AWC 《おやじOL VS 柳瀬一角》(2)


        
#2518/3137 空中分解2
★タイトル (JHM     )  92/12/12   8:45  (184)
《おやじOL VS 柳瀬一角》(2) 
★内容


 まんじりともしないで悩んでいたのは、当座だけ。勝田ルイにはある思いがあった。

 「 別にアイツだけが 危ないわけじゃない 」

 あさって保健所へ寄り、ツベルクリンと胸のレントゲンの検査を受ければ良い事に
なっている。店のみんな、そして会社のみんなも。私は「会社」でアツシの同僚である、                          ^^^^^^
という名目で検査を受ける。空調・エアコンの風に乗って結核菌がバラマカレ、同じ
部屋で結核の集団発生が起きる事も多いんだそうだ。「結核」の検査で一見落着。そ、
それだけなの。誰も、過去に通り過ぎた事など、検査する事なんぞ出来やしない。

              サダメ
 「 生きるも 死ぬも この運命 」

もし、感染してたとしたら..........私の事、振り向いてくれない冷たいあの人に、

 「 うつしてから 死にたい...... 」
 ヤケ                            ノタマワ
自棄になってうつしまくる方も、過去の前例には多いと聞く。孔子曰く

 「 人のまさに死せんとするや その言うや 善し 」
                           ノタマウ
とすると、それは「 あっ、死ぬ 死んじゃう〜 」なんて曰う事かしらん。そう
いう言葉で自らの運命を語る可能性を期待しつつ、出掛けにシャワーを浴びるんだ。
寝る前に御風呂に入れなかったから。髪を洗って乾かして、クシけずると

 「 ズルッ 」

と毛が抜けた。束になって抜けた。「ハゲと毛」というかどうかはしらないが、公の御
勤め、つまり「ハレ」に出かけるとはいえ、「ハゲ」になったらドウすんべ〜!!??
アイスクリームは良く食べるけど....何かの本に「シャンプーのし過ぎ」とか「誤っ
ダイエットによる栄養不良」が抜け毛の原因とか書いてあったなぁ。「オヤジ」は気取
ってたけど「ハゲオヤジ」になったら格好つかないな〜。ううう。そういえば、

 「 ハゲザンス〜 」

とかいってCMやってる「ハゲザンス・ネーチャン」というのは「女性向けカツラ」。
需要が多いって事はNe、それに悩む人、結構多いって事なんだよな。ということは、
私が「ハゲ」になるのも、それほど稀な事ではない。(^_^;。

 「 カッタルイ〜 行きます〜 」

思い悩んでも仕方無いから、背中のスラスト・バーナーを全開にして全速前進。いざ
となれば、カツラがあるんだから。*電改でも使うか?
 通勤の混雑の雑踏の邪魔っ気なオジサン達をビームガンで撃ち落としながら走る。
油断があった。若い男が、すれ違いざまに私の御尻をなぜていった。

 「 ヌルッ 」
 「 ぎゃ〜!! 被弾!! 」

振り返ると投げキッスを私に。フザケた野郎だよ、本当に。追っかけてく程に暇じゃ
ないから、今日のところは見逃してやる。フ〜〜、5分前に会社玄関を通過。着艦。
あいも変わらず、柳瀬部長は、スポーツ新聞に見ながら、タバコを吸うと思いきや、
難しい顔で、日本経済新聞なんぞを読んでいる。一体何が起きたのかな?人材派遣業
「陳腐スタッフ」の総務部長である柳瀬一角は「やな性格」。そして、

 「 フケ 一杯で シワだらけの背広 」

がトレードマークである中年男であったのに最近とみにオシャレになった(といって
某新聞の連載を読んだ訳じゃなさそうだ)。見ると結構見れる。不可思議なり。

 「 犯罪の陰に女あり 」

私、ピーンときちゃった。怪しいな〜。と思うと、私の処に寄ってきて、

 「 あ〜 このリストの内容全部まとめといてくれたまえよ 今日中に うん 」

合計3ページにぎっしり打たれた文献リスト。データベースで検索したものだ。*印の
ついたものが、重要そうに思われるもの。うちの会社じゃ「サーチャー:検索技能者」
も派遣している関係で、オンライン・データベースを利用した情報検索の仕事も回って
くる。でも、専門のセクションがある訳じゃないので、総務で皆やんなきゃいけない。
最初の検索で絞りこんでおいたものを見ながら、あれこれ考えて、検索の戦略を練る。

 「 テーマ いわゆる『虫歯菌ワクチン』について 」

「実用化されれば、虫歯は激減する画期的なシロモノ」とか走り書き。クライエントは
「マル秘」。ふ〜、難しそう。すると、私の返事も聞かずに柳瀬一角氏は、

 「 あ〜 出かけるからね 今日は戻らないから 宜しく 」

言葉をかける余裕もなく、柳瀬一角部長は部屋から消えた。アツシ君が入院したから、
この部屋の中は女性だけになった。山本さん、田中さん、鈴木さん、そして市川さん。

 「 あれっ? 今日 市川さん 御休みなの? 」
 「 えぇ 夏風邪ひいちゃったんですって 」

市川さんの隣の鈴木さんが答える。

 「 (なんとかは風邪ひかない。私は、この通り元気一杯だよ!) 」

そう呟くと、一心不乱に机に向かう(こういう事もチャンとあるの!)。

 柳瀬部長は、病院にアツシ君を見舞っていた。伊達先生に病状を聞く。
結核といえば「TB(テーベー)」と言って恐れられた頃を幼い心に知っている部長。

 「 うつっている心配はないんですか? 」
 「 いや何、新宿の西口あたり歩けば、結核の排菌してる人が一人くらい歩いて
   いたって何の不思議のありません。ちょっとクシャミしただけで、ブワーッ
   と菌はまき散らされますけど、健康人には抵抗力があるから、菌が体に侵入
   しても発症しないんですよ。彼の場合、ちょっと免疫.....   」

と言いかけて、免疫不全の原因について確証を得た今、伊達医師は言葉を濁し、

 「 ちょっと、体が弱っていたので、抵抗力が落ちてたんですね!
   会社終わってから、また、別の勤め、なんて無茶ですよ〜  」

へへへ、とつくり笑い。患者さんの予後・将来を考えると、決して笑えない。医師の
中で「引き裂かれた自我」が葛藤する。そして伊達医師自身、昼間の勤務が終わって
からの夜間当直を控えた身であった。ボロボロの自分を取り繕って、柳瀬部長を廊下
の端まで見送る。丁重に一礼して、柳瀬一角氏は病院を後にした。

 「 風に吹かれていたい 」

 夏の太陽が冷房で冷えた体に心地よい。生温い風が柳瀬を包む。地下鉄有楽町線
に乗って、護国寺で降りる。出口を上り路地を入ると、こじんまりとした洋食屋が
ある。店の奥まった処のテーブルで彼女は待っていた。

 「 待った?」
 「 ううん 」

紫色のワンピースの彼女は少し上気して初々しい薫りを漂わせている。柔らかな目
で、彼女を見る柳瀬は、テーブルの上に置いた彼女の手を握りしめて微笑んだ。

 「 今日は二人きり だね 」

 言葉の無い語らいに、ただ微笑むだけの2人(こんな顔、会社で見せた事無い!
とルイがいたら言うだろう)。少し早い昼食。チープ・シックなコースメニューを
食べ終わると、二人は誰はばかる事なく手をつないで歩いた。
 市川房子が入社したのは1年前。大手商社からの転職。35才になり、一般事務職
か総合職の選択を迫られたからという。何故に30を過ぎて今も独身であるか誰も
が一度は不思議がる事柄だった。ほんの一月前までは柳瀬も不思議がっていた一人
であった。20代後半といってもオカシクない。勝田ルイなぞは、自分と同い歳だと
思いこんでいて、変な競争意識を持っている。
 柳瀬一角は、誰不思議がる事なく、42才という良い歳こいて独身であった。地が
ひどいという訳でもないのだろうが、ずっと独身であった。仕事が出来ないという
訳じゃない。「陳腐スタッフが今日あるのは彼の手腕の賜」といっても過言で無い。
造作だって並以上だし、変な習癖があるという訳じゃない。ただ少々偏屈ではある。
 広い道に出ると柳瀬は手を高々と挙げタクシーを拾う。器用に道案内して目的地。
ホテルの部屋に入ると、二人は別々にシャワーを浴びた。TVのスイッチをひねる
と、お昼のワイドショウをやっている。髪を乾かした房子は、上体を起こしてTV
を見ている柳瀬の隣に陣取った。柳瀬は肩を抱いた。閉めたカーテンの隙間から、
強い日差しがもれてくる。かすかに蝉の声がして、空調の音のしじまに聞き入る。
 「 寝ましょ 」
房子が言う。TVを消し、舌をからめたディープ・キスのしばしの後、満腹感も手
伝ってか、背中とお腹をくっつけて二人は寝入ってしまった。


 目覚めると、時計は7時を回っていて窓の外は暗い。起きあがった柳瀬はガウン
を羽織って、部屋の電気をつけ、準備体操の様に手足を動かした。

 「 どうしたの? 」
 「 えっ? 」

との房子の声に振り返った柳瀬のガウンは前がはだけていて「直立不動尊」が鎮座
ましましていた。口を押さえて房子が笑う。

 「 きゃははははは 」
 「 コイツ〜 」

ガウンを投げ捨て房子の唇を奪った柳瀬が、ガックリと体を預けるまでに1時間を
要した。天井を眺めてしばし、房子を抱き抱えて風呂場へ連れて行くと、シャワー
で丹念に彼女の体を洗い始めた。水流を彼女の中心に当ててしばし、柳瀬は言った。

 「 おしっこしてごらん 」

女性の尿道は短い。局所を清潔にし尿で洗い流す( WASH OUT する)事により膀胱
炎などを防止する意味合いである。房子が恥ずかしそうに気張ると流れる水に少し
色がついた。妊娠を特に希望しない限り、事後の局所の洗浄は十分になされる必要
がある。

 「 おりこうさん 」

房子の額にキス。タオルで体を丹念に拭くと、ガウンを彼女に着せてやった。電話
でルームサービスを頼んだ。カウチポテトみたいにTVを見て、11時には寝た。
寝る前のキスと、そして、柳瀬一角は言った。

 「 結婚してくれるね 」

ただ、微笑むだけの房子。言葉は無かったけれど、返事を疑うものは誰も無かった。
寝タバコが癖だった筈の柳瀬であったが、いつの間にかタバコを吸う事も忘れてし
まったみたい。日曜が待ちきれなかった3度目の逢瀬であった。





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