#2475/3137 空中分解2
★タイトル (JHM ) 92/12/11 6:31 (126)
《疫学の話》 − 当たるも八卦? − カラオケ救
★内容
「疫学 : EPIDEMIOLOGY」
と聞いて、それが何かと判る方は少ないと思います。病気の原因を探る学問なのであり
ます。その考え方を学べば、日常起こる何かの原因を探る、といった場合に大変に力と
なりますし、また誤った判断をする、といった危険も防げるという、重要な学問分野で
あります。ここで仮に貴方が、自らの観察からの印象から
「 吟醸酒ばかり飲んでいると禿げる 」
という仮説を立てたとします。これは正しいかもわかりませんし、また、出鱈目かも
しれません。こういった場合、往々にして陥り易い落とし穴は、「偏り:BIAS」です
まず、吟醸酒を好んで飲んでいる方は男性に多いだろうと推測されます。また、年齢
層から言うと、アッシー君や貢君として女性に奴隷の奉仕をし、日夜イタメシ屋を徘徊
して「自称ワイン通」になっている若い層よりも若干は高年齢層に吟醸酒愛好家が多い
と考えられます。そうとすれば、当然ながら年齢が経る程に禿げの程度は進む訳でござ
いますから、
「 吟醸酒を好んで飲んでいる方に禿げている方が多い 」
と言う事は一応の説明がつきます。この例で示された如く、下記の様に一見、
「吟醸酒」 → 「禿げる」
という因果関係がありそうに見える場合も、本当は
「吟醸酒を好んで飲む」 「禿げる」
↓ ↑
「男性・高年齢」
というのが真相である可能性もある訳です。この場合の「男性・高年齢」の様な因子を
「 交絡因子 : CONFOUNDING FACTOR 」
と呼びます。こういった可能性を頭に置いておかないと、「吟醸酒が禿の原因」だなど
と、因果関係に関する判断を誤り、見当違いのものを本当の原因だと誤解してしまう事
になります。また、日常ほとんど酒を飲まないまたは酒にこだわらない方というのは、
酒量もそれほどゆかないでしょうし、「銘柄を指定して、拘泥を持って飲む」という方
は酒量も相当行くと考えられますから、
「吟醸酒を飲む」 「禿げる」
↓ ↑
「男性・高年齢」・「酒量が多い」
という図式かもしれません。この事は、未だ実証された訳ではありませんから、当初の
観察の如く、「吟醸酒を飲む」→「禿げる」、という仮説が正しい可能性も残されてい
ます。同じ様な年齢で同じ様な酒量で比較した場合に、禿げの程度に差がみられるか、
という点が問題になります。
そこで例えば、「禿げてしまった」方を「症例」といたしまして、「禿げていない」
方の中から「禿げてしまった」方と色々な属性をマッチさせた対の方をランダムに選び
、その2グループの間に、「吟醸酒」の飲用状況などに差がみられるか、といった調査
を行う事もあります。この様な手法を「症例対照研究:CASE-CONTROL STUDY」と言い
す。この様な「分析疫学」的研究の結果により、かなり原因と結果についての関連性が
推測できる訳ですが、これは一時点での「断面的調査」でありますので、先ほど述べま
した「交絡因子」の他に、「因果関係の逆転」という落とし穴に注意を払う必要があり
ます。また、過去の事柄について聞く事もできるでしょうが、かなりの「偏り」に覚悟
が必要です。例えば、「海草を食べる量」について聞きますと、「禿げている」方の方
が気をつけて食している事も往々にしてあるわけでありまして、それを鵜呑みにすると
「海草を食べると、禿げてくる」
なんて、とんでもない結果が出てくるかもしれません。ここで言う「因果関係の逆転」
とは、この場合で言いますと、
「禿げる様な体質だからこそ、吟醸酒を好んで飲む性向がある」
という可能性も無い訳では無いという事を指しているのであります。言い替えれば、
「禿げる運命を持つ方は吟醸酒を好んで飲む性向の確率が高い」という可能性もあると
いう事であります。また、
「禿げてしまったから吟醸酒を飲んでいる」
という可能性も無い訳ではありません。これを確かめるには「断面的調査」では不可能
であります。
「断面調査」の限界をしめす良い例として良く挙げられる例に「電信柱と心筋梗塞」
というものがあります。昔、とある偉い先生が、世界各国の「電信柱の数」と「心筋
梗塞による死亡率」を、それぞれ縦軸と横軸にして、グラフにプロットしてみました。
すると、綺麗に一直線上に乗ってしまったのです。もしかして、道端の「電信柱」から
「電波」が出て、心臓に悪い影響を与えているのでしょうか?しかし、実際には、当時
「電信柱」の多い西欧先進諸国での脂肪の多い食生活が真相であった訳であります。
「観察の偏り」と「因果関係の逆転」という二つの落とし穴については「断面調査」
は無力であります。いくら、食事をそっくりそのまま冷凍して運んでもらい、計測して
みたところで、「断面調査」に過ぎないものはそこまでです。
こうした限界を越える為には、「追跡調査」を行なう必要があります。そして更に、
「介入試験」と言って、「吟醸酒」を飲ませ続けた場合にどうなるか、飲ませない場合
にはどうなるのか、という研究を行って初めて「因果関係」の確定が行われるのであり
ます(この目的の為の介入試験を毎月某所で行っている?との話があります)。
厳重な疫学的なアプローチが遵守される風土がありませんと、とんでもない暴論が、
時として巷を走ります。例えば、
「米国で麻薬が流行るのは、禁煙をうるさく言ったからだ」
なんていうものです。日本と米国を比較して、日本では喫煙率が高いけれど麻薬は米国
に比較すると非常に低い事から言われる事もあります。しかし、これは「断面調査」に
過ぎません。また「交絡因子」、ここでは「米国と日本の国情の違い」という、大変に
大きな両者に介在する因子を無視した暴論であります。
ここで「喫煙」と「子宮癌」との相関について触れてみたいと思います。別にタバコ
の煙が子宮の入口をくすぐる訳ではございません。実証された処によりますと「喫煙」
と「性的パートナーの数」との間に非常に有為な関係がございます。子宮に対する刺激
が、「低い初交年齢」、「低い結婚年齢」、「多数の性的パートナー」、といった因子
と深い関連を持つ事は想像に難くありません(最近、ウィルス感染の重要性がいわれて
おります)。そういった諸因子との「喫煙」との関連が(すなわち、乱脈な性関係の方
の喫煙率は高い)、「子宮癌」との相関を引き起こしているのだ、と考えられます。先
に述べました「交絡因子」そのものなのであります。
刺激を求める気持ちは、軽い処から少しづつエスカレートしてゆくものであります。
昨今、特に女性の喫煙率の増大が問題視されております。そして、その風潮は性的行動
にも大層反映されている様にみられるのであります。かと言って、六本木や米軍基地の
周辺で「禁煙キャンペーン」を張っているなど聞いた事がございません。「禁煙禁煙」
といったからと言って、決して麻薬が氾濫する訳ではございません。ますます複雑と化
してゆく社会に、その根元を求める必要があるようです。
あまりうまくは説明出来なかったのでありますが、この世の中、「疫学」的な考え方
を身につけずにおりますと、判断を誤ってしまう事が往々にしてあると考えましたので
この拙文をばしたためました。そうなんです。当たるも八卦じゃないんです。くれぐれ
も御間違えの無き様に・・・・・・・・・・。