#2486/3137 空中分解2
★タイトル (JHM ) 92/12/11 6:52 ( 44)
《酒乱泥酔》 カラオケ救
★内容
夕暮れの街路灯を見上げると、白い羽の蛾やらなにやらが、薄ぼんやりとした炎の
様に舞って、もたれたビルのコンクリートが冷たい。振り向くと一匹、二匹、じっと
羽を閉じてうずくまる虫が、流れる人の陰に明るくなり、暗くなり、そしてまた時を
まっている。
「響子さん・・・・」
風采の上がらぬ男がフイに私の名を呼ぶ。似合いもしないソフトスーツを着込んで。
「失礼ですが、どなた様でしょうか?」
本当に思い当たらぬ。編集の仕事をしているといろいろな方に合う。御合いした時
のイメージと違うと記憶にヒットしない。まして、夜目である。ビルの壁にもたれる
のをやめ、すっくと立つと男の顔を見上げややもするとにらみつけた。
「あの、私、小林馨といいます。ハンドルは、コレステ益博といいます・・」
オフライン・ミーティングの時の写真をデータ・ライブラリにアップなんかをする
からこんな事になるんだ。芸能人じゃないんだ。私は憤然とした顔になり、そして、
言った。
「別に誰かを待ってる訳じゃないです。失礼します」
ハイヒールが、いつしか小さな羽音を、「パタパタ」と立て駆け出していた。すり
減った革靴の音がそれに続く。私は思わず泣き顔になっていた。
「やだ〜、やめて〜」
人通りは不思議に途切れ、間近に感じる通行人はいない。裏道に入っていた。男は
私の両肘をつかむと前に回り、
「好きなんです」
8時を回ったとはいえ帝都の繁華街だ。大胆きわまる。暗くて顔もよくわからぬ。
私は何であんなところでボーッとしてたのだろう。ふりほどく隙も見せずに、男は、
私を抱きよせた。いい匂いがした。海の、海の匂い。
いつのまにか、3軒梯子をした。男は、貧乏そうななりに似合わず気前が良かった。
春紫苑の宵。海の香り。私はいつしか鮪になっていた。
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