AWC 殺人事件殺人事件 [7]  永山


        
#1894/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  92/ 6/27  15:22  ( 84)
殺人事件殺人事件 [7]  永山
★内容
 四.真のエピローグ
  1 告白
 山口さんは愛染君子が犯人だと言ったが、それは間違いだ。本当は、私が犯
人なのだ。そう、本岡良一。この筆者こそ、真犯人なのだ。
 まず、私が犯行可能であることを証明しよう。
 私は五連続殺人のいずれについても、アリバイがない。
 愛染近子を殺した理由は、純文で世に出ながら風俗に転換したことが挙げら
れる。いずれH出版に入る私としては、こんな恥には消えてもらいたい。が、
これは付属的な理由に過ぎない。本当は、姉の君子を犯人とするために殺した
ようなものだ。
 近子を殺すときは、H出版からもらった名刺を活用した。H出版関係者だと
知ると、彼女は愛想よく中に入れてくれた。お茶を入れると言って立ち上がっ
た彼女を殺すのは簡単だった。
 君子を犯人として追い詰めようと思ったのは、彼女が身体を売り物にしてい
るからだ。以前、女性蔑視がどうのこうのと述べたが、あれは私の意見でもあ
る。それ以上にインタビュー記事で読んだ彼女の言動が気に入らなかったこと
もある。こんな女がモデルをステップに女優なんかになるんじゃ、文化の崩壊
であると信じた。
 近子殺しについて、彼女がアリバイを持っていると分かったとき、それは衝
撃だった。まさか、あんな朝早くにアリバイがあるなんて、考えてもいなかっ
た。必死でアリバイを崩そうとしたもんだ。
 蜂八を殺したのもやはり、彼女がモデルのせいもある。が、これまた付属的
理由であり、本来は君子を陥れるためだ。
 やり方は山口さんがしゃべったので、ほぼ正しい。私は事前にスタジオのセ
ットのことを川上さんから聞いていたので、バナナを凍らせた物を用意できた
のだ。食べてしまうのには、ちょいと苦労と勇気がいったがね。
 凶器を投げ出しておかなかったのは、君子が巧妙な犯人だと思わせるためだ。
ビキニに隠せる凶器なんて、そうそうあるはずないから、こうした方がいいと
思ったのだ。
 田沼と斎藤を殺したのは、私が希望しているH出版を彼らも希望していると
知ったからだ。競争相手は少ない方がいいに決まっている。他にもH出版の学
生がいると事前に知ったら、無理矢理事件に組み込んで、殺してやったことだ
ろう。まあ、斎藤がハム通信を知っていたのは、好都合だった。この偶然に感
謝したい。
 ダイイングメッセージは、もちろん私が書いた物だ。マツーキなんて書いた
のは、いい加減な学生連中の一人をちょっと脅かしてやろうという気もあった
が、本来の目的はハム通信への伏線を張るためだった。
 名輪カメラマンを殺したのは、山口さんが話したように、犯行を見られたか
らだ。密室の作り方も、あれで正しい。セロテープの指紋は、君子がさわった
物にテープを押し付け、指紋を写し取ったのだ。
 山口さんが解決を誤ったのは、私が誘導したせいもあるが、多くは彼の無能
さに原因がある。片倉刑事も同様だ。探偵なんぞに頼るものではない。何のた
めに我々国民は税金を払っているのだ!
 ところで、事件の間に、私が最も驚かされたのは、この原稿が盗まれてしま
ったことだ。すぐに無事に戻ってきたのだが、これは本当に心臓が縮み上がる
思いだった。盗まれた原稿は実名を用いていなかったので、大丈夫だと思うが、
誰か私の犯行に気付いたのではないか? その疑惑はまだ心に残っている。
 実名に変更したのは、もう二度と盗まれるようなことがないように、気合い
を入れるためだ。

  2 約束
 ここで最初に約束した「新しいトリック」を話しますか。
 そのトリックとは、意外な被害者である。被害者と言うと、どんなに変わっ
ていても、探偵くらいのものだろう。レギュラーキャラクターを殺しても、た
いしたことはない。では、私の用意した意外な被害者とは何者か?
 読者である。
 これは、一度原稿を盗まれた結果、思い付いたのだ。
 どうやって殺すのだ、と言うだろうね。この原稿には粒子レベルの毒が付着
させてある。だから、知らずにこれを読んだ者は皆、毒で死ぬのだ。ページを
繰る度に、毒が空中に舞い上がり、それを吸ったあなたは死ぬのだ。
 どうです? あなた、苦しくなってきましたか? フフフフフフフフフフフ
フフ……。

  3 真・真のエピローグ
 どうです? あなた、苦しくなってきましたか? フフフフフフフフフフフ
フフ……。
 フを十三回重ねて書いたところで、私は万年筆を置いた。手を振って、痛み
を取る。
 ま、下らないトリックだが、新しいことは確かだ。無論、本当に毒を付ける
訳にはいかないけどな。
 私はそうして、冗談のつもりで原稿の表面を撫で、口に持って行ってみた。
 突然、苦しくなった! く、苦しい! どういうことだ? 毒なんか付けて
いないぞ! とにかく原稿を世に遺すのはまずい。燃やしてしまえ!
 私は薄れ行く意識の中、原稿に火を着けた後、以下のことを一気に考えてい
た。
 そうだ、この原稿を盗んだ奴が犯人だ。そいつが毒を……。こ、これは面白
い。意外な被害者は読者が最高だと考えていたが、もう一つ、強烈なのがあっ
たな。作者が被害者。
 いや、それだけでない。原稿は燃えてしまったのだから、もはやこの内容が
世に知られることはない。ということは、原稿を盗んだ者=読者だ。読者が犯
人。これはいい、いいぞ!
 そして私は死んだ。

−幕−




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