AWC ある日の出来事(2)               菅野歩地


        
#2046/3137 空中分解2
★タイトル (EGD     )  92/ 8/13   4:48  (105)
ある日の出来事(2)               菅野歩地
★内容


          『ある日の出来事(2)』


   今日は、朝からいい天気。真っ青な空、薄くかかった雲。
  こんな日は、自然に外に飛びだしたくなってしまう。久しぶりに早
  起きした美奈は、出窓を前開にし外の風景を眺めていた。
   東京と言っても、ここは奥多摩。自然が豊富にある、山もあれば
  野原も一面に広がっている。
   美奈は、外に飛びだし遥かにつづく野原を思いっきり走りだした。
   両手を飛行機の翼のように広げ、蛇行しながら走った。
   肌にあたる空気は、ひんやりとして気持ちがいい。
   時間を忘れて走った。
   だんだん、息が切れてきた。足がもつれた・・・。
   美奈は、そのまま大の字のなって草花の上に仰向けになった。
   朝露のせいで、少し湿っていた。
   そのまま目をつむり、眠りにはいった。

   一時間が、過ぎた。
  「あ−眠っちゃった・・・」
   美奈は、大きく伸びをしてつぶやいた。
   起き上がると、家の方向を見た。
  「・・・・・・・」
   夢中になって走ったため気がつかなかったが、家は遥か向こうで
  二階部分が、なんとか確認できる程だった。
  「さあ、帰らなくっちゃ」
   自分に言い聞かせるように言うと、走ってきた道のりをゆっくり
  歩きだした。
   日はすでに、高く昇っており日差しがつよかった。
  「少し、日焼けしちゃったかな・・・」
   美奈は、歩きながら肌を気にしていた。
  もう今は、涼しいとは言えず、ただただ暑いだけだった。
  両手をうしろに組んで、一歩一歩のんびり歩いていると心に余裕
 できる、なんか素直になれる。−−なぁんて、美奈らしくないこと
 を思いながら歩いていた。
  しばらくすると、後ろからどこかの家族の楽しげな笑い声が聞こ
 えてきた。
  美奈は、何気なく後ろを振り向いた。
  「おとうさん・・・。」
  心の中でつぶやいた。
  その家族は、美奈達が引っ越してきた当時の、自分達の姿であっ
 た。引っ越してきた次の日、家族みんなでこの野原を散歩した。
  正しく、その当時の懐かしい光景だった。
  美奈は、恐くなかった。生きてた頃の父の姿が懐かしく、黙って
 見つめていた。
  しばらくすると、その家族が美奈の方へ走ってきた。
  美奈は、ただただ呆然と見つめていた。そして、美奈に気が付か
 ない様子で、当時の母と姉そして自分が、ほんの数メートルの所を
 通りすぎていった。
  少し遅れて、父が走ってきた。
  美奈は、思った。これは、夢よきっと・・・。馬鹿だから、立っ
 たまま眠っているんだ・・・。でも・・・。
  美奈の目は、じわじわと潤んできた。
  別に、悲しいからではない。懐かしいのだ。生きてた頃の・・・。
  美奈の横を通りすぎようとしたとき、父は立ち止まった。
  「美奈・・・頑張るんだぞ。父さんとの夢、かなえてくれよ」
  父は、真剣な顔で言った。「いつでも一諸だからな」
  「お父さん、美奈・・・」
  美奈、お父さんのところに逝きたい。
  そう、言いたかった。でも、言えなかった・・・。
  「パパ、早く!!」
  後ろから、父を呼ぶ幼い頃の姉と自分の声が聞こえてきた。
  「行かなくちゃ」
  そう言うと、父はやさしく微笑んだ。そして、また走りだした。
  すれちがう時、父の肩が美奈の肩に触れた。
  「お父さん!!」
  美奈は、慌てて振り向いた。しかし、もう父と当時の自分達の姿
 はなかった。
  父の触れた肩の感触だけが、残っていた・・・。
  美奈は、また歩きだした。うつ向いて歩いた。涙で濡れた顔を、
 父に見せたくなかったからだ。ポケットから、ハンカチを出して涙
 を拭いた。
  それでも、涙が止まるのに二十分かかった。

  「美奈!」
  気が付くと、姉の百合子は美奈の前にいた。「どうしたの?」
  「お姉ちゃん!」
  そう言うと、百合子に抱きついた。また、涙があふれてきた。
  百合子は、当惑しながらも黙って抱き締めた。気がすむまで、こ
 うしていてあげよう・・・。百合子は、そう思った。
  しばらくして、泣きやんだ。そして、百合子からそっと離れた。
  「気がすんだ?」
  「うん」
  美奈は、うなずいた。「どうして、ここにいるの?」
  「ご飯なのに、帰って来ないから心配したのよ!」
  百合子は、少し怒ったように言った。
  「ごめんね・・・」
  美奈は、うつ向いて言った。「お父さんに・・・会ったの」
  「本当に・・・」
  百合子は、びっくりした顔で言った。「そう、なんて言ってた」
  百合子は、すぐに冷静になってきいた。
  「がんばれって、夢をかなえなさいって・・・」
  美奈は、目を潤ませながら百合子に言った。
  「約束・・・守らなくっちゃね」
 と、百合子は言うとやさしく微笑んだ。「さあ、ご飯よ!」
  百合子は、美奈の手を取って走りだした。
  美奈と百合子の手と手は、しっかりと結ばれていた。



  1992/08/13           菅野歩地







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