AWC 殺人事件殺人事件 [5]  永山


        
#1892/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  92/ 6/27  15:17  (170)
殺人事件殺人事件 [5]  永山
★内容
  5 暗号と半交換殺人もしくは共犯
 翌日の新聞には、大学の友人の一人である斎藤由紀の死亡記事があった。そ
れは殺人で、新聞記事としては、
「十三日午後九時頃、**市**区**町・*−*−*のマンションA一階の
103号室において、同室住人斎藤由紀さん(二十二才)が死亡しているのが
発見された。警察では他殺と断定、捜査を開始した。
 調べによると、斎藤さんは自室で左胸を鋭利な刃物状の凶器で刺され、出血
多量のために死亡した模様。現場に凶器はなく、また室内を物色した痕跡はな
かった。死後2〜4時間経っていた。捜査本部では斎藤さんの足取り、交友関
係を中心に調べており、加えて目撃者を捜している。
 斎藤さんはW大学経済学部四回生(以下、斎藤の経歴、W大及びAマンショ
ンの所在地等の記載、略)」
 といったところであった。
 私は彼が同じ学部で同じH出版就職を目指していたこともあって、片倉刑事
に事件の詳細を教えてくれるよう、頼んだ。
「ほぼ、新聞に出ていたままだ。ただ、これは意識的に伏せたそうだが、現場
には、被害者が記したと考えられる血文字があったらしい。『マツーキ』って
カタカナで、横書きに読めたそうだ。そのため、斎藤の交友関係を調べて、松
木信道という学生が重要参考人として呼ばれている。それと斎藤は、我々が捜
査している愛染近子殺しの新聞記事を数多くスクラップしていた。これも伏せ
てある」
 片倉刑事は、山口さんの助手だから特別に、ということでこれだけのことを
教えてくれた。もちろん、ひょっとしたら近子殺しにも関係がありそうなのも、
理由の一つなのだ。
「松木なら知ってます。やっぱりW大経済の四回で、交友も少しならあります
よ。でも、斎藤にしても松木にしても、そんなに付き合いがあるって程じゃな
いですがね」
 私は感想を述べた。
「そうだったな、本岡君も一応は交友範囲内か。その内聞込みに来るなんての
も面倒だから、今、聞いておくか。当日の斎藤の足取りは知らないかな? そ
れと、動機があるような人物は……」
「残念ながら、どちらも。で、松木には斎藤を殺す動機があるのでしょうか?」
「こじつけに近いが、先日殺されたW大の学生田沼由紀、君も知っているだろ
うが、彼女は斎藤の恋人のようだった。松木は田沼と幼なじみだったと分かっ
てるし。これに関するもつれで、松木は斎藤を殺したと……」
「松木が田沼と幼なじみだとは知っていたけど、松木が彼女を好きだったよう
には見えなかったなあ。そう言や、田沼も殺されてたんでしたね。確か、同じ
様なナイフ状の物で殺されてたとか。あれも難航しているんですか?」
「ああ。何せ、唯一の容疑者と思われていた斎藤が殺されたんだからねえ。凶
器なし、目撃者なしと来た。こっちも松木の犯行ではという声も出ているんだ
が、こいつには田沼殺しのときだけ、友人と一緒にいたっていうアリバイがあ
るんだな。そうだ、本岡君、君のアリバイを聞いておくかな。犯行時刻は……」
「やだな、冗談でしょ?」
 私が言うと、相手は大真面目で答えた。
「いや、念のためだね」
「そうだ、本岡君。ちゃんと答えなさい。田沼殺しのことを言わなんだ罰じゃ」
 山口さんまでこれだ。
「いやだなあ、山口さんまで。しょうがない、答えましょう。そんな時間にア
リバイなんてありませんよ。下宿で寝てました。ついでに言うと、愛染君子の
事件にも斎藤君の事件にもアリバイはありませんよ。ふんだ」
 私はそう言って、ふてくされてみせた。
「ははは。そこまで真面目に答えてくれるとはね。ほんと、冗談のつもりだっ
たんだけど、つい……。君には動機がないんだから、アリバイなんて聞いても
無意味だ。ははは」
 片倉刑事はそらぞらしい笑いを繰り返しながらも、私をなだめてくれている。
どうもこの人が言うと、冗談か本気か分からなくなるのだ。
「それにしても面白いの。特に、斎藤という青年が愛染近子の事件記事を集め
とったこと、それに暗号がな」
 ようやく笑いを抑えた山口さんは、別のことを言い出した。
「暗号?」
「そうじゃろ、本岡君。血文字でマツーキとあったんじゃから」
「それを言うなら、暗号じゃなくて、ダイイングメッセージでしょう」
 私がたしなめると、山口さんは参ったもせずに、言い返して来るのである。
「暗号には違いあるまい」
「しかし、暗号と言えますかね。マツーキ=松木では単純過ぎるんじゃありま
せんか」
 片倉刑事が言ってきた。
「松木という学生が犯人と決まったんではあるまい。片倉君、当日の松木のア
リバイはどうなんじゃ」
「ありません。それより山口さん、愛染近子殺しの方はどうなったんですか?」
「今、やっとるじゃろうが。斎藤は愛染近子の事件の記事をスクラップしてお
った。となると、近子、田沼由紀、斎藤由紀の三人が殺された事件は、一つの
もんとして考えられる。斎藤が数多くの殺人事件記事の内から、愛染近子のだ
けを集めておったことから、一つの推測が成り立つんじゃ。斎藤は愛染近子殺
しの犯人、仮にXとするかな。Xから、ハム通信によるアリバイ作りへの協力
を頼まれた。初めは断わったろうが、あまりに熱心なので、条件付きでOKし
たと。その条件が、田沼由紀を殺すことだ。自分がアリバイを作っている間に、
Xに田沼を殺してもらう。だから恐らく、田沼の事件での斎藤のアリバイは完
璧じゃろう。そしてXが裏切らぬよう情報を集めるため、愛染近子事件の新聞
記事をスクラップしていた。が、それも虚しく、あっさりとXに殺されてしま
った……」
「田沼と斎藤の仲は悪かったことになりますが」
 私が言うと、山口さんでなく刑事が答えた。
「その点、非常に微妙でね。人の噂はまちまちだ」
「ふーん。じゃ、かりそめにも動機はあるとして、Xはやはり、松木で?」
「断定はできん。マツーキが松木とかいう青年のことかどうか、分からん。よ
し、これから愛染君子の所へ行ってくれ。念のため、田沼と斎藤殺しのアリバ
イを調べるのじゃ」
 これは片倉刑事に対して発せられた言葉だ。だが、私も時間があったので、
ついて行くことにした。
 たまたま川上さんに教えてもらっていたのだが、その日、愛染君子はH出版
が出している週刊誌のグラビア撮影とかで、H出版所有のスタジオにいると聞
いていた。
 行ってみると、君子の他に蜂八もモデルとして来ていた。二人は水着姿で、
スタジオ内のセットは浜辺の風景。何故か果物も用意されている。オレンジ、
バナナ、パイナップル、スイカ、キウィ等々が、皿にきれいに盛り付けられて
いる。撮影用の小道具で、南国ムードを盛り上げるということだろうが、軽薄
な感じを受けた。
 川上さんもいたので、片倉刑事も含めて三人でしばらく撮影見物となった。
アリバイ調べは撮影終了後だ。
 音が写る訳ないのに、モデルの気持ちを乗せるためか、軽快な曲が流れてい
る。最初は、モデルらに適当なポーズをしてもらい、それを撮りまくっていた。
ある程度時間が過ぎると、今度は注文をつけ始めた。仲々腕のいいカメラマン
だと、私は素人目で判断した。
 さて、そんな撮影も一段落したらしく、休憩となった。その間、セットが別
の物になっていく。今度は夜の海らしい。
 片倉刑事と私は愛染君子に、田沼と斎藤殺しのアリバイを、それとなく聞い
た。と言っても、勘のよさそうな彼女は、気付いたかもしれない。
 スタジオ内は徐々に暗くなりつつあったので、私達は月明りとして使う唯一
のライトの側に立っていた。
「その頃なら、どちらも家で寝てたと思うわ。第一ねえ、そんな古いこと、覚
えていると思うの? それで? どうしてこんなことを聞くの?」
 そう彼女が言い切った折、ライトが消えた。
 真っ暗となったスタジオ内は大混乱となる。その中、女性の悲鳴。
 機転を効かせたのはカメラマンなのか、フラッシュが焚かれて、スタジオ内
が一瞬、明るくなった。が、様子は判然としない。
 ようやく天井の電灯がついた。川上さんがスイッチを捜し出したようだ。
 その瞬間、スタジオ内の人の目は、一つの死体に引き付けられたのだ。蜂八
千鶴子が死んでいたのだ。血にまみれて……。

  6 凶器
 蜂八は腹部を水着の上から刺され、死んでいた。凶器は見つかっていなく、
鋭利な刃物状の物と思われるが、ナイフのように鋭くはないとは、片倉刑事か
らの情報。
 犯行の時点でスタジオに出入りしていた人物はいなかったので、スタジオ内
にいた私、川上さん、片倉刑事、愛染君子、それとカメラマンとそのスタッフ
といったとこが容疑範囲内。表面上は、蜂八を殺すに足る動機を持つ者はいな
いと言える。先にも記したように、蜂八は物覚えが悪かったものの、人当たり
はよく、殺されるような事情は何もない。まさか物覚えが悪いのに腹を立てて
殺したなんてことはなかろう。
 そうなると、愛染近子殺しの犯人が姉の君子だとし、その彼女が自分のアリ
バイ工作がばれない内に証人の蜂八を殺したという見方が魅力的になってくる。
 消えたライトであるが、スイッチが切られただけであった。ライトのすぐ近
くにいた私や片倉刑事、愛染君子の三人にしかライトのスイッチはいじれなか
った訳で、君子は一層、疑われた。つまり、彼女がライトを消し、暗闇に乗じ
て蜂八を刺した……。
 彼女はしかし、きっぱりと反論をしてみせた。
「暗闇の中で、どうやって蜂八さんを見つけて、刺せると言うのよ。それに凶
器がないわ。私はビキニの水着だったから、刃物なんて、隠せるはずないでし
ょ?」
 確かにそうであった。暗闇でどうして刺せるかは、蜂八の遺体を調べた結果、
彼女が身につけていたワンピース水着の腹部に蛍光塗料が付着していたのが見
つかり解決したが、凶器の方は依然、見つからなかった。
 氷の凶器だとしても、犯行前、隠しておく場所がない。
 こうして、君子は証拠不十分ということで、拘束を受けずに済んでいた。
 この事件から何日か後、私は山口さんの家に出向き、山口さんに哀願までし
た。
「これはもう、解決してくれないと、困りますよ。田沼や斎藤の事件はともか
く、愛染近子と蜂八の件は連続殺人としてみられ、蜂八事件のとき、ライト近
くにいた私は、愛染君子の次に疑われてるかもしれません。片倉刑事は犯人な
訳ないのだから。今はその片倉さんの口添えがあるのかどうか、こうして自由
の身ですけど、いつ警察に呼ばれるか、おっかなくて……」
「ちょっと、本岡君。君は、犯人として考えられるのはライト近くにいた人間
だけのように言っておるが、それは違うぞよ」
 私を勇気づけるためか、山口さんは嬉しいことを言ってくれた。
「犯人はライトのソケットを抜き、もう一度コンセントに差し込んだのかもし
れん。そして後でライトのスイッチを切っておくんじゃ。こうすれば、同じ状
況となる。まあ、わしは君子が犯人じゃと思うておる。近子や蜂八を殺しただ
けでなく、おまえの学校の田沼や斎藤をも殺した犯人とな。続けざまに事件が
起こったため忘れとったが、近子の事件での君子のアリバイ破りを再開せねば
ならんのう。これはもう唯一点、いかにして蜂八に電話番号を書かせたかに絞
れる。これさえ解明できれば、その書かせた紙を蜂八の家に行って置いてくれ
ばいいんじゃ」
「で、分かったんですか?」
「いや、残念だがな。が、おぼろげながらにも、頭にぼーっと浮かびつつある
んじゃ」
 こういう風に山口さんは解決まであと一歩とこぎ着けていたのだが、もう一
つ、殺人事件は起こってしまったのだ。

−続−




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