AWC 生まれ変わったロボット              ひろし


        
#2059/3137 空中分解2
★タイトル (PQM     )  92/ 8/17  23:52  (164)
生まれ変わったロボット              ひろし
★内容

 街のメインストリートは、通り過ぎる大勢の人々でごった返していた。
 通りの両脇には、レストラン、ブティック、デパート、その他数えきれない程の華や
かな店が軒を連ねていて、それらの店を目当てに人が集まって来るのだった。
 通りを歩く人々はだれも皆、思い思いの煌びやかなファッションに身を包み、仲間同
士で楽しげな会話をしながら通り過ぎてゆく。
 B級サービスロボットのキティーちゃんは、大きなショーウインドウごしに通りを眺
めながら、深いため息を付いた。
 この時代、ロボット技術の進歩によって人々は労働から開放された。人々は開発、企
画などの仕事をしていたが、それも週に一日か二日だけで、残った時間はすべて遊んで
暮らすことができた。
 しかし、その人間が遊んでいる分、ロボットが代わりに働かなくてはならない。キテ
ィーちゃんもアクセサリーショップの売り子として、人間に変わって朝から晩まで働い
ていた。
「人はあんなに楽しそうに暮らしているのに、なぜ私たちロボットだけがこんなに一生
懸命働かなくちゃならないのかしら」
 そういう思いがキティーちゃんにため息を付かせるのだった。
 もちろん、”ロボットは、自分たちを作ってくれた人間たちに奉仕しなければならな
い”そういうことは、思考回路の基本部分にしっかりと刻み込まれている。
 それでも、通りを行き交う人を見ると羨ましく思うキティーちゃんだった。
 しかし、
「ねえちょっと、その奥の指輪、見せてくれない」
 客の呼び声で、キティーちゃんのつかのまの思いも吹き飛んでしまった。キティーち
ゃんは笑顔を浮かべながらあわてて客の応対を始めた。

                *

 街頭の明かりも薄暗い裏通り、キティーちゃんは古ぼけたコンクリートの建物の前に
立っていた。そこがチャーリー爺さんの家だった。

 チャーリー爺さんを初めて尋ねたのは、今からちょうど二年前の事である。
 その頃、街で働くロボットたちの間で妙な噂が流れていた。
「裏通りに住んでいるチャーリー爺さんて、知ってるかい。何でも相当変り者の人間ら
しいんだけどね、その爺さんの所へ行くとロボットを人間に変えてくれるそうなんだ」
「なに馬鹿な事を言っているんだよ。どうやってロボットが人間になれるっていうんだ
? 今の時代にまさか魔法なんてこともないだろう」
 そんな、会話がロボット同志で交わされていた。
 たしかにそれは馬鹿げた話だった。そして、多くのロボットたちはそんな話などまっ
たく信じようとしなかったが、キティーちゃんだけは違っていた。
「もしロボットが人間に生まれ変われるとしたら、なんて素敵な事なのかしら。確かに
嘘みたいな話だけど、万が一ってこともあるじゃない。とにかく嘘かどうか確かめてみ
ても損はないわ」
 キティーちゃんはそう考えて、噂の建物の前に実際に行ってみたのだ。
 その建物は今時めずらしいぐらいに古びたちっぽけなビルだった。今時、人間がこん
な所に住んでいるなんて信じられないような気がしたが、一方であの怪しい噂にピッタ
リのような気もした。
 キティーちゃんは建物の入り口に立って、さすがに気後れしていた。突然訪ねてなん
て言えばいいのだろうか。だいたい見ず知らずのロボットが、突然人間を訪ねるのは相
手に失礼な気がした。
 そんな事を考えながらキティーちゃんはビルの前でうろうろしていると、丁度その時
、一人の老人がビルから出てきた。
 それは、みすぼらしい格好をした腰の曲がった老人だった。
 キティーちゃんは頭のサーキットがショートしそうなほど緊張したが、それでも勇気
を奮い起こして老人に話かけた。
「あの‥‥、あのチャーリーさんじゃないですか?」
 キティーちゃんは恐る恐る言った。
 呼び止められて老人はキティーちゃんの方を振り向いた。老人は頭の禿げ上がり、皺
だらけの顔に染みがたくさん浮いていた。ただその目だけは鋭い光を放って、キティー
ちゃんを鋭く見据えている。
「チャーリーさんですよね?」
 もう一度、キティーちゃんが繰り返すと老人はゆっくりと頷いた。
「あの、実は貴方がロボットを人間に変えてくれるって聞いてきたんですけれども
‥‥」
 キティーちゃんが言うと、老人は何かもぞもぞと呟いた。
「えっ、何ですって?」
「金は」
 老人はしゃがれた声でそう言った。
「お金って幾らですか?」
「4000」
「4000? 4000って、4000クレジットですか? そんな大金ありません」
 老人は驚いて立ち尽くすキティーちゃんを、鋭い瞳で睨み付けた。
「金を貯めたら、話を聞いてやろう」
 老人はそれだけ言ってどこへともなく去っていった。
 後にはキティーちゃんだけが一人その場にとり残された。しかし失望していた訳では
なかった。老人は4000クレジットの金を貯めろと言ったのだ。4000クレジット
というのは大金だった。しかしそれは、それだけ払えば、キティーちゃんを人間にして
くれるという事ではないか。
 キティーちゃんはかすかに見えた希望の光に感動しながら、しばらくその場に立って
いた。

 あれから二年が過ぎた。キティーちゃんはあの老人と会って以来、必死にお金を貯め
た。新しいパーツを買うのも我慢して、メンテナンスの回数も必要最小限におさえて一
生懸命働き続けた。
 そうしてようやく4000クレジットのお金が貯まったのだ。
 これでようやく人間に生まれ変わる事ができるのだ。もう働き続けることはない。こ
れからはあの通りを行き交う人と同じように、楽しく遊んで暮らせるのだ。
 そう考えただけでキティーちゃんは興奮し、電子頭脳に過電流が流れた。
 キティーちゃんはチャーリー爺さんの家のドアをノックした。しばらく待って、返事
がないのでもう一度。
 やがてドアの奥で人の気配がした。しばらくしてドアが開く。そこには二年前とまっ
たく変わってないチャーリー爺さんの姿があった。
 チャーリーは驚いた様子もなく、黙ってあの鋭い瞳でキティーちゃんを見つめた。
「あの、私、二年前にお会いしたキティーです。4000クレジット持ってきました。
これで私を人間にしてもらえるんですよね」
 勢いこんで話し始めるキティーちゃんを制して、老人は彼女を家の中へ入れた。
 家のなかは古くさい建物の外見に比べて、以外と小綺麗に片付けられていた。
 ただキティーちゃんの注意を引いたのは、部屋の奥の方に並んでいる機械類だった。
まるで大学の研究所を思わせるような様子だったが、彼女にはそれらの装置が何のため
の物かは見当もつかなかった。
 キティーちゃんはチャーリー爺さんに勧められるまま、部屋中央に置いてあるソファ
ーに腰を降ろした。
「さあ、お金をもらおうか。そうすれば直ぐにお前さんを人間にしてあげよう」
 粗末なテーブルを挟んで、キティーちゃんの向かい側に座ったチャーリー爺さんは言
った。
 すこし戸惑いながらもキティーちゃんは二年間かかってようやく貯めたお金をチャー
リーに渡した。
「あの、どうやって私を人間にしてくれるんですか」
 キティーちゃんは怖ず怖ずと訪ねた。
「お前に、説明したところで分かりはせんよ」
「あの、私はどんな人間になるんですか。どんな姿の人間になるんですか」
「わしを疑ってるのかね。ちゃんと人間に変えてやるから、心配せんでいい」
 チャーリーは不機嫌にそう答えると、部屋の奥の方をキティーちゃんに示した。
「さあ、それでは仕事にかかろうかな。あの作業台の上に行きなさい」
 キティーちゃんは不安なまま、チャーリーの言葉に従う他なかった。
 彼女はチャーリーに促されるまま、妙な機械類の沢山付いたベッドに体を横たえた。
「それじゃあ、手術を始めるからな」
 チャーリーは薄気味の悪い笑顔を浮かべると、何やらベッドの横のスイッチを操作し
た。すると、どこからともなく静かな電子音が流れはじめ、キティーちゃんは意識を失
った。

                   *
 体がすごく重たく感じた。頭がぼんやりとして、はっきり物を考えることができなか
った。
(私は‥‥、私はキティー。そうだ。私は人間に生まれ変わったんだ。でも、なんか体
が気怠いわ。ロボットだった時にはこんなことはなかったのに。まだ、人間の体に慣れ
ていないせいかしら‥‥)
 キティーちゃんは、そっと目を見開いた。
 眩しい光が、キティーちゃんの瞳に飛び込んできた。その光はあまりの眩しさに痛く
さえ感じられた。
 しかしそれも徐々に目が慣れて、辺りの様子が見えるようになってきた。
(どうやら、私は、あのチャーリー爺さんの家のあのベッドにいるらしい‥‥)
 その時、突然ベッドの上に横たわるキティーちゃんの顔を、B級サービスロボットが
覗き込んだ。
 キティーちゃんは息を飲んだ。それはキティーちゃんだった。いや、キティーちゃん
が今まで使っていたボディと言うべきか。
「目覚めたかね。お前さんは人間に生まれ変わったんだよ」
 キティーちゃんのボディが言った。口調に対してサービスロボットの声がやけに不似
合いだった。
「さあ、起き上がってごらん」
 サービスロボットの助けを借りてキティーちゃんはベッドから起き上がった。
 まだ、体が痺れているようでキティーちゃんはよろよろしていた。
「そこに鏡が置いてある。生まれ変わった自分の姿をみてみなさい」
 キティーちゃんは、サービスロボットに言われるまま、鏡のところへゆっくりと歩い
ていった。
 そして鏡を覗き込んだ。
「!!」

 そこにはチャーリー爺さんの顔があった。


                           <おしまい>




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  最後まで下らない話にお付き合いいただきありがとうございました。
              m(^^)m
                             ひろし

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§






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