#2007/3137 空中分解2
★タイトル (GVB ) 92/ 7/31 22:11 ( 88)
大型農業小説 「米を食うまで」 ゐんば
★内容
初代松本喜三郎
イネの生い茂った原っぱの横を通る。「ああ、イネが生えてるな」と思って通
り過ぎる。
二代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないかな」と思いつく。茎をかじ
ってみて、まずかったのでやめる。
三代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないかな」と思い、茎をかじって
みようとしてハッと父の遺言を思い出す。父の遺言とは「あのイネっつう草の茎
はまずいから、食うもんじゃねえ」ということであった。あきらめようとしたが、
茎でなければうまいかも知れないと思い直し、穂をかじってみる。まずかったの
でやめる。
四代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないかな」と思い、茎をかじって
みようとしてハッと父の遺言を思い出す。父の遺言とは「あのイネっつう草の茎
はまずいから、食うもんじゃねえ、とじいちゃんが言っていた」ということであ
った。しかし腹が減っていたので穂をかじってみようとしてハッともう一つの父
の遺言を思い出す。もう一つの父の遺言とは「で、わしは穂を食ってみたが、や
っぱまずかった」ということであった。しかし腹が減っていたので、きっと父は
皮を剥かずに食ったからまずかったのに違いないと考え、皮を剥きだす。面倒く
さくなってやめる。
五代目松本喜三郎
腹が減ってなかったのでそのまま通り過ぎる。
六代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないかな」と思い、茎をかじって
みようとしてハッと父の遺言を思い出す。父の遺言とは「あのイネっつう草の茎
はまずいから、食うもんじゃねえ、とじいちゃんのじいちゃんが言っていた。で、
ここで穂をかじってみようと思うだろう。でも、やっぱまずかったと、じいちゃ
んのとうちゃんが言っていた。じゃあ皮を剥こうと思うかも知れないが、これが
なかなか大変だと、じいちゃんが言っていた」ということであった。なるほど一
つ一つ手で剥いていたのではやっとれんと、そばにあった石でゴリゴリこすって
みる。うまく剥けたので早速生でボリボリ食ってみる。まずかったのでやめる。
七代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないかな」と思い、茎をかじって
みようとする。父は何も遺言してくれなかったのでそのまま茎をかじったが、ま
ずかったのでやめる。
(中略)
十一代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないかな」と思い、茎をかじって
みようとしたが「ま、細かい話は略すが、穂を石でゴリゴリ剥いて食おうとした
がまずかった」という父の遺言を思いだし、きっと焼かずに食ったからに違いな
いと、焼いて食おうと思って火の中に放り込む。燃えてしまったのであきらめる。
十二代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないかな」と思い、茎をかじって
みようとしたが「ありゃ食えん」という父の遺言を思いだし、あきらめる。
十三代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないかな」と思い、茎をかじって
まずかったが「ありゃほんとに食えねえんだろうか」という父の遺言を思いだし、
試しにもうちょっと食ってみるが、やっぱりまずかったのでやめる。
十四代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないかな」と思い、茎をかじって
まずかったが「わしの若い頃はどんなまずいもんもモリモリ食ったもんじゃ」と
いう父の遺言を思いだし、試しにもうちょっと食ってみるが、やっぱりまずかっ
たのでやめる。
十五代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないかな」と思い、茎はみるから
にまずそうだったのでやめ、穂を食おうと思ったがやっぱ皮は剥かなきゃ食えな
いだろうと考え、手で剥いていたら大変だなと思い石でゴリゴリこすり、生では
食えないかなと思い焼くのは大変そうなので煮ようと思ったが「わしがうまいと
思ったのはゴロゴロドリの蒸し焼きだな」という父の遺言を思いだし、そっちを
食う事にする。
十六代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないな」と思って通り過ぎる。
十七代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見ていきなり穂を石でゴリゴリこすり煮て食べる。
十八代目松本喜三郎
腹が減ったのでイネを見て「ああ、これ食えないかな」と思ったのだが、父は
何も遺言しなかったので、茎をかじり、まずかったのでやめる。
かくして、人類が本格的に米を食うようになるのはまだだいぶ先の話になる。
[完]