AWC 月夜話、其之壱 「 孫 」(3/3)  ■ 榊 ■


        
#1946/3137 空中分解2
★タイトル (HHF     )  92/ 7/13   7:16  (107)
月夜話、其之壱 「 孫 」(3/3)  ■ 榊 ■
★内容



   一週間後、更紗達は佐久間翁の訃報を聞いた。


   突然の死だった。
  「あの日、更紗がいつもと少し違ったのは、このためだったの?」
   舞姫が更紗に聞くと、更紗は悲しげに笑った。
   別に死を事前に察知できたわけではないのだが、この老人を楽しませてあ
  げたいという気持ちから、彼の妻だった人が乗り移ってくるのをそのまま許
  し、ときおり彼女に体の権限を譲ったりしていたからなのだ。
   舞姫はふだんの更紗と様子が違うことに気づいていたが、多分そんなこと
  だろうと思って調子を合わせていた。
   更紗と一緒に暮らしていれば、そんなことは良くあることだから。
   そして、きっと、佐久間翁も懐かしかったと思うから。
   三人は喪服に着替え、佐久間翁の邸宅に行った。
   彼の息子が喪主であった。
   三人を見かけると、彼は一通り挨拶をし、「父の遺言です。いつかホテル
  の方にいらして下さい」と告げた。
   更紗は涙が出そうだった。
   佐久間翁は約束を忘れていなかった。
  「私は約束を果たせられないのにね」
   ひとすじだけ、涙がこぼれた。


   その数日後、更紗はまたぼぅっとして木の下に座っていた。
   あの時と同じように、晴れ渡ったある夕暮れ近くだった。
   そこにリュックを背負った少年が現れ、更紗の前に立った。
   その少年をどこかで見たことがあったのだが思い出すことが出来ずにいる
  と、その少年は百円を差し出してこう言った。
  「………佐久間芳春といいます。どうか僕を引き取って下さい」
   記憶が甦った。この少年は、あの老人の孫だった。


  「何か困ったことがあったら、百円でみてあげる!」
  「嬉しいのぉ………では、こんどホテルにいらっしゃい。貸し切ってやろう」


   今度は涙は出なかった。
  「どんな理由があるか解らないけど………」
   百円を受け取る。
  「約束したからね」
   少年は少し安堵したようだった。
  「更紗ぁー! 食事よぉ!」
   舞姫の声が庭に届く。
  「夕食だっ、一緒に行きましょ!」
   そして、更紗は重そうなリュックを背負った少年の手を取り、大きな木の
  家に向かった。

   月夜の晩の、そんな話。


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                             「 後書き 」


   先ずは、御一読、有り難うございました。少しでも気に入ってもらえたら、
  幸いです。
   この作品は、いま感じていること・考えていることを短編で書き続けてい
  きたいと、ある晩に思い立ち、すぐさま設定を決め書きはじめたものです。
  そのため、この作品だけでは余分すぎる設定なども見えかくれしますが、ど
  うぞこれからの続きの方をお楽しみ下さい。

   さて、邪道とも言われますが、この話の裏話です。
   キャラの元ですが、更紗の性格はほぼ僕ですが、姿形は千堂あきほさんで
  す。ここでは出ていませんが、更紗はちょいと髪を脱色しています。好きな
  んですよ、千堂あきほさん。
   そして、萌荵は、友達のお姉さんです。あはは、いや本当にモデルみたい
  に綺麗だったんです。雨の日、弟をおくりに来たそのお姉さんは、針金のよ
  うに細いのに背が高くて、綺麗な女の子なのに髪が短くて………大きめのセ
  ーターにジーパンを着ていました。うーん、もう一度会いたい。
   舞姫の性格は僕ですが(笑)、姿形はCLAMPさんの漫画「20面相に
  おねがい!!」の詠子さんです。ずいぶん性格が違うので、重ねない方がい
  いかも知れませんが……。

   作品の裏話。一つ目、皆さんは蜩(ヒグラシ)を聞いたことがありますか?
  僕はつい先日まで千葉の片田舎にいたものですから、夕方6時と朝方4時
  (笑)の両方を聞いたことがあります。あぁ、朝4時。試験はきつかった。
  でも、本当に正確に毎日おなじ時間に鳴くんですよね。不思議なぐらい。あ
  のか細い声で、かな、かな、かな、と……。
   司馬遷の史記は絶対に面白い。御一読下さい。
   梅干し、さいきん美味しいのが無くなりましたね。僕は家で作っていた梅
  干しと、京都の田舎漬けと言う梅干しが好きでした。今でも、一番の好物は
  「梅干し茶漬け」です。
   ちなみに、僕はお酒が飲めません。その分、異様なまでにお酒に執着して
  います。銘柄や製法など、美味しい酒と聞くとついつられてしまいます。飲
  めないと言うのに………。ちなみに、漫画「夏子の酒」はいい作品です。

   そして、この話を作るきっかけですが、この「月夜話」シリーズにどうし
  ても芳春君を加えたかったのですが、兄弟と言うのは嫌だし、だからといっ
  て初めから当然にいるのも嫌だったので、ならばまず彼が神無月家に来るま
  でのいきさつを書こうじゃないか、と言う感じで始まりました。
   この街は、吉本ばななの「TUGUMI」あたりから連想を広げ、もっと
  賑やかに………昔おとずれた、お祭にうかれる賑やかな熱海のように……そ
  して、それを作った老人。芳春君はやはりこの人の孫でしょう。だったら、
  どうして引き取られるのか?
   次の話で詳しいことを書こうかと思っています。まだ、ホテルへいく約束
  も果たしていませんしね。

   それでは、次の話でまた………。


                                                            ■ 榊 ■





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