AWC 「荒らぶる海」(6)    久 作


        
#2674/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  93/ 1/11   0:53  (142)
「荒らぶる海」(6)    久 作
★内容

        ・暴露・

     「お役人さま 何を仰しゃいます そ そんな・・・」
     亀蔵がヒレ伏したまま叫んだ。
     「イヤ お前たちの殺したのは海賊ではない」
     「こ 殺すなど メッソウも・・・」
     「うるさい 黙っておれっ 
      皆ヨク聞け 間違いを認め真の海賊を捕らえるのに手を貸せば
      罪を問わぬとの格別の御沙汰だ
      何でもヨイ 何か 何か手掛かりはないか」
     役人は厳しい眼で村人を見回す。亀蔵の後ろに控えていた女がスウ
    ゥと顔を上げる。サキだ。冴えて切れ上がった眼をしている。
     「そおよ 殺したのは タダの漁師
      何もしていない人たちの 肉を剥ぎエグり突き刺して殺したのよ
      みんな血ミドロになって 誰が誰やら解らなかったくらい
      ふっふふっあははははははははははっっ」
     一息にマクシ立て、そして笑うとサキは、再び暗くオシ黙り俯いた。
    亀蔵は驚いたように振り返り見つめる。男達は脂汗を滴らせながら俯
    き震えている。
     「・・・わ わし 知っています」
     隅の方に座った小さくなっていた老人がボソリと言った。役人はチ
       ラと亀蔵を見やった。亀蔵は俯きながら老人を窺っている。
     「おお 何でもヨイ 何を知っている」
      わし 一度 海の上で舟が当たって エライ目に遭いました
      確か 頭の名は春市とかいう・・・」
     そこから先は簡単だった。女や年寄りから海賊の人相を聞き出し、
    絵に落とす。人相書き。宰判に持ち帰る。萩藩から三津ケ浜を支配し
    ている松山藩に使者が出され海賊捕縛のための交渉が成立した。大島
    宰判から捕手の一団が早船で三津ケ浜へと向かった。

        ・遊女・

     「定坊 ウチの竹のコト聞かいてないやろか」
     四十絡みのヤツレた女が子供の手を引いて立っている。
     「うっ あ ああ そういや 聞かねぇな」
     定は口ごもりながら答える。女の目が見られない。
     「・・・やっぱり 海に呑まれたんかねぇ
      大島の方行くけん 止めたんやけど ウチの人もあの辺で・・・」
     女は目を潤ませ、男の子の手をギュッと握り締める。
     「や やけど ドッカで生きとるかもしれんし・・・」
     定はゴマかそうとした。竹たちが海賊と間違われ無毛嶋で虐殺され
    たのは、漁師たちの間で評判になっている。さっきからジッと女を見
    上げていた少年が、
     「お母ん ワシがおるけんっ」
     まだ八つ許りの子供だ。「ワシが居るから」、どうしたというワケ
    でもないだろう。しかし母親は我が子をウットリ見下ろし、
     「ほおよね 梅坊がおるもんね オカシイわね 泣いたりして」
     そっと袂で涙を拭う女に背を向け定は、
     「ワリィ ワシ ちょっと行くトコあるけん」
     と言い放ち、足早に歩み去って行った。

     行先は遊廓だった。三津は幕藩時代、「百軒問屋」と称された程、
    繁華な街だった。城下街松山と比肩する経済力を誇り、三津ケ浜の気
    っぷのイイ漁師たちや集まってくる商人たちを相手に遊廓が栄えた。
    事件から一ヵ月。漸く仲間が盗品を金に換えて戻ってきた。しめて二
    十両。頭が十両をとり、残りを八人で均分し一両一分ずつ。定の頭の
    中は、アノ日に組み敷いた娘のコトで埋ま尽くされていた。
     さもモノ慣れた風を装い見世窓を覗き歩くが勿論、廓に来るのは初
    めてだ。懐に差し込んだ手には、一分銀五枚がシッカリ握られていた。
    見世で茶を曳く女たちは、暇潰しのつもりか、若い定を窓の内からカ
    ラカい、嬌声をあげる。どの女にもソソられないまま定は三軒目の見
    世を覗いた。
     座敷の奥まったホノ明かりの中で一人の遊女が煙管をくわえ、横顔
    を見せている。(アイツに似ている)。定はヨク見ようと、窓に近付
    いた。女は定に気付き、顔を向ける。薄暗い苦界から射出される凛と
    した視線に、定はタジろいだ。女はスィと立ち上がり、窓に寄って来
    た。立ったまま、ゾンザイな口ぶりで、
     「アタイと遊んでくかい」
     「・・・あ ああ」
     定は呆けた顔で遊女を見上げる。年は二十一、二だが、アノ娘と瓜
    二つだ。
     「上がりなよ そんなトコ 突っ立ってないでさ」
     女は初めて顔をほころばせた。我に返った定は、荒々しい足取りで
    店に入って行った。

     「アタイ 惚れちゃったよ」
     定は上の空だった。定はアノ娘のコトを考えていた。もう東の空が
    赤らんでいる。一晩、遊女は技巧を凝らし定を、快楽の海に溺れさせ
    はした。「惚れた」という遊女の言葉もアナガチ嘘ではないだろう。
     定は知らなかったが廓は、岡場所などと違い、金さえ出せばデキる
    所ではない。格式の高い店の格式の高い遊女は、その気にならないと、
    客の相手をしない。気に入らない相手だと、指名されても出ずに代役
    を差し向ける。この代役の少女に手をかけるのは許されず、金は「取
    られ損」になる。
     定はイチゲンで、この店一番の女を相手にした。遊女は定を、商売
    以上の手管で愛した。それでも、アノ娘から得た痺れるような感覚に
    は届かなかった。もう一息という所で、果ててしまう。
     「アタイ 惚れちゃったよ」
     女の声は潤んできていた。愛しげに胸元に唇を這わせていく。定の
    若い肌がビクリと跳ね上がる。満足しきれないと解っていながら、イ
    キナリ定のモノはドクドクと脈打ち始める。が、その時、階下から声
    が聞こえてきた。
     「定という者が来てはいないか」
     「はあ どのような方で・・・」
     「周防の国に出張り 荒らし回った盗賊の一味じゃ
      まだ十八の若い男で 顔は ホレ この絵のような」
     「・・・・・・」
     役人らしい声に店の者の声が受け答えている。定は跳び起き、慌て
    て着物の袖に手を通す。一瞬キョトンとした女は、ニタリと笑って、
     「アタイが惚れただけあるよ 若いのに思いきってるねぇ
      安心おし 助けてあげる コッチに来な」
    
     襦袢のまま庭に降りた女は裏木戸を開けてやる。定が出ていこうと
    すると、女が袖を引く。ハッと振り返る定に、髪から抜いた銀の簪を
    突き付けた。
     「・・・・・・」
     「持ってきな 文無しだろ」
     「・・・・・・」
     「かまやしないよ
      どうせ色爺ぃが アタイ抱きたさに くれたんだ
      サ 早く 持ってきな」
     店の中が俄かに騒がしくなってきた。逃げたのがバレたらしい。
     「じれったいねぇ」
     女は手早く懐紙を取り出すと簪をくるみ、定の懐に押し込んだ。思
    い詰めた視線を送りながら、トンと胸を小突いて、
     「お行き」
     と言ったかと思うと、パタンと木戸を閉めた。二秒ほど定は立ち尽
    くしている気配だったが、徐ろに駆け足が聞こえだし、遠ざかってい
    く。女は暫く耳を澄ませている風だったが、足音が聞こえなくなると、
    クルリ板塀に凭れかかった。胸で手を組み、閉じた瞼をユックリ開け
    て、呟いた。
     「定・・・ って言うんだね 坊や」

     庭に五、六人、股立ち取った武士が駆け降りてくる。
     「女っ 小僧を何処へ逃がしたっ」
     「さあて 何のことやら」
     女はソ知らぬ顔で俯きトボける。
     「隠すと お前も同罪だぞっ」
     女は高飛車な役人の声にキッと目を上げ、
     「知らないよっ」
     「お前を 連れて帰って 責め吐かせてもイイんだぞ
      その細い体で 責めを生き延びるのは 難しかろうが・・・」
     役人はネットリした視線で、女の体を舐め上げた。
     「ハンッ コッチとらねぇ
      周防の島でサラわれて 苦界の底に沈んだ身だ
      酸いも甘いも舐め尽くした 辛い浮世に未練はないよっ
      知らないコトを吐かせられるか
      試しに責め殺してみなよっ」
     朝焼け空に歯切れのイイ啖呵が響いた。

(続く)




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