AWC 《新宿豚》(3)                   カラオ


        
#2528/3137 空中分解2
★タイトル (JHM     )  92/12/12   9:17  (154)
《新宿豚》(3)                   カラオ
★内容



 10機のモビルスーツは、バリュート・コンテナを装着し終えると、地球周回軌道上
から降下をはじめた。降下速度と方向を修正して後、コンテナから大きな風船が開く。
表面にセラミックのタイルを貼りつめた風船だ。直径が30メートルにもなる。丁度、
その風船にくるまって落ちて行く格好になる。大気圏に突入した際、空気抵抗にて減速
する為のものだ。液体窒素が方々の穴から噴射される。液体窒素は急速に気化しながら
風船の表面を冷却かつ減速する作用を持つ。成層圏で何度も飛び跳ねながら、ジェット
気流に乗って目的地まで飛んで行くのだ。”YOU−CAT”とマーキングの入った機
のパイロットが目的地を呟く。

  ”SINJUKU”

天に刃向かい、天にそびえる摩天楼の立ち並ぶ街。それが新宿。

 対地速度がある程度低下した処で、沢山のパラシュートがコンテナから開く。日本に
はAWACS(空中早期警戒機)は配備されていない。バッチ・システムはやすやすと
侵入を許した。バルーンに張り付けられたセラミック・タイルは、電波を吸収する性質
を持っている。純核融合戦術核を各モビルスーツは20発携行している。
 降下しながら、モビルスーツはレーザーリンクで互いに交信をしていた。

 ”YOU-CAT , No enemy is found.”
 ”Ok! , GOJI-CAT , A spoon is thrown. ”
 ”A spoon is thrown , all right・・・”

 たった10台のモビル・スーツ。Operation ”A spoon is thrown "(「匙は
れた」作戦)は、もう誰にも止められない。世界から匙を投げられた国。それは何処で
あろうか。それに、全く気づかぬまま、けだるい朝を迎えようとしている東京だった。

                  ★

 香川三男は夢を見た。いつも通る、あの路地を曲がる処で、女の占い師が呼ぶ。

 「ちょいと〜 そこのトラさ〜ん、手相見てあげるから ちょっとおいで」

めくばせしながら手招きする。生まれてこの方、トラさんなんて呼ばれた事ないのに。

 「手相かい? そこのハッっあん」

 「ハッっあんじゃないわよ、フォーチュン・テラーって呼んでよ!はははは」

二重の切れ長の目と大きな口でカラカラと笑った。寒くは無いのだろうか、薄手の黒
のワンピース一枚。斜に構え、三男の手をグイっと引き寄せて、シゲシゲと見た挙げ句

 「うふふっ 今夜は絶世の美女に会うわよ あんた・・・」

なめる様に見る視線に、ぞくっ、として顎を引く。

 「けど 振られちゃうんだな〜」

と言って、パッと手を離した。

 「なんで?」

ポカンとした顔つきでのぞき込んだ途端に、折り畳みの椅子と台を畳んでヒラリと身
を翻した。

 「残念ね。私、もう帰っちゃうんだ。だから見料はタダにしといてあ・げ・る」

あっけに取られて見ているだけ。すると、女は闇にめりこむ様に消えてしまった。

 「フォーチュン・テラー」

この夢は、ここ数カ月というもの何十回と見ている。くりかえし、くりかえし。年増女
の様でもあり、美少女の様でもある。ともあれ、もう一度、という心が、何度もその夢
を見させるのだろう。あの横丁の、あの馴染みの酒屋で「一番絞り」を買い、あの路地
の曲がり角。やもたてもたまらない。起きあがり、ヨロヨロと歩き出す。絶対安静患者
にスリッパは無い。点滴の管は引き抜かれ、右肘の内側から赤黒い血がポタポタと流れ
ておちる。枕元の台から財布と部屋の鍵を取り出すと浴衣の帯の処に乱暴に押し込み、
箱から引っ張り出したティッシュ・ペーパーの束を右肘に当てて押さえて歩きだした。
看護婦さんは他のコンパートメントで作業中で気づく風もない。

 エレベーターを降り、もう外来待合い室に溢れ帰っている御年寄りの間を縫っては、
ヨタヨタと出て行ってしまった。左手で肘を押さえたまんまで手を上げる。

 「ヘイ! タクシー!」

と言えば、すぐ乗せてくれるのがイエローキャブ。イエローキャブと言えば、エイズか
どうかは知らないが、乗せる方も乗せる方だ。細面の美丈夫な運転手は

 「どこまでやりましょ? 仙台だって、富良野までだってやりますぜ!」
 「いや、新宿で・・・」

三男は答えた。辻占いが出るのは夕方過ぎというのは常識だ。それも、夢に見ただけ、
という実在さえ怪しい話に、すっかりその気になっている。朝もラッシュの時間。車は
「ノロノロ」としか進まなくなった。

 「ここでいい」

万札を出して釣り銭を受取もせずに降りていった。財布は千円札一枚と小銭を少々残し
空っぽになった。ノロノロにイライラした運転手達は、側を通って行く香川を見ては、
ギョッと一瞬は驚くが、次の瞬間には再び前を見てはまたイラつくばかり。アル中だと
て、夜を乗り切れば、朝になれば酒が買える。自動販売機に小銭を放り込むと、NEW
スピリッツのポケット瓶が出てきた。千円札とポケット瓶を帯の処にねじ込むと、空に
なった財布は投げ捨てた。腕から血を流しているのはクラゲに噛まれた訳じゃない。
 いつの間にかビルの谷間に来た。寒い。さすがに浴衣だけでは寒い。早速に瓶の蓋を
開けて、グイッとあおる。低いビルとビルの間の狭い隙間に身を潜め、コンクリートの
壁にもたれる。かすかだが、イビキが聞こえた。ビルとビルの隙間の一等奥で、何かが
寝ている。トドが横になっているみたいだと、香川は思った。それは誰あろう「新宿」
さんであったが、香川は、そんな事を知る筈もない。一気に瓶ごとあおると、目を閉じ
、また、あの夢の続きを見て,メメクラゲの事を思う。ネジの回転の様に、いつまでも
、いつまでも。

                 ★

 薄曇りの天気の様にボンヤリと、会議が早く終わらないかとばかり考えている男達。
7階の窓から緑の公園が見えて、その向こうに新宿のノッポなビルが見える。雲の切れ
間に差し込む光に、「キラリ」と光るものがあった。そして、はじめに光あり。

 「ピカーッ」

窓側を向いていた連中は目がくらみ、そして、じきにヤケ焦げていった。次の瞬間には
パッと膜を張る様に広がる衝撃波が、ビルのガラスを割り、鉄骨をグニャリとネジ曲げ
全てを焼き付くして行った。あんなに立派な官庁も立っていたのに。3分後には平地と
化してしまった。

 純核融合とは言っても多弾頭で100キロトンの子弾頭が3つ。比較的広い範囲をば
均一に破壊してゆく。戦術核にしては大きいか、と設計者は思ったかもしれない。降下
の途中、巡航ミサイルを15発を発射。首都圏担当の機の場合、新宿、池袋、渋谷、上
、市川、松戸、千葉、幕張、所沢、大宮、川越、立川、厚木、横浜、川崎、町田。これ
らの都市を中心に3発の子弾頭がばらまかれた訳である。

 残り9機も同様に全国に散っている。まんべんなく。核爆発による電子雲形成により
電波による通信は麻痺状態にある。従って次なる行動は3日後に予定されている。狭い
コックピットで一人きりで時を過ごさねばならない。「カウチポテト」が可能な要員が
、この計画に為に選抜されたのである。彼らの生還は全く期待されていない。

                  ★

 香川さんが消えた。病棟は、再出血の恐れの強い患者が行方不明になっているという
事で、てんやわんやになった。思い当たる処は全て捜した。病棟婦長が村中外科部長に
内線で電話するが出ない、さっぱり出ない。

 「おかしいな〜、午前中のオペの執刀医は、村中部長なのに・・・」

田岡医長がぼやく。いつものセリフ。

 「おい、川やん、ちょっと見て来いや」
 「はい」

口答えは無用だ。さもなければ、拳のスカッド・ミサイルが飛んでくる。川本医員は、
エレベーターで5階へ。院長室やら各科の部長室が立ち並ぶ一角。ノックすれども返事
が無い。

 「失礼しま〜す」

あんまり入りたくない部屋だ。医学雑誌の山と、そして「CD−ROMジューク・ボックス
主要な雑誌のバックナンバーは、全てこの「CD−ROMジューク・ボックス」の中に収ま
いて、この場で見られるし、リプリントもここで取れる。学会前になると、ここで仕事
させられるのが苦痛だ。一番遅くまで仕事しているのが部長ときたもんだ。何より手術
が好きで、「診た・切った・**だ」とか「匙は投げられた」とか陰口を叩く者もいる
が、治療成績は優秀だと思う。





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