AWC お嫁さん売ります     ひろし


        
#2088/3137 空中分解2
★タイトル (PQM     )  92/ 8/23  23: 7  (148)
お嫁さん売ります     ひろし
★内容

 あれは半年ほど前の事でした。
 あの頃、僕はT子という女と付き合っていました。
 彼女は、自分で言うのもなんですがなかなかの美人で、女優のT.美奈子ちゃんによ
く似ていました。少し我儘な所があったのですが、その頃の僕にとってそれさえも可愛
らしく思えたものです。
 そんなある日、僕の会社にT子から電話がかかってきました。
「もしもし、一郎?」
「なんだ、T子? 一体どうしたんだい? 急に会社に電話してくるなんて」
 突然の電話に驚きながらも、窓際のディスクの上司の声を気にして僕の声は小さくな
ります。
「あの、私、今渋谷にいるんだけど、怪我しちゃったのよ。ちょっと足を挫いちゃって
歩けないのぉ。お願い、迎えに来てくれない。ここから動くことできないのよ」
 電話の向こうで、彼女は今にも泣きそうな声で言いました。
「なんだって? そんなにひどい怪我なのかい。タクシーを捕まえるとか、なんとかで
きないのかい」
「だめ。もう足が痛くて一歩も歩けないわ」
「そんなこと言われても‥‥仕事中だし‥‥」
 僕が困り果てていると、突然、彼女はヒステリックに言いました。
「あなた! 私は怪我して動けないのよ。私を愛していないの!」
 それを言われてはおしまいです。僕は渋々、彼女を迎えに行くことにしました。
「本当? ありがとう。私JRの西口いるから早く来てね」
 僕の答えを聞いた彼女の声は驚くほど元気でした。

 それから僕は適当な理由を上司に言って会社を早退し、渋谷駅に急いで向かいました
。途中の電車の中では、もちろん怪我している彼女の事が心配でしたが、それとは別に
いやな予感がしていました。
 それでもようやく駅に着いて急いで西口に行くと、駅の入り口の柱の所に赤いボディ
コン姿の彼女が立っていました。僕が彼女を見付けたのと同時に彼女の方も僕を見付け
ました。
「一郎、こっち。遅いじゃない」
 それが彼女の第一声でした。しかしそう言った彼女はしっかり二本足で立っていて、
怪我をしている様子は何処にもありません。
「T子。怪我はどうした、怪我は?」
 間抜けに訊ねる僕。
「怪我? えへへ‥‥。あれ本当は嘘なの。本当は買物をし過ぎちゃって、一人で持て
なくなったのよ。それであなたに手伝って貰いたかったんだけど、そんなこと言ったっ
て、あなた来てくれないでしょぉ。それで嘘ついちゃった。ごめんねぇー」
 彼女は精一杯の笑顔で、最大限の甘えた声を出しました。僕のいやな予感は的中して
しましました。
「も、もしかしてお前は、そ、そ、その買物を持たすために俺を呼び出したのか」
 僕は震える声でそう言って、そして‥‥。切れました。
 今まで何度も彼女の我儘を我慢してきた僕ですが、この時はさすがに頭に来ました。
僕は自分でも驚くほどの声で彼女を怒鳴りつけ、渋谷を後にしました。

 それから数日が過ぎました。
 彼女との喧嘩の後、僕は彼女がすぐに謝って来るものだと思ってました。
 二、三日もしないうちにまた電話がかかってきて、
「もしもし、一郎? この間はごめんなさい。わたし我儘だったわ。あの後あなたが行
ってしまってから、反省したの。わたしの事を許してくれる? あなたに見離されたら
、わたし生きていけない‥‥」
 となる予定だったのですが、三日待とうと一週間待とうとまったく音沙汰なしです。
 僕はさすがに不安になってきて、不本意ではありますが彼女に電話することにしまし
た。
 電話の呼び出し音が五回鳴って、向こうで受話器を取る音がしました。
「もしもし、田中です」
「もしもし、T子? 一郎だけど」
「え? 一郎さん? 何の御用?」
 T子の声には厳しい響きがありました。
「あの、その、何の御用って言われても困るけど、この間別れてから全然連絡無かった
から、電話したんだけど」
「それで」
 彼女は氷のような冷たさで言いました。
「あの、その、だからこの前は僕もつい怒っちゃったりして、悪かったなと‥‥」
(バカ、なぜお前が謝るんだ。悪いのは彼女の方だぞ)
 心の中でそう思いはしても、すっかり彼女のペースに巻き込まれた僕は思わず謝って
いました。しかし、それなのにその後の彼女の答えはあまりにつれない物でした。
「あのね、いまさら謝られたってもう遅いの。この間のことで、あなたって人がよくわ
かったわ。もう私たちは終わったのよ。もう二度と電話しないでちょうだい」
 彼女は言うだけ言うと、電話を切ってしまいました。
 僕は茫然として電話を持ったまま、立ち尽くしていました。


 その後の僕はまるで糸の切れたタコのようになってしまいました。
 何をしても手に付かず、生きる気力さえなくなってしまったのです。
 翌日から会社を休み、寝込んでしまいました。
 そうして一週間が過ぎました。今から考えるとよく生きていたものだと思います。僕
は自殺さえ考えていたのですから。
 そんな時に、僕は新聞の折り込みの中に、一つの公告を見付けました。
 僕の中に何かが閃きました。


 それからまた一週間が過ぎ、そうしてついに運命の日がやってきました。
 僕が会社の残業を終えて帰ってくるとアパートの前に、一人の若い女性がたっていま
した。その容姿は、頭から足の先まで完璧と思えるほどの美人です。
「失礼ですが、一郎さんでしょうか。わたし恵美子といいます」
 その女性は僕が近付いていくと、おそるおそる言いました。
 僕が黙って頷くと、彼女はようやく安心したように微笑みました。僕はその時の彼女
の天使のような笑顔を、今でも鮮明に覚えています。
 それが僕と恵美子の始めての出会いでした。
 その日から僕と恵美子の新しい生活が始まりました。
 恵美子は素晴らしい女性です。きれい好きでよく働き、何よりもこの僕に従順につく
してくれます。たとえ僕が落ち込んでいたとしても、いつもあの美しい微笑で励まして
くれるのです。
 彼女と比べれば、今まで僕が付き合った女性(特にT子)は、我儘で神経のがさつな
サルのように思えてしまいます。
 彼女と暮らしはじめて、二ヵ月が過ぎようとしています。
 この二ヵ月は今までの人生でも、最高に幸せな毎日でした。
 今の僕にとって彼女は掛け替えのない、自分の命よりも大切な存在です。

                          (東京都.会社員.一郎)




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                           <おわり>





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