AWC 天下無敵の!! お兄ちゃん(前)


        
#2545/3137 空中分解2
★タイトル (RAD     )  92/12/17  23:19  (168)
天下無敵の!! お兄ちゃん(前)
★内容

「天下無敵の!! お兄ちゃん」
                        悠歩

 わたし山本夢来(やまもとゆめき)、10才、小学四年生。美人。本日極めて憂鬱。
理由は簡単、今日の五時間目は父兄参観。
 古今東西、この世に小学校が出来てから、父兄参観日が憂鬱な理由は一つ。自分の
身内を友達に見せたくないからと相場が決まっている。
 自分で言うのも何だけど、クラス、いえ全校でもわたしの人気は高い。そりゃあそ
うだ。美人でおしとやか、成績優秀、スポーツは……万能ではないけど、これで人気
の出ないはずがない。その上、わたしには両親がいない。自分では意識したことはな
いのだけれど、これがまた明るい性格の裏にある愁いとして、男子に受けているよう
だ。 こんなわたしのただ一人の肉親、お兄ちゃんが来る。
 ずーっと隠しておいた、父兄参観日のお知らせのプリントが、おととい見つかって
しまったのだ。迂闊だった。さっさと始末しておけば良かった。
 その日は珍しく、お兄ちゃんは六時過ぎにわたし達兄妹の住む六畳一間のアパート
に帰って来た。あ、お兄ちゃんは、なんとわたしより15も上の25才。死んだ父さ
んと母さん、何を考えてたんだか……。
 で、その時わたしはお風呂屋さんに行ってたの。その間、よせばいいのに(こんな
こと言ったらいけないんだけど)お兄ちゃん、部屋の掃除を始めたらしいの。自分も
お風呂に行くとか、食事にするとか、他にやることがあるのに。
 その時にわたしのランドセルをひっくりかえして、見つけちゃったのよね、プリン
トを。
 わたしは単に、お兄ちゃんを友達に見せたくないから隠してたんだけど、お兄ちゃ
んたら勘違いしちゃって。わたしが部屋に帰ってくるなり、涙なんか浮かべながら父
兄参観のプリントを出して、こう言ったわ。
「夢、お前、俺に気を使って黙っていたのか。馬鹿だなあ……。言ってくれれば、ど
んな事があったって、行ってやるのに」
 げっ! 冗談じゃない。
「だって……。お兄ちゃん、お仕事で忙しいんでしょ? お兄ちゃんが働いていてく
れるから、わたし、毎日学校で友達と楽しく勉強したり、遊んだり出来るんだし。こ
れに以上、わがままを言ったらバチがあたるわ。だから、ね、気にしないで」
 わたしは出来るかぎり可愛らしく言ったの。でもそれれがかえって逆効果だったみ
たい。
「そう言えば、お前が小学校に入って四年間、一度も父兄参観の事なんて言わなかっ
たな。俺も、そんなものがあるなんて気がつかなかった……」
 気がつけよ……。
「お前、ずっと辛いのを我慢していたんだな。でも、今年は心配いらないぞ。もうこ
れ以上、大事な夢に寂しい思いをさせるものか!! 行く! 俺は行くぞ!」
 こうなるともう何を言っても無駄。来る。お兄ちゃんは来る。たとえ世界が滅んで
も……。
 あっ、誤解しないで。わたし、お兄ちゃんが嫌いな訳じゃないの。ううん、その逆、
好きよ。大好き。
 でも、好きだからって言っても友達に見せられるってもんでもないのよね。
 はっきり言ってお兄ちゃんは三枚目。そうね、どう言えばいいかな。熊とゴリラの
あいのこ、ってかんじかしら。ね、これだけで友達に見せたくないって言う、わたし
の気持ちが分かるでしょ?
 身長は170センチ弱位かな、大人の男の人としては小さいわよね。それで体重は
75キロを越えている。それで子どもの頃から剣道や柔道をやっていたからか、顔は
つぶれ気味で(元からかもしれないわね)ひどいガニ股。で、体格だけは当然もの凄
くいい。
 わたし、よく考えるわ。わたしとお兄ちゃん、本当に兄妹なのかなって。だってそ
うでしょ? わたしはこんなに可愛らしい美少女なのに、お兄ちゃんと来たらまるで
モンスター。誰が見たって、わたし達が兄妹だなんて信じられないはずよ。
 だけど本当に兄妹なのよね。残念だけど……あ、今のなしね!
 わたし自身が戸籍を見て確認したんだから間違いない。
 それにしたって同じ両親から、こうまで違った顔立ちの子どもが生まれるものなの
かしら。遺伝子の奇跡、ってところね。
 わたしの友達でお兄ちゃんを知っているのは、優ちゃんだけ。優ちゃんとわたし達
兄妹は遠い親戚。それで優ちゃんは一人っ子ってこともあるんだろうけど、結構お兄
ちゃんになついている。でもって、わたしの悩みなんて分かる訳もない。

「ねえ、夢ちゃん。夢ちゃんってば」
 授業中、その優ちゃんが後ろから鉛筆のおしりで、わたしの背中をつついて来た。
「なに? 今、授業中よ」
 わたしは、先生に気付かれないようにそっと振り返って優ちゃんに言った。
「今日、純兄ちゃん来るんでしょ。楽しみね」
 げっ、なんでそれを。わたしゃ、まだ誰にも言ってないよ。い、いけない……言葉
がまるちゃんしてる………。
 わたしと共に、学校の三大美少女の一人にあげられている、ショートカットの良く
似合った優ちゃんが、屈託のない笑顔で私を見てる。
 純兄ちゃんって、わたしのお兄ちゃんのことね。純一、山本純一がお兄ちゃんの名
前。はーっ、名前だけは二枚目なのよねぇ。
「えーっ、夢ちゃんのお兄さん、来るのおー」
 あっちゃー、優ちゃんの言葉を聞いて周りの女子が騒ぎ出した。
 そりゃそうよね。三大美少女の一人の親戚で、一人の兄。お兄ちゃんを知らない子
だったら、誰だってカッコいい男の人を想像するわよね。
「はーい、そこ! 騒がしわよ」
 ほら! みんなが騒ぐから、百合香先生に叱られた。怖い顔でこっちを見てる。
 百合香先生って結構美人なんだけど、怒った顔がとっても怖いのよね。
「せんせー、今日、夢ちゃんのお兄さんが来るんだって〜」
 優ちゃんが呑気に言った。ほんとーーーーーに呑気なんだから、この子は……。先
生が怒ってんのを見ても分からないんだから。
 でも、百合香先生も人の子。優ちゃんの笑顔を見て、怒りの続く訳がない。半ば呆
れたように、「フーッ」と息を一つつくといつもの優しい百合香先生の顔になる。
「そう、そう言えば山本さんのおうちの方が、学校に来られるのは初めてじゃないか
しら? たしか、入学の手続きをされたのは、親戚の方だったわよね」
 そう、入学するまで私はお母さんの妹の、雪絵おばさんの家でお世話になってたの。
「先生も楽しみにしているわ。でも、今はまだ三時間目。授業参観は午後からでしょ。
みんな静かにしてね」
 百合香先生の言葉で、とりあえずみんなは落ち着いたけど……。
 やばい。とってもやばいよお。
 これでみんながお兄ちゃんの本当の姿を知ったら……。明日からのわたしの立場が
……。
「どうして、お兄ちゃんが来ること知ってるの?」
 わたしは百合香先生に見つからないように、教科書で顔を隠しながら後ろの優ちゃ
んに聞いてみた。
「だって、昨日、純兄ちゃんに会って聞いたんだも〜ん」
 だーあ、声が大きいってば!!
 しかしなるほど納得。優ちゃんちは、わたし達兄妹のアパートのすぐ近く。お兄ちゃ
んがお風呂か、買い物の途中に優ちゃんと会って参観日のことを話したとしても、なー
んも不思議はない。
 しかし、いくら親戚とは言え優ちゃんみたいな可愛い子が、お兄ちゃんになついて
るんだろ。わたしみたいに、おなじ親の子ども同志と言うことならあきらめ半分、っ
て事もあるだろうけど……。(う〜ん、わたしも結構、むちゃくちゃ言ってるかもし
んない)
 と、こんな呑気なこと考えてる場合じゃなかったのよね。ああ、どうしよう。あと
数時間後には、わたしが入学以来四年間守り続けてきた、イメージが崩されてしまう。
 神様!!

 こうして、わたしの不幸への始まりに向けて、時は確実に刻まれて行く。
 ああ、わたしって詩人。

 そして運命の五時間目がやって来た。教室の後ろには、もう何人かの子のお父さん
やお母さんが来ている。特にお母さん達は、みんなファッションショーのようにめか
し込んで来ている。それが似合う人も、似合わない人も。
 あ、優ちゃんのお母さんも来てる。あいかわらず溜め息が出るほどきれい。シック
な感じのパープル色の洋服がとても上品な感じ。
 こんなお母さんが来てくれるなら、わたしだってはりきっちゃうのに……。
 周りを見渡せば、クラスのみんなのやる気がむんむんしてる。百合香先生も何だか
いつもより仕草が上品。
 なーんか、わたし一人が蚊帳の外。
 いままで参観日はいつもそうだった。それでもこれまでは良かったの。わたしにお
父さんやお母さんがいないのは、仕方がないこと。誰に文句を言ったってしょうがな
い。今年は来てくれる人がいる。でもそれがお兄ちゃんじゃあ……。

−−タン タン タン タン タン!−−

 廊下を勢い良く駆ける音がした。
 まさかお兄ちゃん。わたしは背筋がぞっとした。 

−−ガラガラガラ−−
    
 ドアを開ける、凄い音。となりの教室みたい。
 わたしは胸をなで下ろす。寿命が縮まりそう。
 ところがしばらくして、足音の消えた教室から大きな声が聞こえてきた。
「ありゃあ、教室間違えた!!」
 あの、すっとんきょうな声。ひいいいっ! あれは紛れも無くお兄ちゃん。
 クラスメートのみんなは必死で笑いをこらえている。うしろのお父さんやお母さん
達も。
 そしてまた、廊下を走る音。それは確実にこの教室へ向かっている。もうだめだ…
…。わたしの人生は終わりだわ。
     
「ど、どうも遅くなりましたーあ! 山本夢来の兄、山本純一ただいま参りました。
いやあ、お恥ずかしい事ですが、わたくし考えてみると妹の学校の所在地も、クラス
も良く知りませんで……。探していたら、このような時間になってしまった訳でして、
はい」
 なに言ってのよ。そんなこといちいち言わなくてもいいでしょう。ほら、百合香先
生も困った顔をしているわ。
 どこで借りたのか、真新しいスーツに身を包んでいるけど、ちっとも似合って無い。
馬子にも衣装って言うけど、この人にはそれが全然当てはまらない。
「あの、山本さんのお兄様ですか?」
「はっ、これは夢来の先生ですか、いつも不出来な妹がお世話をお掛けしております」
 誰が不出来よ。
「あの、お兄様。ご挨拶は後程で結構ですから、後ろのほうで静かに授業を御覧になっ
ていて下さい」
 百合香先生は優しく言った。
 でも始めに牧野君がこらえ切れなくなって笑い出した。それにつられて、クラスの
みんなも。わたしは顔から火が出そう。
 お兄ちゃんのバカ。
「はーい、みんな静かに。授業中ですよ」
 先生に言われても、みんなの笑いはなかなかおさまらなかった。
 もうわたしは恥ずかしくて恥ずかしくて、その後の授業なんて全然身が入らなかっ
た。それなのにお兄ちゃんたら、
「頑張れ、夢来。お前ならこんな問題、簡単だろう。どうした、手を挙げろ」
 なんて声を掛けてくる。本人はそっと言ってるつもりらしいんだけど、お兄ちゃん
たら地声が大きいものだから、教室中に響き渡ってる………。





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