AWC 物品巡回>通信ソフト     うちだ


        
#2022/3137 空中分解2
★タイトル (TEM     )  92/ 8/ 8   9:29  ( 74)
物品巡回>通信ソフト     うちだ
★内容

文明のマンションで留守番していたら、郵便受けに妙な封筒が入っていた。何にも書い
てない真っ黒な封筒。中身は紫色のディスクと説明書。私はパソコンはいじったことな
いから、説明書を読んだだけなんだけど。勝手に開けたから文明に叱られた。
「馬鹿。勝手に開けちゃって、俺宛じゃなかったら、どーすんだよっ」

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           ル・サイファーNET説明書
                ・
                ・
                ・
 ディスクでNETにアクセスなさった時点から起算して、13週間後に回収に伺い
ますのでその場合は速やかにご返却なさってください。
                ・
                ・
 上記の説明の様にご利用者の魂の純粋な部分をいただくのと引換えにNETではあ
らゆるサービスをご満足いただける形で提供するのです。
                ・
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「こりゃ通信ディスクだ・・・新手の通販だったりして」
文明が言うけど、私はイキナリ叱られちゃって機嫌悪いから、返事してあげない。私が
ぶすっと黙り込んでしまったので、文明がとりなすようにまた言った。
「けっこー面白そうだよな。・・・ちょっと見てみようか?」
・・・私の好奇心を刺激して、さっきの事(叱ったこと)ちゃらにしようとしてるな。
文明だって興味あるくせにさっ。机に向かってパソコンの電源を入れてる文明の背中に、私は紫色のディスクを手にして意地悪く質問をする。

「ねー、文明。この説明書の“魂の純粋な部分”てどーいうことだと思う?」
「さぁ・・・宣伝文句だから、そんなの気にすることじゃないよ」
「純粋って何?」
「・・・」
「例えば“ご利用者の魂の純粋な部分をいただくのと引換えに・・”っトコで利用者が、私みたいに純粋な所がない奴だったらどーすんのかな?何と引き換えるんだろ?」
文明は振り向いて私を睨んだ。
「そーいう言い方するなよ。」
彼は、私が自分を卑下するような言い方をすると怒る。そういうとこ、好き。ま、今回
はそれ分かっててわざと言ってみたんだけどさ。私も文明を睨み返す。ふーーっと溜め
息をついたのは彼の方。
「・・・叱ったのは悪かったよ。ごめん。」
私も笑って仲直り。手渡した紫のディスクがパソコンで起動する微かな音。

「ああ、これはこのル・サイファーNET専用の通信ソフトなんだ。」
文明のキーを叩く音。後ろから時々画面を覗き込む私に、文明は説明してくれる。
それが昼の1時頃の話だったから・・・なんとその後の7時間、つまり夜の8時過ぎま
で彼はそのままその“ル・サイファーNET”に繋げっぱなしだった。私は腹が立つよ
りもだんだん不安になった。どんどん暗くなる部屋に電気を点けようとも言わずにパソ
コンに向かっている文明・・・彼がパソコン通信を“けっこー面白い”と、やっていた
のは私も知っていたけど、今度みたいに、のめり込むのって初めて見た。私が後ろで拗
ねても怒っても宥めても、彼はパソコンのディスプレイを見つめてキーを叩いて、生返
事を繰り返した。まるで・・・とりつかれたみたいだ。8時過ぎに回線を切ったのだっ
て、ほとんど無理やり。私が脅したから。
「これ以上続けるなら、パソコンの電源抜くからねっ!」
私はその後家に帰ったんだけど、文明は“送るよ”とも言わなかった。・・・あの様子
じゃ、私が帰ってすぐまたアクセスしてたんじゃないかなって思う。

電話はたいがい話中だったし、文明のマンションを尋ねても居るのか居ないのか、分か
らなかった。居ても玄関のドアが開かなかったり。それっきり、私は彼と会うことがな
かった。いや、本当は最近1回だけ会ってるんだけど、それは・・・つい最近。マンションの側のコンビニで偶然。文明がレジでカップメンばかり買い込んで、レジで清算して
いた。私は目を疑った。半年ぶりで見る文明は、そのただでさえ細かった体がいよいよ
痩せちゃって、私は少し泣けてしまった。
「・・・・・・何でぇ?・・・何があったの?」
「別に」
「だって・・」
「それよりさ、また来いよ。例のソフトが回収されちゃって、退屈してんだ。」
文明は目だけがぎらぎらしていたけど、私を見てなかった。
「ねぇ文明。あの通信ソフトが原因じゃないの?あれ何だったのよっ」
彼は私を睨んだ。そのぎらぎらする瞳で。それは金色に光っていた。
「・・・・そういう言い方するなよ」
私は後ずさりした。文明に背を向けて、店を出て走った。以前、同じセリフをもっとう
れしい気持ちで聞いていた記憶があって、本当に悲しくなった。私の好きだった彼の部
分はNETのサービスと引き換えられて、もうこの世のものではなくなっしまったみた
いだ。                            おわり




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