#2095/3137 空中分解2
★タイトル (AQA ) 92/ 8/24 18:29 ( 52)
はじめての日 ゆうた
★内容
泉の水は今日も冷たかった。親父と喧嘩したあの日の泉の水は冷たかったが、
今日はまた格別に冷たかったように思えた。
「心配したのよ。」
といつも駆け付けてくるおふくろもいなければ、たまにこの近くで遊ぶ奴等も。
泉の水は今日も冷たいのに。
今日は何か違う。
俺は一人で生きてる気でいたのに、本当は、いつも誰かに凭れていたのだ。
結局俺は一人で生きられないと皆は心の底で思っていたのか。それならば。
なぜ皆は俺をこんな所に隔離したのか。それとも俺が皆を隔離しているのか。
悪夢だと思いたいのに、頭の中で誰かが違う違うという。
こう、はあ、という自分が息をする音しか聞こえない。かなり長い間泉の水に身を
浸している。こうなってくると水から上がるのが怖くて仕方がない。
ふと水底での、格別の浮遊感が思い出されてくる。
懐かしい。戻りたい。
嘗てこの水辺で沢山の友達が殺されたこと、俺は知っている。仲間が助けにいこう
と身を踊らせたのを見ていた。ただし刹那のうちに槍で突かれてどこかへつれていかれ
たのも俺は見ていた。
俺は知っている。だからここへはなるべく来たく無かった。こんこんと湧き出る
水にゆられて水底で暮らしていたかった。
なぜ俺だけをこんなに疎外するのか。
俺が何をしたというのか。
ここへくればどうなるというのか。
俺は嫌だと言ったのに。
「お前は俺たちの仲間じゃない。」
「あなた、あたしたちと違うのがまだ判らないの?」
両親だってそうだ。
なぜ、どうして俺がこんなことになるのかと聞いたときも何もいわなかった。
姿が違えばあいつらと暮らせないのか?親父やおふくろと暮らせないのか?
・・・わかっているさ。俺にはおまえらのような鱗も尾鰭もない。ついてるのは
気味の悪い二本の肉の棒だ。それとも、俺が水に長く潜っていられないことか。だが
それだけでここでずっと暮らしてきた俺を突き放すのか。
顔形は俺と同じなのに。
いいさ。もう。
いつも水辺に顔をあげて見ていた森。あそこへ行ってみよう。
草をひっつかんではじめて陸に上がる。
暖かくて良い気持ちだ。
あいつらも呼んでやりたいな。
でも動きにくいかな。
この体も結構ここでは使い勝手がいいな。
細い声に振り返ると、同じような格好をした奴がいた。奇麗な娘だ。
こいつと暮らして見たいな、そう俺は思った。
その時、この陸地に、俺のような姿形をした奴は、俺とあいつだけだった。