AWC 《あこがれのLADY》              カラオケ救


        
#2520/3137 空中分解2
★タイトル (JHM     )  92/12/12   8:51  (145)
《あこがれのLADY》              カラオケ救
★内容


 久保田利伸のアルバム「BONGA WANGA」が流れている。洗面所のそばの
電話にかじりついて話している男は坊家という。

 「 今度の一日、土曜日だから出ておいでよ 」

さっきから懸命に口説いている。ハッタリかませるにしても手持ちの材料がない。
彼女が会社を休んで東京に出て来るか、は運命に任せよう。

 「 仕事に戻るんだよお前 」

サラリーマンの自分がそう言う。もう「8月の光」もオシマイ。秋の風の息づかいが
部屋の奥のボックスまで流れこんでくる。熱っぽく、そして、寒い。深呼吸をすると、
頭の芯がスーッと闇へと引いて行く。

 「 含みも無い、将来性もない、お前の格付は C- が関の山だ 」

ビジネスマンの自分がそう言う。悪条件を乗り越えるだけのスーパーマンたれるか?

 「 どうも失礼いたしました。 」

 接待の多い生活。相手の話を聞き、良い処を一生懸命見つけては、褒めちぎる。
それが何であろうと褒めちぎる。営業に入って3年。性格が八方美人になってきた。
今日は、直属上司であり、営業の大先輩の柳瀬一角課長と御一緒しての接待。

 「 はい どうぞ 」

オシボリをもらって手を拭く。手洗いに立つ合間に電話。忙しい仕事の合間に彼女
をつなぎ止めておくのは並大抵の事ではない。商談は、いつひっくりかえされるか
わからない。そして、契約成立後にだって......。

 「実掃除部長は、このたび取締役におなりになったんだよ」

 「へぇ〜 凄いのね〜 今後とも一層の御贔屓にお願い致しますわ〜 」

           アッシー メッシー    ミツグクン
営業活動は根気が勝負。送迎・食事・酒色・貢物・等の接待が欠かせない。投資を
惜しんではいけない。足マメに、筆マメに、そしてマメにマメに。海千山千のママ
は黒服に耳打ちすると、新入りの子をヘルプにもう一人呼んだ。

 「 レイコ です よろしく 」

 「 今度入った子です 行き届かない事があったら きつく教えてやって下さい 」

 「 手取り 足取り ねっ 」

柳瀬課長はRESが早い。頭の回転は早い。坊家は、さっき電話をかけていた子に
そっくりなのに驚いている。実掃除さんの遊びは、さすが堂に入っている。

 「 ワニワニってした子とか 下半身デブの子って好きだな 」

 「 ひど〜い 」

 「 スマートな子は もっと好きだ 君みたいな 」

 実掃除取締役は、いつになく調子が良い。通常は接待する側の決めた店なんだが、
今日は、どういう風の吹き回しか、実掃除氏が強引に誘って連れてきた店がこの店。

 「 グリーン・キューカンバ 」

という名前。壁にトム・クランシーのサイン入りのペーパーバックなんかが飾って
ある。前に、実掃除のお父さんがディープスロート氏の情報につられてやってきた
銀座のクラブである。色々な面白いものを食わせるというので、楽しみな店である。
女の子もなかなかに可愛い。ママの他にはケイちゃんという子がついている。この
子もなかなかの美形だ。「玄関の呼び鈴遊び」は、ここの名物らしい。

 「 や〜だ〜 実さんたら〜 エッチ〜 」

 お奨め料理「キュウリの酒蒸し」が出てきた。湯気を立てているキュウリにトロ
みのついた白っぽいソースがかかっている。

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              < レシピ >

 良く洗い、砂摺り・面取りしたキュウリに縦に切れ目を入れ、鷹の爪(唐芥子)
を詰め込み、ラー油と七味唐芥子をたっぷり入れた焼酎+醤油の中に一晩漬けて
おく。それを、小量の漬汁と一緒に蒸す。鳥ガラで取ったスープに片栗粉を加え
トロみをつけ、塩で味を整え、好みでココナッツミルクを加えて、蒸し上がった
キュウリにかけて出来上り。
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 初めて食べた時は大変だった。一口噛む。唐芥子の辛味が、喉にまで一杯に広がる。

  「 はぁはぁ ひぃひぃ 」

  「 お穂穂穂穂穂穂穂 喉で味わうんですね〜 」

 ディープスロート氏は、頭の先にツーンと来て頭がポーッとなる段になって教え
てくれた。辛味は味覚ではなく、神経の連絡から言うと痛覚と同一の経路を通る。
マゾヒスティックな快感の虜となると、この店に通い、挙げ句の果てはタイへ遠征
という事になるらしい(もともとはタイ料理をアレンジしたものらしい)。

 「 レイコ ちゃん だったね これ おいしんだ 」

 「 へぇ〜 糠漬けなら 家でつけてるけど〜 」

 「 そんなん比較にならないくらいオイシイよ〜 」

 「 ママ ここの自慢料理だったね 」

 「 えぇ そうですよ レイコちゃん いただきなさい (^_^; 」

 「 じゃ いただきま〜す 」

 坊家の目はとっくに彼女に張り付いている。柳瀬課長の目も、若干下方に偏位を
示しながら張り付いている。実掃除さんはリアクションが起きるまでは死んだふり。
オチョボ口で可愛くかじるレイコ。ママもケイちゃんも決して手をつけない。10
秒余りが過ぎた。強く目を閉じ、涙を絞りだした。言葉になりそでならない。

 「 (そんなのってないわ。あんまりよ。ひどいわ!) 」

レイコちゃんは涙で顔中をぐちゃぐちゃにしてうめく。少年の様な男っぽさも少し
入り交じって、色っぽくさに皆言葉を失った。坊家はボケ〜っとして、デレっとし
て、ハンケチを取り出すと、甲斐甲斐しく涙を拭いてあげる。

 「 来週の土曜日・・・・ 」

 心の蓋を閉じ忘れた男は、口走った言葉に気づき、また、手洗いに立った。鏡を
見る。知らないうちに目にクマが現われては、目頭は涙に濡れている。秋がくる。

 「 風の中の雨のように 」

いつも変わる女心に、舞い散る落葉のように秋の風に吹かれて、いつしか濡れ落葉
になる男に過ぎない。俺の人生こんなもんか、とフト思えてきて呟いた。

 「 命 棒にふってやるぜ 」

午前様で、男と遊びまくっている女なんか、もっ、どでもいいかんね。顔を洗う。
短く切った髪は、毎晩泣きながら洗うもんだねっ。結局、彼女に対する

 ”ROA”: RETURN OF ASSET  (投資収益率)

は零であった。不良債権は切捨てである。うがいをして、口の中をすすいで、洗い
替えである。

 トイレから出てきたレイコとばったり目が合った。

 「 へへへ 」

 「 ふふっ 」

 「商売抜き」が始まる予感に、笑みがこぼれた。






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