#2380/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF ) 92/11/20 2:45 (112)
「月面」(10) 久作
★内容
「よお 久しぶりっ どおやっ 夏休みは楽しんだか」
「あ ああ いや 別に どおってことないよ
ゴロ寝してただけや」
Mは夏休みを利用して里帰りしてきた
なぜか東京土産をブラ下げて 俺の部屋に遊びに来た
「あれ 宇和島に帰ったんやなかったんか」
「おお 帰ったけど 東京にも行ってきたんや
ほれと仙台にもな
宇和島土産なんざ 珍しゅうもなかろ ほやけん これや」
Mが乱暴に破った包みからは
どの観光地でも売っていそうな 饅頭が出てきた
「この饅頭が珍し言うんか」
「なんたって東京の饅頭ぞ 宇和島の饅頭とは違わい」
「ふうん 茶 いれよわい」
箱に入っていた 饅頭の由来のリーフレットを読みながら
Mは叫んだ
「よい 面白い事が解ったで」
「なんや そんな面白い饅頭なんか」
台所で やかんを掛けながら答えた
「饅頭やないわい
ワシとお前 実は親戚やったんや」
「え お前と俺が なんで?」
「なんでって そりゃ御先祖さんに聞かんと解らんけど
とにかく親戚なんよ」
「ふうん ま 別にエエけど
親戚やないとしても 15年もの腐れ縁や
迷惑も もお 慣れた」
「そこまで 言うかぁ 普通
ほやけどな これは 驚くで」
「何に 実は腹違いの兄弟やって言うんやなかろな
ウチには遺産なんか ないで」Mに会えた嬉しさに軽口が次々出てくる
「お前 ちょっと見ん間に 口が達者になったんやない
ま ええわ あのな ワシ
お前の ご先祖さんの事 調べまわっとたんよ
ほしたら すごい事がわかったんよ」
「もったいぶるなや」
「ええか 驚くな こおいう事よ」
Mの話したのは
かいつまんで言えば以下のようなことだった
俺の先祖・薬師神惟義は1915年、宇和島中学を卒業し第二高等学校を経て
東北帝国大学の文科に進んだ
その後 第一高等学校の英語教師となる
1932年に養女をもらうが 養女が私生児を出産する
惟義の日記によると
養女と関係があったらしいので父親かもしれない
愛人を 人目を憚り 養女としたのかもしれない
養女を貰う直前に 弟の惟顕が商社ビル屋上で首を絞められ殺害されている
惟顕の曾曾孫が俺 惟義になる
一方 惟顕の兄・惟義と養女の孫(らしい)
則ち恵子の母親の由紀が前田研二、と結婚する
前田研二は恵子の父親 家庭訪問で会った白髪の端正な紳士だ
Mの調査では恵子と俺は遠い親戚になっている
「確かなんか ほの話」
「おお 間違いない
寺の過去帳とか当たって確認した
あ ちなみに ワシが親戚いうたんは ワシの先祖が
お前の先祖の惟顕の姉と
結婚しとったんよ」
Mは御機嫌でニコニコした
Mは俺の姉の由美に惚れている
Mは一番の親友だから 異存はない
でも なんだか寂しい気持ちになった
弟が言うのも変だが
姉は 確かに美人ではないが 優しい女だ
姉もMを 大変に気に入っている
幼い頃は 俺の弟を加えて4人で よく遊んだ
Mは姉や弟を庇い よく喧嘩をした
俺は 横から眺めるだけだった
まるで 弟と姉の兄弟はMで 俺だけ他人のようだった
俺には反発する弟も Mの言葉なら素直に聞く
弟は姉に Mといつ結婚するのかと せっつく
姉は マンザラでもなさそうな顔で お茶を濁す
両親も 気心の知れたMなら安心だと思っている
俺より6つ歳下の弟は
Mさんなら オニイサンって呼んでもいい
と 俺を横目に見ながら言う
弟は物心ついてから 俺のことを 惟義と呼び捨てにしていた
俺が恵子に出会う以前
恋人らしい 恋人がいなかったのも Mのセイだ
Mといれば 楽しかった
他の誰と一緒にいるより 安心したし 幸せだった
恵子と知り合った今でも そうだ
恵子には魅かれるが 恵子は俺を不安にさせる
恵子を失うのが怖いんじゃない
恵子その人が 恐ろしい
恐ろしさの余り・・・・・ 武者振り付き・・・・・・・・
行為の後は いつも 後悔と恐怖に苛まれる
恵子は 俺の教え子だ
また そのこととは別に
関係を続けるうちに いつの間にか 恵子のなかに 包み込まれ
俺自身が 存在しなくなってしまう そんな恐怖を感じる
でも 別れられない 別れたくないんじゃない 別れたい
でも別れられない
「よい よいっ
すまん ほんなに ショックやったか
大丈夫か」Mが心配そうな表情で覗き込んでいる
「あ いや なんでもない
ちょっと考え事しとっただけよ
ほおか 恵子は遠い親戚やったんか
ほお言や なんか 他人とは思えんかったのぉ
はは ははははは・・・」
笑いは自分でも シラジラしいと思うほど 乾いていた
(続く)