#2295/3137 空中分解2
★タイトル (FJM ) 92/10/23 23:55 ( 31)
雨の向こうに リーベルG
★内容
1
はじまったとき、私は何も気付いていなかった。幸運なことに。
私の心を占めているのは、愛車HONDA SPADAの4サイクルエンジンの快調
なエキゾーストノート、ほとんど対向車もなくどこまでも続く道路、心地よいが次第に
深刻になってくる空腹感、昨夜頭に刻み込んだ富良野−函館間の国道と通過する町の名
前が全てだった。
朝6時に富良野のライダーハウスを出発した。今夜は函館に止まる予定である。距離
にして370キロ余り。順調に行けば夕方には到着する。
237号線を走りはじめて1時間弱。次第に登り坂が多くなってきている。海岸線を
走る235号線に突き当たるまでに、いくつか峠を越えなくてはならない。朝食はとっ
ていないのでそろそろどこかで何かお腹にいれておくべきである。
私は空を見た。少し雲が出ているが、青空が広がっている。両側にはまだ人間の手の
触れない自然が残っている。そして舗装されて以来、渋滞などという悪夢を体験した事
もない道路。こういう道でバイクを走らせていると、自分が都会のOLであることを忘
れてしまいそうになる。
対抗車線を走ってくる車がある。私はスロットルをほんの少し戻した。北海道を走っ
た最初の日に、スピード違反で捕まりそうになって以来、慎重になっている。
やってくるのは自衛隊の車両だった。北海道ではよく見かける。はじめのうちは物珍
しかったが、もう慣れた。
だが今回は少々興味をひかれた。車両はいままで見たように1台ではなく、5台続い
ていた。しかし、私の好奇心を刺激したのは運転席の自衛隊員の表情だった。まるで敵
地に侵入しているかのように真剣で緊張した顔をしていた。
「戦争でも起きたのかしら」私はつぶやいた。バイクで一人旅をしていると、知らず
知らずのうちに独り言をいうくせがついてしまう。
5台の自衛隊車両はかなりのスピードで私のバイクとすれ違っていった。明らかにス
ピード違反だった。私は自衛隊もスピード違反の対象になるのかしら、などと考えてい
た。
それが最初の兆候だった。