#2284/3137 空中分解2
★タイトル (TEM ) 92/10/18 17:31 ( 77)
ラストキッス・1 うちだ
★内容
〜 Noisy〜
週休2日制の会社でよかった。その日はよくある土曜日で、高校の時の友人
サイトーとお買い物。「加奈子?」と、街でいきなり呼ばれてびっくりした。
だって私のこと、名前で呼び捨てにする男の人なんて、いないんだから。人ご
みの中で振り返ったら、やっぱり知らない人が私にほほ笑みかけていた。
「なにー?加奈子ぉ、知り合いなのー?」
「え・・いやぁ・・えーと???」
“鳩が豆鉄砲くらった状態”の私と、なぜか嬉しそーなサイトー。・・・だっ
てこの人、サイトーが好きそうな顔だもの。やさしそうだけど、顔の線がシャ
ープでつり目なの。何かモテそうな顔。・・ここまできて私は思い出した。
「あー!うそーっ、明くん?」
「やっと分かった?」苦笑いしているのは、よく見れば懐かしい明くん。それ
は何と、以前は私の彼だった人なのだ。私って、もしかして薄情者?でも一言
弁明させてもらうなら、それはもう2年半も前のことで、別れたのだって突然
「東京へ行く」とかで、それっきり。一方的なんだから。
「うわー、久しぶりだったねーっ。」なんて言えてしまうのは、年をくったか、
時間のせいか?となりでサイトーも驚いている。サイトーも明くんのことは知っ
ていたものね。雑踏の中で立ち話をする、迷惑な私たち。
「最近こっちに帰ってきたんだ。」
「へー、そーなの。どうしてたの?」
なんかまぬけな答えをしている私。ああ、サイトーの羨望のまなざしが痛い。
「いろいろあってさ。・・・明日、加奈子の家に電話していい?」
「え、いいけど・・」
「番号、変わってないよね。」
「うん。」
で、そこで私たちと2年半ぶりの明くんはひとまずお別れした。
〜 噂ばなしはM4〜
デパートのトイレで並んでパフをはたく私たちは、口も結構忙しい。
「嘘、うそー!?あれがあの明ぁ?」
ほんとは私が大声を出したいところだよ。口紅塗ってるから、黙ってるけど。
「すっげーカッコよくなってたじゃん。前なんてただのクソガキだったのにー。
信じられないよ、もーっ。」
そうだよね。2年半前、明くんがサイトーにちょっかいかけても、ほーんと鼻
にも引っかけなかったんだから。 そのころ私は高校生で18歳で、明くんは
17歳で働いてた、っていうか、毎日ぷらぷらしていた。私は明くんのことが
好きだったから付き合ってたけど、彼は私の他にも女がいて、万引きとか、無
免許運転とか、ほんっとーにくだらない事ばっかりしてる男の子だった。うち
の親はあんなろくでなしと付き合うなって怒った。そりゃそうだ。いい加減で
我がままで、ガキ。そのうえろくでなし。それでも大好きだった。たぶん人間
的にどうとかって、愛とか恋とは違うところにあるんだと思う。それとも私が
10代だったからかな。
「どーしてあんないい男になっちゃうわけー?加奈子ってばずるいー。」
ずるいはないでしょー。私は鏡の中のサイトーを睨んだ。
「んじゃ、サイトーは、顔が良けりゃ、明くんみたいな子でいーの?」
「えー?・・・学歴ないし、軽そうだし、ちょっと考えるけど・・・何よ、加
奈子は明くんの誘いを断るつもりなのー?もったいないよー。今はちゃんとし
てるかもしれないじゃない。」
「・・・別に誘われてないじゃん。」
「じゃ、私にくれ。」
「やだ。」
私たちはそれから20分近くもトイレで話し込んでしまったのだ。
〜 ショート寸前〜
明くんは昔みたいに夜中の3時に電話してくるような大ひんしゅくなことも
なく、今はまだ10時半。さっきまで、電話してた。明くんと、2年半ぶりに。
私は短大を卒業して、この春から働いている。信じられないけど彼も今ではすっ
かり更正して、ちゃんと働いているらしい。今の私はちゃんとそのことを喜ん
であげられる。うん。良かったね、明くん。それが2年半前だったら、きっと
もっと嬉しかった。それからあたりさわりのない話をして。バス停で初めて出
会った時のこととか、最初のデートで30分も待たされたこととか、学校帰り
にプレゼントされたイヤリングとか、突然家を訪ねてきたこととか、雨の夜、
親に嘘ついて泊まった時のこととか。ほんとはそんなに長く話さなかったけど、
でもいろんなことを思い出した。忘れていたことまで、思い出した。よく明く
んの着ていた革のジャンパーの匂い、大きかった手、止まらないバカ笑い。心
が揺れているのか、ただ意外に多かった思い出の量にオーバーヒート状態なの
か・・・分からないけど。私たちは明日の夕方、会う約束をした。今さらどう
すんの?明くんも、私も。
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3月頃に中日ネットでUPしたものを少し加えたものでして、フロッピーをな
くしたと思っていたら、おやおやどっこい生きていた。よろしければ続きもど
うぞ。