AWC いまはいつか ちな


        
#2397/3137 空中分解2
★タイトル (KKM     )  92/11/24   0:49  ( 52)
いまはいつか                  ちな
★内容
 いまが、私の人生のどんな位置を占めているのか、渦中ではわかるすべもなく、
だだ、ひたすらに、何も考えまいとしているだけのこと。
 この、六畳のアパートの部屋だけが、とりあえずは落ち着ける場所といえよう。
悲しいことに、大学でも、実家でも、私は息をすることが出来ないのだから。
 時は、ねっとりと過ぎていく。私を不安にさせるには実にぴったりの速度で。
 梅雨の季節。じめじめ、しとしと。この六畳のお城のなかで、だんだんと体が腐って
いくような気さえし始めて、動けば、ぼろっと肉片が崩れ落ちてきそうで、私は
ベッドの上から動くことも出来ない。
 あれから体重は6s落ちた。そもそもが痩せていた訳ではないので、見られないほど
ガリガリではなくとも、頬はこけ、めがどよんでいて、鏡向かう私の顔に、吐き気さえ
感じることがある。
 神経質なのだと思う。いささか。
 情緒不安定なのだろう。精神安定剤がなくなった今。気力のもとさえなくした今。
 私は、本を読み続ける。
 まるでそれだけが救いであるかのように。何をするときさえ、常に目は活字を追う。
頭の中を活字で充たすことにより、現実から少しでも逃避しようとして。
 文庫本の手への馴染みを感じながら、ページを繰り進んでいく、淋しさを
感じながら。
 残りのページの間なら私は現実という、得体の知れない時間を忘れることが出来る。
この時間が、たしかに無駄であることも理解しているのだ、頭では。
 読書と銘打った現実逃避の時間は、窓の外が完全に明るくなり、アパート中が
ざわざわし始める時間までつづく。
 その頃ようやく私は電気を点けなくていい明るさのもとで、少しだけ落ち着いて
眠りこけることが出来るのだ。午後の六時まで。
 私の不思議な時間が過ぎていく。
 大学の単位が危ないと、友人が電話をくれても、頭では分かっていても、目が
醒めると日は暮れているのだ、仕方がない。
 食事さえまともにとらず、六畳のその中の一畳ちょっとのベッドのうえだけが、
私を落ち着かせてくれるのだ。
  繭の中にいるようなものだ、何も考えたくない。
 なにも、考えなくていい。ただ、その一言を誰かが私に言ってくれたのならば、
その時から私は色々なことを考えだせる気がする。
 私は大学三年になった。就職とかいうことばが、少しずつ聞こえはじめ、やがて
大きくなっていった。大学は私にとって楽しいところではなかった。平凡な講義は
私を失望させるだけだった。もとよりなんの目的もなく入ったこの大学なのだから、
私にはただの日常でしかありえなかった。
 彼と別れてから一年がたってしまった。私はずぶぬれの体をようやく乾かしつつ
あった。問題なのは、乾かすのがあまり上手ではなかったことだ、むらができている。
あちこちに。
 私は無理をして笑うことを覚えた。笑いは私の顔に張りついて、私を呼吸困難に
させていた。でも、笑わねばならない。それだけが私が大学に通うことのできる精神を
もたせる唯一の方法だから。
 大学は東京にある。友達はみんなひどくよい人間だった。驚いてしまうほど。私が
思わず気後れしてしまうほど。とくに彼女はやさしかった。私のことをなんとかして
くれたのは彼女だった。私が大学に復帰できたのも彼女のおかげにほかならない。
感謝している。
 でも、私には彼女のようにはなれない。彼女はあまりにも透明な心を生まれもって
持ち合わせているのだ、私と違って。
 私は巨大なコンプレックスを彼女に抱く。それはもう仕方のないことなのだ。

ちな KKM22574





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