#1899/3137 空中分解2
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問題小説:岩佐由美子、汚された白衣(後編) 弾 正
★内容
4.地獄へ一直線、浅はかな女
数日後、彼女の飲食店はまったくといっていいほど客がこなかった。それもそのは
ず、この店では、その前に一家心中があったのだ。
返済の可能性もない2回目の手形の決済日が近づく彼女の元に一通の封書が寄せら
れた。
「そんな、アホな! どういうことやの!」
彼女は仰天してひっくり返った。
それは裁判所からの通知であった。その内容は天国鬼子から、天国昇に対する貞操
要求権が岩佐由美子によって侵害され、それによって被った精神的苦痛の損害賠償を
求める訴えが出されたというものであった。
そのとき、突然けたたましく玄関のチャイムを鳴らす音がした。
「はい。どなたですか」
「警察のものです。開けてください」
「警察。・・・」
彼女は唇を震わせてドアを開けた。
「岩佐由美子さんですね」
「はい。・・・そうですが」
「天国昇さんから名誉を著しく傷つけられたと訴えが出ています。署までご同行願い
ます」
「まさか。・・・そんな。・・・ひどい。・・・あんまりです」
彼女はその場で泣き崩れた。なぜ、どうして、私だけが、と。・・・
社会の秩序を乱したんやから、その始末くらいは自分でせんとねぇ。
5.火遊びのお代は高くつく
岩佐由美子が告訴されてから数日後、天国家に人相の悪い人間が数人訪ねてきた。
「天国はん。天国はんおられまっか?」
「はい、主人に何かご用でしょうか?」
「ああ、奥さんでっか。カタギ金融の極悪太郎やいいます。ご主人にちょっと話しが
おます」
カタギ金融と聞いて天国昇は、にわかにあわてた。それこそが岩佐由美子に150
0万円融資した会社である。
「何のご用でしょう?」
「何のご用かはおまへんやろ。わてら1500万の融資をしておりますのや」
「ははは、それは岩佐由美子にでしょう」
きわめて冷静に応対する天国昇。
「そうです。それで、話というのはほかでもない。二回目の決済日、見事に岩佐由美
子は、とばしてくれたんや。それで、わてら保証人であるあんたに支払ろうてもらお
と思いましてね」
「ちょっと待ってください。そういう話は岩佐由美子本人になさったらよろしいでしょ
う?」
「いや、そうはいいましても、岩佐由美子にはもう返済能力はおまへん」
「そんな。とにかく岩佐由美子に話してください。私は名前を貸しただけです。単な
る保証人ですからな。岩佐由美子にはあの店もあります。あれを売らすなりすればえ
えことでしょう?」
「あんた、ええかげんなこと言うてもろたら困りますな。あんたは単なる保証人やな
い。連帯保証人でっせ。つまり岩佐由美子の借金はあんたの借金も同じことなんや。
それに、あの岩佐由美子の物件はすでに銀行やなんかの抵当に入っとりましてな」
「・・・」
「とにかく、今すぐ払ってください。頼みます」
「ちょっと待ってくれ。岩佐由美子から取ってください。私は絶対に払いませんよ。
そんないわれはないんだ。保証人なんかおろさしてください」
それを聞くなり、極悪太郎は、突然声を荒げて、
「あほんだら! なめとったらアカンど! 公正証書組まれとんのや。今すぐこの家
差し押さえることもできんのや!」
「まさか?」
「ほんまや。あんたが保証人になるときにちゃんと公正証書にもサインしたやろ。ど
うや! ハッキリせんかい! オー!」
真っ青な顔になる天国昇と、横で聞いていた鬼子。
「あなた。・・・」
「ち、ちょっと待ってください。私自身も今、莫大な借金抱えてます。待ってくださ
い!」
涙声になりながら哀願する天国昇。しかし、
「わしらも遊びにきとんのやない! とにかく、こうなったらこっちで勝手に処分さ
せてもらいます。ほな、失礼しましたな!」
立ち上がる極悪太郎に、
「ま、待ってください! お願いします」
「ヤカマシイ!」
極悪太郎は天国昇の腹を一発殴ると、帰っていった。
天国昇はバルブ経済の崩壊によって株で大損をして莫大な負債を抱えていたのだ。
しかし、もはや後戻りはできない。
これから一生かかってもかえせるはずもない莫大な借金を抱た天国昇に、追いうち
をかけるようなカタギ金融の取立であった。
「鬼子、スマン。・・・堪忍してくれ。・・・こうなったらこの家売ってなんとかせ
なしゃあない。・・・」
確かに200坪からの土地を売れば、借金の大半は返済できる。そうしてやり直そ
う。そう決心した天国昇であった。しかし。・・・
数日後、天国病院の定例理事会が招集され、その席で、
「院長。あなたには失望させられましたな。何ということをされたのか、さぞやお父
上もお嘆きでしょう。病院を担保に融資を受け、株式に手を出していたことは明白、
多大な損害をかけられた。われわれ、天国病院理事一同は、院長、あなたを特別背任
で告訴いたします。すでに、ここにご出席でない理事のみなさまの指示もとりつけて
おります。
ああ、それから院長の自宅は売却していただきます。当然、家具や調度品も差し押
さえて病院の欠損の穴埋めといたします。よろしいですな!」
人間、地道に全うに生きることが肝心やね。
<了>
弾正(だんじょう)