#2756/3137 空中分解2
★タイトル (WJM ) 93/ 1/30 10:13 (147)
記憶力 κει☆彡(けい)
★内容
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頭の釘に引っかからずに
スッテンテンとおっこちた
昔の事は忘れる
今日の事も忘れる
腹を抱えて笑った意味さえも
そして君に向けて思った事も
不安になった事はありません?
どうして人は忘れるんだろう
神様は設計ミスをしたのかな
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君はまさか記憶力なんていう能力はあればあるほど良いと思ってい
るんではないだろうね?
また「覚えたことを決して忘れない」とかいう薬や機械が発明され
たのなら、どんな事をしてでも手にいれたいとまで思っている人が
いるかも知れないな。
もしかしたら、そういう製品が出回る時代がくるかも知れない。
ああ、でも僕は言っておいてやる。
そんなバカで愚かな考えは今すぐドブ川へ投げ捨てた方がいい。
この俺が言うのだから間違いない。
無いと言うのも困るかも知れないがバツグンに良すぎると言う事は
その何倍も困る。
それは言葉に言い表せないほど.......
俺は今ビルの屋上にいる。下を眺めると車が走っているのが見える。
空は晴れているが星などはこの大都市からでるネオンの輝きのため
一つも見えない。ただ三日月は一つ寂しくひっそりと浮いている。
こんな所で何をしてるって?
飛び降りようとしているんだよ。あまり高くはないが死ぬには充分
だろう。なぜって?
記憶力がバツグンにいいからさ。
どういう事か説明してくれって?
ああいいだろう。どうせ時間はいくらでもあるしな。
俺はその日映画の台本を覚えようと懸命だった。
映画初出演で主役だった。この映画でデビューする予定だった。
密かに10年後の自分、映画界の大物と呼ばれる自分を想像して
にやける事もあった。台本の暗記にとりかかるまでは。
俺は自分の記憶力のなさにつくづく嫌になっていた。
手に持っていたグラスを床にたたきつけたほどだ。
なにしろ、昨日覚えた台詞でさえ、一日経つと殆ど頭から落ちてい
る。昔からこの記憶力のなさのため苦労した。
高校受験の時なども、カンニングをしなかったら受からなかっただ
ろうと思う。
俺はその言いきれないほどムシャクシャする気持ちを少しでも落ち
つかせようと外に出た。
商店街の裏通りに何気なく入ると、どこか気を引く古本屋があった。
その本屋の建物はボロが来ていてお世辞にも綺麗とはいえない。
しかし珍しい本が置いてあった。
「空を飛びたい人のために」「1時間いきを止める方法」
「超能力者になれる」「視力10.0」など書いていけば、きりが
ないだろう。
うさん臭いとは思いつつも、そのなかで俺は「覚えたら忘れない」
という本を手にした。
その時は藁にもすがりたい心境だったのだ。
ベッドの上でその本を必死になって読んだ。
初めは何気なくだったが、その本の書き方と本からでる不思議な感じ
のためいつしか夢中になっていた。
そしていつの間にか眠ってしまっていた。
翌朝コンポから流れてくる音楽で俺は目を開けた。
閉じられた本が目の前にる。
本を読んでいて、そのまま寝てしまったようだ。
眠い目を擦りながら即席ラーメンを作る。
俺は街に出て初めて自分の頭の変化に気が付いた。
今朝自分が何時に起き何時に飯を食ったか。
また食った即席ラーメンの蓋にはなんと書いてあったかが
すべて鮮明に思い出せるのだ。こんな不思議な感じは初めてだった。
おそらく君も体験したことがないだろう。いや絶対にないはずだ。
急いで家に戻り映画の台本を眺めた。すべて覚えられる。
べつに覚えようと努力する必要など無くただ眺めるだけで良いのだ。
頭がパンクするんじゃないかと不安になったが、
そんな不安はすぐに消え去った。
人間の脳はそのぐらいでパンクしてしまうようなちゃちっぽい物
じゃないのだろう。
その日から俺のすべてが変わった。少し表現が古いかも知れないが、
人生バラ色ってやつだ。
俺は映画出演を断わった。
日本一の大学を受けてみようと思ったのだ。幸いまだ若い。
3浪した者と同じだ。
2カ月ほどしかなかったが、ありとあらゆる参考書を買ってき
それらをすべて覚えた。すこしも苦にならなかった。
ただ眺めているだけでいいのだから。
しかし3日も経つと、この能力のため苦しみ始める事になったのだ。
一度覚えてしまったことは絶対に忘れられない。
とても嬉しい事、楽しい事などいつでもその時の気持ちが衰える事
無く思い出せるのだが人生いいことばかりじゃない。
どちらかというと悪いことの方が多いものだ。
ひどくこの能力で苦しむことになったのは
いつものように即席麺を作っていて、沸騰した湯で火傷をした時だった。
水ぶくれになった手を見る度にその時の傷みが思い出されるのだった。
いつまでたっても、忘れられない.....
次に今までつきあっていた彼女に屈辱的な振られ方をした時。
早く忘れたい、早く忘れたいいくら願っても忘れられない。
まだまだあるが、これも挙げていくならば切りがないだろう。
そう俺はその切りがないほどの辛いことを一生忘れることができない
のだ....
これからどれだけ辛いことに会うだろう、どれだけ恐い目に会うだろう。
どれだけ泣きたくなるような事があるだろう。
どれだけ嫌なことがあるだろう。
それら全てが忘れられないのだ.....
考えた事は死ぬまで忘れる事はない。
ここ数日俺は笑った事がないんだぜ。笑えるわけない。
どうだい俺がどうして飛び降りるかわかったろ?
誰がいったい俺を止められる? 誰もいないだろう?
ふっ。それじゃ話はこのぐらいで アバヨ人生。アバヨ苦しみ。
「おい大変だっ! 人が飛び降りだぞっ!」
誰かが大声を上げた。
男は叫びながら落下していった。よほど恐かったのだろう。
しかし男は小雨が降ってきたというので傘をさしていた女性の上に落ち
全身血みどろになりながらでも奇跡的に一命を取り留めた。
病院。
目がさめたその男の叫び声がする。
「ひっ恐い恐い! 頼む誰か俺を殺してくれ!なあ早く!ああああ!」
狂乱的な叫び声はいつまでも途切れる事がなかった。
男はそれから何度も自殺をはかったがことごとく失敗した。
精神病院。
マドの無い部屋でのたうち回る患者に医者さえも悲しげに首を振る。
精神安定材はまったく効かない。
頭を打ちつけてまで死のうとするので医者は仕方無しに手足をしばった。
人間忘れるという事ほど大切な事はないんじゃないだろうか。
1992.02.17
remake 1993.01.13
Keiichiro☆彡