AWC 「氷梢」8                由布子


        
#1964/3137 空中分解2
★タイトル (KPG     )  92/ 7/19   1:43  ( 25)
「氷梢」8                由布子
★内容

  「毎日はとても苦しいわ。」
  「君のどこに苦労があるんだ?」男は正面から厳しい目を向けた。
   朱鷺子はそして、心とは裏腹にその男の目を強く見つめ返した。
  自分自身の諦めが、いつも彼女の彼女自身の心によって起こってい
  るそれに、彼女が他人の衝動から起こさせられる彼女以外の彼女と
  なってさらに男を見つめ続けた。
  「君という人は心が二つあるようだ。」
  「私と、他人が持っている私。」
  「本当にそう思っているのか?」
  「そうとも言い切れないかもしれないわ。生まれてから私には、私
   以外の人が何人も重なっているの。そして、その中で私は私自身
   で在りたいといつももがいているの。でも、その私自身が不在の
   ままで、人の心が苦しいと感じているのかもしれない。」
  「君自身が不在なのか?」
  「そう、身体も私の心を縛るものなの。私が求める私自身は、私の
   になって、そして現実を仮に今を現実と呼ぶのなら、それを現象
   として客観的に見ている私を想像したの。そして、そういう自分
   を非常に求めたの。それはとても虚しいものだったけど、私は私
   自身であって、誰も重なってはいなかった。そして、私にとって
   はとても心地よい現実との隔たりがあって、その私を私はいつも
   求めているような気がするの。」
  「そういう人間を人は放ってはおかないな。大概の人間は他人の意
   識で動かされているものだよ。そんな弧高で、一人醒めた目で自
   分たちを見ているような人間には敵意を持つものだよ。」




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