#2452/3137 空中分解2
★タイトル (RMC ) 92/12/ 9 10:52 (147)
幻のストラトキャスター 04〈トラウト〉
★内容
−−ウォフ!
「鳥見です、カメラ持ってきましたあ」
−−うっ鳥見のオッサン
「どうせうるさいとか噂してたんでしょ先生」
鳥見はななめ向いにあるクラブ叶の常連で、新橋駅前でマニアむけの中古カメラ
店をやっている親父だ。先月だったか銀座ナインの中に小さな骨董品屋まで開いた
ようで、手広くはやっているが、ほとんどカミサンとムスコが店に出て親父は遊び
人。いつもへんてこな骨董品を、話しの種ですと抱え、近隣に出没しては、それを
結局売りつけにかかるというオッサンである。
「先生、叶のママが最近つれないのヨって泣いてましたよ、ウォホオホオ」
「おい、あれは元歌手の教え子だ、笑子が本気に……」
「先生、別に今は独身なんですから本当でもいいんですよ」
「おおっ、笑子ちゃんが気にした。あらあ−−これはこっちの方も何か……」
オッサンが笑子の匂いをかぎまわる
「う〜んこれは香水ではなく石鹸の匂いか、するってえと?」
笑子が逃げる
「そんな事ばっかりして!奥さんにいいつけますよっ」
「妻か、惜しいやつを亡くした」
「あらら今度は殺しちゃうんですかぁ」
「まあいじゃないですか、はいこれ。
先生のライカは普通のカメラと違うんですから、フィルムを挿填する時に7〜8
センチ端っこをナナメに切って、このパトローネの溝にいれ、すぐ蓋をしないで
こうして騙しだまし巻上げて下さいよ」
「ああ、そうしたつもりなんだけどな、10枚程でひっかかって動かなくなった」
「やっぱり最初の巻方のせいだと思いますよ。しかしライカのレンズ、特に先生の
ズマリットの50mm、これは大人気ですが好き嫌いが激しくてね、まクセモノ
ぶりが面白しろいっていえば面白いレンズですけどねえ、今度は先生どうですか
沈胴式のエルマー、なかなか渋いんですよこれが」
「ほ〜ら来た来た、まだまだ使いきれないな俺には。
こいつはボディが小さいんで、毎日必ず持ってあるいては駄作の撮りまくりって
感じか−−。ちょっとしたコメントを付けた写真集を出してみたいんだが、まだ
気に入ったのは一枚も撮れない」
「いいですねいいですねえ、先生だったらそりゃ素晴らしいに決ってます。ところ
で先日ひっかっかってたフィルムですけど、セーフでしたので一応現像しときま
した」
「ああ、有難う」
−−彼はそのモノクロの写真を一枚ずつ見始めた。
毎日持っているといっても、持っている事さえ忘れている事が多い。それも広い彼
の交際範囲からすると被写体もまちまち、うっかりするといつ撮ったのかも忘れて
いる写真さえある。
「あっ叶の順子さん!」
「ほらっこれですよ動かぬ証拠、ねっ笑子ちゃん」
「はは、これ見ろタカさんのランチタイムだ」
−−マクドナルドの裏口
スーツを来た紳士がごみ箱から堂々とハンバーガーを失敬している。
「これも1分前までは500円、それに包装紙つきで清潔という事だ。
ファーストフードの店にはすべて廃棄処分の時間が定められている。彼はそれを
把握し、ローテーションを作る。そして銀座にいるすべてのホームレスに公平な
場所割りをしている、つまり元締めだ」
「へえ、たいしたもんですねぇ」
「俺も頂戴した事がある」
「先生っ!?」
「それに銀座のクラブでどれだけビールが余ると思う?。あれはコップについで飲
むから飲み口も清潔だろ、若干時間が遅くなるのを我慢すれば、銀座には常に完
璧な晩酌が用意されているという訳だ。
近頃はホームレスといえどもいままでの浮浪者のそれとは随分違う。おまけにタ
カさんにはショバの利ざやがあり、地下道で詩も売っている。それで朝晩銭湯に
行き、歯をみがき、洗濯をし、ドライヤーを髪にあてる、そしてスーツを纏う」
「はーっ、三日やったら−−とはよく言いますが、それ以上ですねえ」
「地下道で売ってるその詩も、言いたくはないがかなりの歯ごたえがある。笑子、
お前も真似をしてみたらいい」
「いいんですっ私は」
「だからな、お前の詞は、お気に入りのカフェテリアで彼を待ってたら雨が降って
きて、傘を買いにいったら彼とすれ違ってしまった……そんなのばっかりなんだ
「そんなの書いた事ありませんよだ」
「へへ、あの人は俺の先生だった事もあるんだ」
「えっ!!」
「羽鷹一徹。名前の通り一徹で歯ごたえのある詞は書いたが、不器用な作詞家でな
俺がミュージシャンをやめて作詞家を目指していた頃、あの人の家に半年程かな
居候ってやつをしていた事がある。だがある日いきなり家族もなにも捨てて蒸発
してな、家族はもとより俺も路頭に迷った。しかし、一応はあの人らしい生き方
が好きで俺は門を叩いた訳だし、おかげでというか、それがバネになったんだか
数年先には一応名前も知られるようになった」
「へっえぇ、はだか一徹?」
「ペンネームだよ、俺のペンネームもあの人がつけた。
本名は清野虎人。親父が渓流釣りが好きだったせいでな、へんなあて字なんだが
マスのTROUTをもじって虎人とつけた、当初俺はその本名でやってたんだが、
あの人がゴロ合わせなのか、華がないという事なのか“銀色虎人”に変えた」
「はあぁ、そうなんですか」
「……で、数年後、銀座の地下道でバッタリだ」
「それじゃ先生の先生−−」
「まったくな、それも地下道に棲んでりゃもぐらの先生だ。
なんでもあれからインドに渡って、なんていったかな……ジョージハリスンに教
えた事があるとかいう霊能者−−いや瞑想者?なんだかわからないけど、その人
物に瞑想を伝授され帰国したとか言ってたよ」
「ふふ、私通いつめて教わっちゃおうかしら」
「全部お見通しで煙に卷かれるだろうな。さっきも俺の事をアウトローには成りき
れぬバンガローだと抜かしやがった」
「バンガロー?う〜ん、私にはわかりませんが、詩人は銀座でハンバーガーを失敬
しながらも孤高というか……」
「おだてすぎかな、ホントはすれすれでバカかも知れない」
「いやいや、なんなんだかわからなくなって来た」
「要するにそういう事だ、俺にもなんなんだかわからないさ。
タカさんのカミさんと子供も引越しをしてその後消息不明、知らせたいとも思う
んだが、それもお節介かもしれないしな」