AWC    Requiem         椿 美枝子


        
#2065/3137 空中分解2
★タイトル (RMM     )  92/ 8/18  15:48  ( 60)
   Requiem         椿 美枝子
★内容
 安心して。もうあなたを苦しめないわ。そう確かに今までは苦しめてきたけれ
ど。でも何故苦しめたのかついに気付かなかったでしょう。今だから言うわ。あ
なたは私にひざまづかなかった。だから決めた、あなたを苦しめ続ける事を。だ
から提供した、悲恋を。気分は如何。
 捨て身の攻撃ね。私も辛いから。けれども私には恋なんて、生きていく為に最
低限必要な食べ物の様なもの、それはどう料理してもよかったし、あなたとおい
しい食事は出来ない事は諦めていたのよ。

 あなたは与えられる事を当たり前だと思っていたでしょう。
 私に感謝などしなかったでしょう。

 覚えているかしら。最初の出会いの頃の事。あの時、恋じゃない性欲だ、なん
て言い張ってみせた。あなたは私をその言葉で侮蔑してそれに気付こうともしな
かった。
 覚えているかしら。私の誕生日の事。あの時、レコードをあげるから何がいい
か、なんてきいてきて、Faure、と言ったらRequiemをくれた。R−
equiem。知らないとは言わせないわ、鎮魂歌よ。誕生日に鎮魂歌、寒気が
したわ。あなたの無神経さがたまらなかった。
 覚えているかしら。私と例の彼との事。あの時、嫉妬、と言わずに、局所的な
独占欲、なんて素直じゃない言い方しかしなかった。あなたは私にかけらの隙を
も見せようとはしなかった。
 覚えているかしら。私のピアノ発表会の事。あの時、花束を持って来て頂戴、
と何回も言った筈なのに、アルバイトが入った、なんて言って来てくれなかった。
入った、じゃなくて、入れた、でしょう。狡猾ね。花束を貰えないのは、私だけ
だった。

 いつだって私は花束が欲しくて、いつだってあなたは花束をくれなかった。い
つだってあなたは貧しさを理由にしたけれど、それは貧しさのせいじゃ、ない。
花束はお金だけじゃ、ない。
 そんなあなたに、用は、無い。

 だんだんと私は、あなたを苦しめた。二人で幸せが紡げないなら、あなたに不
幸せを見ていたかったから。一人で苦しむより二人で苦しみたかったし、私の苦
しみよりもあなたの苦しみがより多くあって欲しかった。だからあなたを苦しめ
た。

 最後まであなたは私にひざまづかなかった。
 全てを私のせいにして、私を去っていこうとしていたのでしょう、気付いてい
たわよ、そんな事。でも知っているのよ。とうの昔にあなたが私の心の入口のずっ
と手前で去ってしまっていた事。さようならを言おうにも、もう、とうに、あな
たが居ない事。

 やめてよ。
 泣かないでよ。
 今更泣いてみせたりしないでよ。
 急に孤独になった様な顔をしてみせたりしないで、急に自己憐憫に浸って泣い
てみせたりしないで、やめてよ、今更、滑稽よ。

 やめてよ。
 ひざまずかないでよ。
 今更ひざまづいてみせたりしないでよ。
 もう、手遅れよ。
 私の魂はあなたから離れて、鎮まってしまったのだから。


                       1992.7.9.19:00

                                 Fin

          楽理という仇名 こと 椿 美枝子




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