AWC 「モニタする少年」(再UP)巻の08<コウ


        
#2421/3137 空中分解2
★タイトル (HBJ     )  92/12/ 1   7:20  ( 97)
「モニタする少年」(再UP)巻の08<コウ
★内容
 おばあちゃんは、本当に、あっちこっち切り刻まれた感じだった。もう、口
では、息が出来なかった。喉を切開して、プラスチックの管が植え込んであっ
た。鼻から細いビニールホースが入っていた。食事の時間になると、そこから
、味噌汁やジュースを、注射器で入れた。布団の下の方からも、細いビニール
ホースが出てる。それは、ベットに吊されたビニール袋につながっていた。ビ
ニール袋の中には尿が溜っている。点滴は、常に2本で、一本は茶色の大きな
瓶で、これはブドウ糖らしかった。もう一本の、小さい、透きとうった瓶には
、緑の十字が印刷してあった。俺は、初め、「どうして、こんなにまでして、
おばあちゃんを生かしておくのだろう?」と思った。しかし、緑の十字を見て
いて、解った様な気がした。おばあちゃんは、医者や薬屋の為に、生きている
のだ。
 俺は、おばあちゃんが、何時死んでもよかった。でも、今夜でなくて、いい
。昨日か明日か、当番が別の親戚の晩に死ねばいい。

 夜中、お袋は、折りたたみ式のベットに寝て、俺は、ソファーに寝ていた。
スタンドの明りが、ぼんやりと、おばあちゃんを照らし出していた。ルーベン
スの絵画みたいだった。お袋の、かすかな寝息が聞こえる。加湿機が静かな音
を立てている。誰かが持って来たパイナップルが、熟れて甘い匂いを発してい
る。俺の、残りの一生、パイナップルの匂いを嗅ぐ度に、おばあちゃんの事を
思い出すに違いない。
 俺は眠りそうになった。まどろむと、点滴の滴が落ちる音が聞こえた気がし
た。しかし、それは、廊下を歩く看護婦のヒールの音だった。入って来た看護
婦は、懐中電灯で俺を照らし、俺は目を覚ます。看護婦が出て行くと、ヒール
の音が、廊下に、冷たく、こだました。プルーストの『失われた時を求めて』
の、初めの部分を思い出した。しかし、看護婦は、一時間おきに来るので、俺
は眠る事を諦めた。

 ウォークマンか液晶テレビを持って来ればよかったな、と、俺は、思った。
テーブルの上に、誰かが忘れていった、カード式ラジオを発見した。試しに聴
いてみる。J−WAVEが入った。
−−−ハーイ、エブリボディー。ダンス&ソウルミュージック・フリークに送
る、J−WAVE・バック・トゥー・ソウルトレイン。懐かしいあのナンバー
を、ラジオの前のあなたに、今すぐ、デリィバリィー。さて、続いてのオーダ
ーは、フラッシュダンスのサウンドトラックから、マニアック・バイ・マイケ
ル・センベーロ。新宿区は、コウジ・バックトゥー0さんからのリクエスト。
いとしい、カヨちゃんへ、との、メッセージを添えて。お送りするのは、オフ
コース、ナンバーワンFMステーション、エイティーワン・ポイント・スリー
、J−WAVE。

 夜中の二時頃、お袋は、完全に寝入っていた。俺は、病室を抜け出し、病院
を抜け出し、真夜中の大塚の通りを、ぶらついた。「空車」の赤いランプをつ
けたタクシーが、ジェット機程のスピードで、疾走している。
(コメント:今だったら↑こんな言い方は絶対にしないのになあ)
 タバコを売っている、コンビニエンス・ストアを見つけて、タバコと百円ラ
イターとライト・コーラを買った。店の外で、コーラを飲みながら、ちょっと
、一服。一口すっただけで、ニコチンが体中の血管を収縮して、めまいがする
。俺は、しばらくの間、タバコに酔っていた。それから、グリーン電話で、伝
言ダイヤルに電話をした。
8301#
−−−NTT東京ダイヤルセンターです。ピッという音の後に連絡番号と#を
   押して下さい。
0129・0129・#
−−−登録している暗証番号と#を押して下さい。
0129・#
−−−伝言されるか、お聞きになるかをご指定下さい。新たに伝言される時は
   、数字の3と#を、また伝言をお聞きになる時は、数字の7と#を押し
   て下さい。
7・#
−−−新しい伝言からお伝えします。お聞きになっている途中で数字の9と#
   を押すと次の伝言に移り、数字の8と#を押すと伝言を繰り返します。
9#
−−−1時10分のマーガリンからのメッセージ! 僕も、思い出大好き人間
なんだよね。だって、思い出の中の僕は、便秘だったり、汗を掻いたりしない
からさァ。セックスしている時に、オナラをしたかったり、しないから。「ヘ
ッ・ヘッ・ヘッ、あんた、綺麗な顔をしているけれど、臭いオナラするんだろ
うねェ」「ヘッ・ヘッ・ヘッ、あんた、可愛い顔をして、太いウンコするんだ
ろうねェ」うぅ・・・すごい事を、言ってしまった。とにかく、思い出は、最
高ですよ。傷つかないし、傷つけないからね。
−−−次の伝言をお伝えします。
−−−1時を、ちょっと回った板さん、だ。過去、って、俺は、好きだねー。
大抵、今より、思い出の方が、好きだよ。俺は、今の俺より、昔の俺を愛して
いる感じだぜ。多分、思い出の中の俺は、不快を感じないからかな?
−−−次の伝言をお伝えします。
−−−時刻は12時52分のトモロです。コウジさんは、17にして、過去に
、生きるのですか? でも、この曲、懐かしかった。あの頃の事、色々、思い
出しました。もし、今夜、この曲を聴いていなかったら、あの頃の事は、一生
、忘れたままだったかも・・・。そうしたら、あの頃、生きていなかったのと
、同じですね。
−−−次の伝言をお伝えします。
−−−12時40分のコウジ・バックトゥー0です。『フラッシュ・ダンス』
のサントラは、レコードもCDも持っていまーす。じゃあ、何でリクエストし
たかって? だって、一人で聴いてもつまらないし・・・。みんなで聴きたい
、って、感じなんです。みんなで聴きながら、でも、一人でいたい。僕、あの
曲、好きなんです。あの頃の方が元気だった感じ。僕、あの頃の方が気持ちよ
かったなァー。
−−−次の伝言をお伝えします。
−−−12時と36分は、家主のカヨです。いやー、びっくりしましたねー。
今、J−WAVEを聴いてら、なんと、コウジさんのリクエストがかかってい
ましたねー。カヨは、このCD、持っていますよ。今度、コウジさんに、貸し
てあげようかな。
−−−ご利用いただき、有難うございました。

 朝方、俺は、自分の部屋に帰ってから、鏡を見ながら、泣いた。30分ぐら
い、泣いた。つまり、俺は、縫いぐるみを脱いで、おばあちゃんの置かれてい
る状況を、今更、感じている訳なのだが。
「何で、何が悪くって、おばあちゃんが、あんな目に会わなきゃならないの?
」




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