#2349/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF ) 92/11/ 9 1: 4 ( 82)
お題>「月面」 久作
★内容
バッサリと 斬って落とした 7.5
真っ赤な半月が山の頂きに傾いている
腕の中には 街で拾った 子猫が
背中を丸め まどろんでいる
莨をくわえ 火を点ける
オイルの燃える湿った臭い
オレンジ色の暖かい光が ボオウッと円を描く
深く吸い込む
胸の内側を煙が ザラザラと愛撫する
子猫の肩がビクッと動いた
目を覚ましたようだ
アタシにもちょうだい
吸えるのか こいつは ちょっと キツイぜ
手渡そうとすると
点けてよ
吸っていたのを左手に取り 新しい莨に火を点ける
子猫は 上目遣いに 1回 舌舐めずりした
19くらいだろうか 釣り加減の大きな目は
あれだけ 泣きじゃくった後なのに
もう スッキリしている
現金なもんだ 余韻も何もありゃしない
子猫はちょっとムセたが 平気な顔で
唇をすぼめ 煙を吐き出している
胸までは入れていないようだ 煙が濃い
ねえ オジサン
なんや
出した声が 自分にも甘ったるく聞こえ 気恥ずかしくなる
お月さまに兎がいるって 信じる
手管か本気なのか解らない いたずらっぽい表情だった
昔はいたらしいけど 人間が月に行って追っ払ったんだ
だから 今は いない
適当に答えた
あたし 今でも いると思う
いつしか月は蒼ざめ 子猫の白い顔を 冷たく輝かせている
ルナティックという言葉が頭に浮かぶ
どうして
あたし 逢ったもの
どこで
お月さまで
行ったことあるのかい
住んでたもん
ふうん その兎 帽子を被って 懐中時計を気にしてなかったかい
え なぜ
いや 別に
その兎 くぼみに小さくなってたの
白くてポワポワの毛を震わせて
あたし なんだか 可哀相で 抱きしめちゃった
あったかくて 柔らかくて ピクピクしてた
お餅はついてなかったのかい
ついてるわけないじゃーん 兎なのよ
ああ そうだったね
変な気分だった
理性は否定しても 子猫の話しぶりは どうみたって 嘘じゃない
で その兎 何に怯えてたんだい
解らない でも近くに宇宙船の跡があったから
人間に見つからないようにしてたんじゃない
子猫の「人間」の発音が気になった
まるで他人のように言う
あらぬ妄想が湧く
かぐや姫
頭を振って打ち消そうとする
腹減ったな ラーメンでも食うかい
会話を切ることにした
さんせー もち オジサンのおごりね
お安いことさ
ラーメンを食べて子猫と別れた
翌日 子猫が渡したメモの電話番号を押す
おかけになった 電話番号は 現在・・・
メモの住所に行ってみた
山の中だった
人家なんて1軒もない
あるのは 竹薮だけだった
お粗末さまでございました