「 三人の少年と合宿 」 (2/3) ■ 榊 ■


        
#2766/3137 空中分解2
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月夜話、其之六「 三人の少年と合宿 」 (2/3) ■ 榊 ■
★内容


   毎年、合宿の恒例行事は、夜中におこなわれる怪談大会と花火大会だった。
  今年も寝る用意のできた子供達は、円を作り明かりを消して、怪談大会を始
  めていた。
   べつに強制はしていないので、怪談が恐い人達は違う部屋で別の話で盛り
  上がるのだが、つい見栄をはって怪談の方に顔を出してしまった人の中には、
  年長のお兄さんお姉さんと一緒にひとつの布団にくるまなければ眠れなくな
  ってしまう子もでてくる。
   今年も、何人かの女の子が舞姫の部屋へいって盛り上がっている様子だっ
  たが、怪談の方もいつにない盛り上がりを見せていた。
  「ある高校でおきた話なんだけど、漫画を描いている人がね、夜中まで部室
  に残っていたんだ。どうしても原稿を描きあげなくちゃいけないらしくて、
  やむなく泊まったのだけれど、その部室はかならず幽霊がでるって有名だっ
  たんだ」
   中学3年生、普段はどちらかといえば静かな少年だが、こと幽霊に関して
  は右にでるものはないと言われていて、この怪談大会にはもはや欠かせない
  存在になっていた。彼の話は話し方も間合いもよく、けっこう恐い。
   寝巻きになって円をつくる女の子の中には、枕をぎゅっと抱きしめる姿や、
  となりの子の服を離さない子も見られた。
  「その幽霊と言うのが毎回決まっていて、首のない幽霊がドアを叩くんだっ
  て」
   女の子が、ひっ、と言って横の子の肩に目をふせた。
  「その昔、ものすごく絵の上手い人がいて、等身大の人物像を描いてこの部
  室に残していったんだけど、何代目かの人がその顔が気に入って、顔の部分
  だけ切りとって家に持ち帰ってしまったらしいんだ。その幽霊は、その顔を
  もとめて、部室にさまよいでるようになったんだって」
   少年の口はよりいっそう、静かに真剣味をましていった。
  「それでその子は、描きあげたらすぐに家に帰ろうと思っていたんだけど、
  ついつい遅くなってしまって、気づいたら夜中の2時になっていたんだ。
  『あっ、もうあの幽霊のでる頃だ』と思ったとき、ドアがドンドンと叩かれ
  た。もし部員や用務員のおじさんだったら、そのまますぐに入ってくる。幽
  霊がきたってすぐに解った。それで無視し続けたんだけど、ドアの音がどん
  どん大きくなっていく。開けて入ってくればいいのに、ドアの叩く音だけが
  どんどん大きくなっていく。ドンドンッ!! ドンドンッ!!……って。し
  ばらくは耐えていたんだけど、ドアの音はもう耳を必死に閉じていても耐え
  られないほど大きくなっていったんだ。出口は一つしかない。もうその子は
  逃げ出したくなって、とうとう自分でがらってドアを開けた。……………そ
  して、そこに立っていたのは、首の断面がきれいに見える幽霊だった」
   一人二人、泣き出してしまった。
   翼でさえだいぶ元気をなくしていたが、逆に康助はいくぶん平気そうだっ
  た。
   健士は隣の同じクラスの女の子に抱きつかれた。女の子はすぐに気を取り
  戻して、「あっ、後免」と顔を赤くして離れる。健士が「大丈夫?」と訪ね
  ると、その女の子はさらに顔を真っ赤にしてぶんぶんと顔を縦に振った。健
  士にはその反応がどんな意味を持っているかは解らず、すぐに元のように顔
  を戻した。
   ちなみに、芳春と萌荵はいたって慣れた様子であった。このぐらいは、日
  常茶飯事とでもいいたげである。
  「その子はもうたまらなく恐くなって、その幽霊を押し退けるようにして外
  に飛び出して、死にものぐるいで家に帰った。そして、二度と泊まる人はい
  なくなったんだって」
   一時間ほども続いた怪談大会もこの話でお開きとなり、年長組は幼い人達
  を便所に連れていき、わいわいと騒ぎながらも道場でみんな眠る用意を始め
  た。
  「康助くん、一緒に眠らない?」
   たぶんこの子は一人では眠れないだろうと思った、合宿参加メンバーでは
  年長組になる萌荵<モエギ>は、自分から声をかけた。こういう子は、まだ自分
  からは誘うことができないはずだから。
   康助はちらっと萌荵を見て、少し考えるように下を向き、やがて首を横に
  振った。やっぱり恥ずかしいらしい。
  「うん、解った。じゃあ、一つだけいいこと教えたげる。眠れないときは、
  無理に眠ろうとしないこと。その方があとでよく眠れるの。お休みね……」
   こくんと康助はうなずくと、萌荵は微笑んで、代わりに別の女の子に声を
  かけにいった。その女の子は恥ずかしそうにうなずいて、二人は一緒の布団
  で寝ることになった。
   そして、闇が訪れた。


   2時間後、やはり康助は眠れなかった。
   どうも布団の居心地が悪くて、落ちつかない。でも、怪談のせいではない
  ようだった。自分でも意外なのだが。
   今ではもう、ぱっちりと目を開けてしまっていて、しばらくは眠れそうに
  なかった。萌荵の「無理に眠ろうとしないこと」という言葉を頭の中で反復
  すると、康助はむくりと体をおこした。
   庭に面するカベは障子になっていて、月明かりがその白い紙をとおして道
  場の布団の群れを照らし出していた。布団はぴくりと動きもせず、青や赤の
  色彩をいろどっている。障子の方に目をやると、白いスクリーンとなった障
  子には、庭の木々のこまやかな葉の様子が揺れながら映し出されていた。
   だれ一人おきていない。自分一人しか意識がない。でも、それはあまり寂
  しいものではなかった。耳をすませば、庭からかすかな虫の鳴き声も聞こえ
  てくる。

   ちーーーぃ、ちーーーぃ……りりりり………

  「……なんだ、やっぱりお前も起きていたのか」
   横で寝ていたはずの翼が声をかけてきた。彼も眠れなかったらしい。翼の
  場合は、あの怪談の話が頭のなかから離れてくれなくて、どうしても眠れな
  かったのだが、恥ずかしくてそんなことは言えなかった。ただ二人して、外
  を見つめた。
  「ちょっと、外にでようか」
  「うん」
   そのまま寝てもしばらく寝つけないだろうと思い、翼はせっかくだから外
  にでて涼もうと考えた。他の人を起こさぬように布団の間をそぉっとすり抜
  け、障子までたどりつくと自らその障子を音をたてぬように開けた。
   そして、閉めた。
  「どうしたの?」
   不審に思った康助がそうたずねたのだが、振り返った翼の顔はかなり深刻
  なものだった。眉をよせ、泣き出してしまうのを必死にこらえているような
  表情だった。
  「ゅっ……ゅぅ霊……」
  「えっ、幽霊?」
   康助はいたっておとぼけた様子で聞き返すと、障子をあけ外を見渡した。
  そして欅の下に、更紗<サラサ>と幽霊らしきぼんやりとした光をみた。しかし、
  それほど恐くはなかった。むしろ、翼が恐がっている様子をみて、少しだけ
  勇気がでて、「更紗さんがいる。行ってみよう」と言い出した。この神無月
  家の長女である更紗は、霊能力が非常に長けた人物であることはふたりとも
  よく知っていた。
   それでも、翼には恐いようで、「やだっ! 恐い!」と体一杯に拒絶をし
  めす。
  「じゃあ、僕一人で行ってくる」
   康助は戸惑いもせず、外にでていってしまった。翼はそのままじっとして
  いたが、一人でいる方がもっと恐いことに気づくと、康助のあとを追って飛
  び出していった。
   庭にでると虫の鳴き声が、よりいっそう大きくなる。そして、風が吹いて
  いた。芝生がゆらゆらと揺れるなか、二人は寄り添うように更紗のもとへ近
  付いていく。
   更紗がすぐにこの幼い冒険者達に気がつき、手招きして呼び寄せる。二人
  は霊を避けるように遠回りして、更紗の近くへよっていった。
  「そんなに恐がらなくてもいいから。近くにいらっしゃい」
   そう言われても、近寄れるものではなかった。
  「この幽霊、見える?」
   かなり奇妙な質問に、二人はこくんとうなずいた。
  「どんなふうに?」
  「ぼんやりと光ってしか……」
  「かっ、顔が見える!」
  「やっぱり見え方が違うのね」
   更紗がうなずくと、その光はすぅっとかき消す雲のように輪郭をなくして
  ゆき、そしてなくなってしまった。二人の少年はぼうぜんとして、その一部
  始終をぽっかり口をあけたまま見つめていた。
  「いっちゃったの?」
   康助の声は落ちついていた。横にいた翼は、小刻みに体がふるえているよ
  うで、合宿に参加するときとはすっかり逆の立場になっていた。
  「うん、成仏しちゃった」
  「じょうぶつ」
  「神様のところへ帰っていった、ということ」
   康助はこくんとうなずいた。真剣な眼差し。更紗はふふっと笑うと、その
  細い指をゆっくり空に向かってあげていった。その指先を追うように顔をあ
  げていくと、漆黒の闇に広がる星たちが視界一杯に映し出された。

   ざわっ……! ざわっ……!

   広い庭を、二度ほど大きな風が駆け抜ける。そして少年たちをとりまき、
  去っていった。木々がまるで笑うかのように、さざめく。
   寂しいような、きれいなような、二人はじんっとする不思議な気持ちに包
  まれて、恐さはもうどこかへいってしまっていた。






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