AWC 「荒らぶる海」(2)   久作


        
#2598/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  92/12/27   0:47  ( 56)
「荒らぶる海」(2)   久作
★内容

(1)は2448に掲載

        村上主膳

    通常、陸海を問わず強力な部隊を擁することは、幕府に改易の理
   由を与える。が、李氏朝鮮に対する防護を密かに命じられていた萩
   藩には、強大な水軍保有が許されていた。古えの「大島海賊」で構
   成された船手組である。船手組は五つに分かれていたが、うちで最
   も精強を誇ったのが、村上主膳率いる三番組だった。
    船手組は特殊な立場にいた。海賊を祖とする彼らは農業経済を基
   盤とする藩からハミ出た存在だった。君主直属の、海戦という特殊
   能力をもった集団だけに、一種の特権階級でもあった。
    江戸への参勤が近付いてきた。筆頭家老の吉川周防が最も憂鬱に
   なる時期だった。萩藩は参勤交替の折、国元から大阪迄の間は海行
   する。歩くより格段に早いし宿場の陣屋に宿泊する費用も浮く。荷
   物も運べる。当時、船は最も効率的な運輸手段だった。しかし、海
   では藩全体が船手組の支配下に置かれる。筆頭家老の周防でさえ、
   船の上では赤子同然だ。
    豊臣家が滅び、幾つかの倒幕運動が根絶やしにされた今、権力は
   直線的に一元化されねばならない。戦時なら藩内に半独立の戦闘集
   団があってもよいが、平時には邪魔なだけだ。周防は家老に就任し
   た5年前から、船手組の勢力を削ぐことに腐心してきたが、なかな
   か良い材料がみつからず成功していない。しかも参勤交替の度に、
   船手組は自分達の必要性と力を全藩に見せつけている。何か事件が
   必要だった。

    「御家老 おられるか」
    真っ黒に陽やけした五十がらみが詰めの間にズカズカ入りドッカ
   リと座り込んだ。(このハゲタカめ)と周防は心の中で呟いた。こ
   こは番頭風情の立ち入る部屋ではない。
    周防は感情を抑え、ニコヤカに声をかけた。
    「どうもこうも・・・ あのソロバン頭のシブチンは話にならん」
    「ソロバン頭?」
    「おうよ ただ今 勝手方に行って参勤のための金子を受け取ろ
     うとしたのぢゃが いっこうにラチがあき申さん」
    「金子なら来月に渡すよう・・・」
    「来月では間に合い申さん しかも諸物高値の折に 前回と同じ
     支度金とは如何なことかっ」
    「しかし・・・」
    「よいかな御家老 陸なら食い物が無くなっても借り受けることが
     出来ようが 海の上では どうなるかっ」
    「いや それは岸の村にでも・・・」
    「嵐の時は無人島に着けねばならぬ時もある
     だいたい 御家老に海のコトが お解りになるのか
     口を出さんでいただきたいっ」
    主膳のこめかみには血管が浮かんできていた。周防は諦めた。船
   手組でも一番のウルサ方である主膳は、話の通じる相手ではない。
    「よろしい しかし お家の勝手も苦しい
     明日にでも百両だけなら用立てる」
    主膳はニヤリと笑って軽く頭を下げると、肩をそびやかして退出
   した。周防は主膳が姿を消すと、呟いた。
    「・・・特に あの主膳 どうにかせんとな」
    

(続く)




前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 久作の作品 久作のホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE