AWC 超人仮面登場 1      赤川一郎


        
#1881/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  92/ 6/27  14:23  (146)
超人仮面登場 1      赤川一郎
★内容
『8月9日午後10時 宝石エメラルダスを奪いに参上つかまつる
                            超人仮面より』
「このようなカードが今朝、舞い込んで来たんです。何とかして下さい」
 と、原内宝石のオーナーたる原内大造が厚手のカードを手に、捜査二課の米
口刑事に頼んで来たのは、予告日数日前の昼前であった。
 これから昼食というときに邪魔をされた米口は、不機嫌そうに言った。
「今時予告状なんて、多分、いたずらでしょうが、一応、手配はして差し上げ
ます。この紙に、お宅の住所に電話番号、それから防犯設備の様子を書いて」
 米口は少し太めだが、その割に背は仲々に高い刑事である。原内の方はチョ
ビ髭で銀縁眼鏡をかけた、これまた背の高い男であるので、二人が話す様子は、
かなりユーモラスだ。
 原内は紙に言われたことを書き込むと、長い身体を折り曲げるように礼をし
て、帰って行った。その間、米口は昼食に没頭していた。
 予告日の前日、米口は一人で例のメモを頼りに、原内宝石本店に向かった。
「どれがエメラルダスですかな」
 着くや否や、米口は原内に尋ねた。
 原内は、中央にあるケースに米口を案内し、
「これがそうです。時価一千万は下りません。二十カラットのエメラルドをレ
アメタルのリングに装着しています。防犯設備の方ですが、このケースの周り
に、特に赤外線を引いています。赤外線に少しでも触れると、非常ベルが鳴る
ようになっています」
 と説明したが、米口は宝石に眼を奪われ、聞き流していたようである。
「では、明日午後九時頃、部下を十人ほど連れて参ります」
 そう言って、米口は帰って行った。
 いよいよ予告当日、米口は、赤外線を消した店内を歩き回ってばかりいる。
 後二十分というところで、店内の明りを消し、赤外線のスイッチを入れた米
口も、その部下達も、どうしてもいたいと言って残った原内も黙りこくってい
る。やたらに時計が気になる。
 そしてついに、十時ジャスト。突然、店の隅から白煙が上がった。部下達は
口に手をやりつつ、その方向へ走って行ったのだが、すでに煙が立ちこめ、訳
が分からなくなってしまっていた。部下の一人が赤外線に触れたのだろうか、
非常ベルも鳴り始める。
 と、小さくガラスの割れる音がした。誰かが急いで明りをつけたが、もはや
宝石はなくなっていた。米口が、
「外に逃げたんだ! 追え!」
 と、大声をあげて部下に命じている。彼自身も原内に詫びの言葉を入れてか
ら追いかけようとしたんだが、しかし、原内は動かない。死んでいたのだ。
 犯人も、部下達が追いかけようと外に出たときには、その姿はどこにも見あ
たらなかった。
 原内の死因は、カッターナイフによる動脈切断、出血多量によるものであっ
た。凶器そのものは現場に遺されていた。もう一つ、遺されていた物があった。
『宝石は頂いた 私を捕らえたいのなら 名探偵の赤川修にでも頼むことだ
                            超人仮面より』
 というカードだ。
 捜査の結果、分かったことは、犯人は店の裏口から侵入したらしく、鍵が針
金で開けられていた。煙を出したのは、手製の発煙筒にタイマーを取り付けた
物だった。また、当然ながら、指紋は検出されなかった。
 米口は、吉野刑事や浜本刑事を通じて、赤川修に協力を求めてきた。赤川は、
「交通信号殺人事件」以来の久々の大事件とあって、張り切っているようだ。
吉野と浜本も、殺人が起こったこともあって、捜査に加わることになった。
「それにしても、まだ一つの事件しか解決していない自分を、名探偵と呼んで
くれるなんて、変わった怪盗だなあ。その上、アルセーヌ・ルパンみたいなの
と違って、殺人まで犯すとはね」
 赤川修は、呆れ顔で言った。すると、米口刑事が申し訳なさそうに言う。
「私の責任で、殺人まで起きてしまって……」
「それは運もありますよ。それにしても、米口さんが二十分前まで店内を歩き
回っていたのに、発煙筒が見つからなかったのはおかしいですね。店内に忍び
込んでから発煙筒を投げてもいいと思うのに。これじゃあ、タイマーの意味が
ない。それに、どうして原内さんを殺す必要があったのか、分からない。さら
に、煙に紛れて店内から脱出した後、どうやって話に聞くほど早く逃げること
ができたのかも分からない。三つも分からないことがある。いや、この僕を『
名』探偵と呼んだことを入れると四つか」
「冗談を言ってる場合じゃないですよ、赤川さん。真面目にお願いします。犯
人はもう、現れないかもしれないのに、困りますな」
 吉野がぶりぶりしながら言うと、赤川は、
「大丈夫でしょう。こういうタイプの犯罪者は、一度味をしめると、繰り返し
たくなるみたいですから」
 と言った。
 それと同時に、吉野らの部下が一人、やって来た。
「先ほど、こんな物が届きました」
 吉野に手渡されたのは、次のような文面のカードであった。
『先日は失礼をした どうやら赤川修が加わったようなので 勝負が楽しみだ
そこで今回の私のターゲットは 友広貴金属にある”太陽の涙”とする 9月
8日午後10時に参上つかまつる
                            超人仮面より』
「ほら、言った通りでしょう。こんな奴は、自己顕示欲が強いんだ。ところで、
原内さんを恨んでいるような人は、見つかりましたか?」
「今のところ、見つかってない」
 修の問いに、吉野は短く答えた。

 友広貴金属のオーナー、友広仁は六十は過ぎているのだが、背筋のしゃんと
した、快活な男であった。彼は、
「ああ、そのカードなら、ウチにも来てますな。でもですな、いたずらに決ま
っとると思いまして、警察には届けず、ごみ箱に放ってやりましたよ。まあ、
警備してくれるのでしたら、拒みません。税金のありがたみを知りたいもので
すからなあ」
 と、訪ねてきたばかりの赤川や刑事達に言ってのけた。
 店にはこれといった防犯設備はなく、手で押す型の非常ベルくらいのものだ
った。
「今度の警備には、前の十人とは違う部下を連れて来た方がいいでしょうかね。
十人の中に、犯人がいなかったとも限りませんから」
 米口は、みんなが驚くようなことを言った。
 赤川も驚いた表情で、
「へえ、あなたはご自分の部下の中に、犯人がいると思っていらっしゃるので
すか。つまり、犯人を追うふりをして、宝石を持ち出したということですか」
 と言った。米口がそれに応対する。
「可能性はあるでしょう」
「いや、ありませんよ。何故なら、あなたの部下に犯人がいたとしても、その
人は、自分が警備の任務につかされるかどうか、当日まで分からなかったんで
しょう? でしたら、彼らが犯人であるはずがない」
 赤川の説明に、米口ら刑事は、納得した様子だった。
 さて、またしても、いよいよ予告当日となった。前回と同じく、二十分前に
明りを消そうとしたところ、赤川修が叫んだ。
「待った! 明り、消さないで下さい。証拠はないんですが、私には犯人が分
かりました。それは、この店内にいます」
「ちょちょっと待って下さい。あなたはこの前、部下の中に犯人はいないと言
った。となると、犯人は我々刑事か、友広さんか、あなたかということになる
んですよ」
 米口が驚き顔で聞き返した。
「もちろんです。はっきり言ってしまえば、米口さん、あなたが超人仮面だ。
理由は単に、あなたが犯人でないと、理屈に合わないからです」
「……」
 米口は黙ったままだった。代わって、吉野刑事が異義を唱えた。
「それは重大発言だ。責任持って、言ってもらいたいもんだが」
「ええ。大丈夫、大丈夫です。まず、米口さん。あなたは警備に着く前に、裏
口の鍵を開けた。いかにも針金で開けたような細工をしてです。警備に着いて
からは、店内を歩き回り、予定時間の二十分前までは、発煙筒が店内になかっ
たことを、部下達に印象づけた。そして十時、予定通り、煙が出てきて、その
混乱に紛れて宝石を奪い取り、外へ犯人が逃げたように誘導し、部下達を外に
追い出した」
「何、言ってるんです。私は、第一の事件を引き受けるかどうか、カードが来
るまで分からないんですよ」
 米口はやっと反論した。
「そう来ると思っていました。あなたは、いや、君は、米口刑事がこの事件を
受け持ったと知るや、米口刑事を殺し、入れ替わったんだろう。つまり、偽の
米口刑事だ。超人仮面、覚悟しろ! 変装を剥してやれば、証拠は充分なんだ
!」
 そう叫んで、赤川は超人仮面に飛びかかろうとすると、相手は素早く身をか
わし、あっという間もなく、外に逃亡してしまった。しかも、太陽の涙をも持
って。時計は丁度、十時を指していた……。
 憎らしいことに、またもカードを遺してさえいたのだ。
『赤川修君 君の推理はさすがだ 私がライバルと見込んだ通りの男だ とこ
ろで 君は 私が原内を殺した理由を分かっていないようだね 特別に教えて
やると これは私の信条なのだ 私は ルパンのように犯罪者でありながら人
は殺さぬと言うような 義賊ぶるのは大嫌いだ 私は 悪を実行するには 殺
人でも何でも犯すということを信条とするのだ 今度の殺しは その決心を強
める意味もあるのだ それではまた 会える日を楽しみにしている
                            超人仮面より』
「何て奴だ」
 浜本刑事が吐き捨てる。
「でも、これで自分も、世界的に有名になれるチャンスが出てきたな。ホーム
ズや明智小五郎だって、モリアーティや怪人二十面相がいたからこそ、あんな
名探偵ぶりを発揮できたんだから」
 少し皮肉っぽく、赤川は言った。

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